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幕間 あなたに捧げる二、三の断章
第三話
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なつかれて嬉しいと思う一方、私は、須藤さんとの付き合いになかなかなじめなかった。
いつもいつでも優しい彼女を受け入れることができずにいた。
「どうせすぐに飽きて、他の人のところに行くよ」と信じ込んでいた。
そして、私は、……最低なことをしたんだ。
二人で買い物に出かけようって話になって、駅で待ち合わせをしたんだけれど、そのとき、私……、わざと遅れたんだ。
午前十時に約束したのに、お昼になってから待ち合わせの場所に行ったの。
実は、それ、わざとしたことだった。
二時間も遅刻したら、さすがに私のことを嫌いになってくれるかなあって思ったの。
私、ひとから好かれた経験ってあんまりないから、……嫌われてばかりいたから、ストレートに愛されることに慣れていないんだよ。
だから、須藤さんが私のことを嫌いになるように計画を練ったんだ。
愛されれば愛されるほど、不安になってしまうから。
失うことが怖くてどうしようもなくなるから。
だけど。
須藤さんは、私のことを嫌いにならなかった。
約束の場所に現れた私を見るなり、「先輩、大丈夫ですか!?」って言って駆け寄ってきたの。
さらには、「先輩、ここに来るのに電車を利用するって言ってましたから、……だから、事故にでも巻き込まれたんじゃないかって心配していたんです」と言ってきたんだ。
私は自分を恥じた。
彼女の気持ちを試してしまったことを、心から後悔した。
これほど後悔した経験、ほかになかった。
「ごめん」って言った。そして、真相を明かした。「絶対嫌われる」って思いながら、本当のことを話した。
でも、須藤さんは怒らなかった。
いつものように明るく笑いながら、「なぁんだ、そういうことですか」と言った。「事故じゃなくてよかったです」とも言ってくれた。
それでね、彼女の日だまりみたいな笑顔を見ていたら、ふいに涙があふれてきたんだ。
自分でもなんで泣いてしまったのかわからなくて、私は焦った。
「須藤さん、いきなり目の前で泣かれてびっくりしたんじゃないかな」と思った。
もちろん、すぐに謝った。
駅の中はいつも混雑しているから、私たちは通りすがりの人たちの注目を浴びたろうなと思う。
あんな人通りの多いところで泣かれて、彼女に迷惑をかけてしまっただろうなとも思う。
だから、私は謝った。「こんなところで泣いてごめん」と頭を下げた。
須藤さんは、「大丈夫ですよ」と言ってくれた。
「たくさん泣いて、ゆっくり元気になるといいですよ」と言ってくれた。
彼女のその言葉を聞いて、私はようやく涙のわけを知った。
……安心、したんだ。
「もう誰のことも警戒しなくていいんだ」と理解したから、泣いてしまったんだ。
私の心には、いつでも高いバリケードがあった。「他人は私の心を傷つける存在でしかない」と認識していた。
けれど、──須藤さんは、そんな私に優しい言葉を投げかけてくれた。「大丈夫ですよ」って言ってくれた。
だから、私は泣いてしまった。
悲しいから泣いたのでなく、安心したから泣いてしまったんだ。
心を覆っていた分厚い氷が解けて、その反動で涙がいっぱいこぼれてしまったんだ……。
【続く】
いつもいつでも優しい彼女を受け入れることができずにいた。
「どうせすぐに飽きて、他の人のところに行くよ」と信じ込んでいた。
そして、私は、……最低なことをしたんだ。
二人で買い物に出かけようって話になって、駅で待ち合わせをしたんだけれど、そのとき、私……、わざと遅れたんだ。
午前十時に約束したのに、お昼になってから待ち合わせの場所に行ったの。
実は、それ、わざとしたことだった。
二時間も遅刻したら、さすがに私のことを嫌いになってくれるかなあって思ったの。
私、ひとから好かれた経験ってあんまりないから、……嫌われてばかりいたから、ストレートに愛されることに慣れていないんだよ。
だから、須藤さんが私のことを嫌いになるように計画を練ったんだ。
愛されれば愛されるほど、不安になってしまうから。
失うことが怖くてどうしようもなくなるから。
だけど。
須藤さんは、私のことを嫌いにならなかった。
約束の場所に現れた私を見るなり、「先輩、大丈夫ですか!?」って言って駆け寄ってきたの。
さらには、「先輩、ここに来るのに電車を利用するって言ってましたから、……だから、事故にでも巻き込まれたんじゃないかって心配していたんです」と言ってきたんだ。
私は自分を恥じた。
彼女の気持ちを試してしまったことを、心から後悔した。
これほど後悔した経験、ほかになかった。
「ごめん」って言った。そして、真相を明かした。「絶対嫌われる」って思いながら、本当のことを話した。
でも、須藤さんは怒らなかった。
いつものように明るく笑いながら、「なぁんだ、そういうことですか」と言った。「事故じゃなくてよかったです」とも言ってくれた。
それでね、彼女の日だまりみたいな笑顔を見ていたら、ふいに涙があふれてきたんだ。
自分でもなんで泣いてしまったのかわからなくて、私は焦った。
「須藤さん、いきなり目の前で泣かれてびっくりしたんじゃないかな」と思った。
もちろん、すぐに謝った。
駅の中はいつも混雑しているから、私たちは通りすがりの人たちの注目を浴びたろうなと思う。
あんな人通りの多いところで泣かれて、彼女に迷惑をかけてしまっただろうなとも思う。
だから、私は謝った。「こんなところで泣いてごめん」と頭を下げた。
須藤さんは、「大丈夫ですよ」と言ってくれた。
「たくさん泣いて、ゆっくり元気になるといいですよ」と言ってくれた。
彼女のその言葉を聞いて、私はようやく涙のわけを知った。
……安心、したんだ。
「もう誰のことも警戒しなくていいんだ」と理解したから、泣いてしまったんだ。
私の心には、いつでも高いバリケードがあった。「他人は私の心を傷つける存在でしかない」と認識していた。
けれど、──須藤さんは、そんな私に優しい言葉を投げかけてくれた。「大丈夫ですよ」って言ってくれた。
だから、私は泣いてしまった。
悲しいから泣いたのでなく、安心したから泣いてしまったんだ。
心を覆っていた分厚い氷が解けて、その反動で涙がいっぱいこぼれてしまったんだ……。
【続く】
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