かけがえのない君に告ぐ

春原しずく

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幕間 あなたに捧げる二、三の断章

第四話

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そして私は、自分が年下の子を苦手としているわけも悟った。
……ねたましかったんだ。

ほら、子どもって、無条件で愛されるでしょ。
愛されない子も中にはいるけど、大体だいたいは、大事にされて当然って扱いを受けているじゃない?

だから、妬ましまった。
幸せな時間を約束されている子どもたちのことが、とても憎かった。
自分にないものを持っている彼らに、私は嫉妬していた。すごく嫉妬していた。

でも須藤さんに出会ってから、その回数が減ったような気がする。
心が少し安定したから、その分、子どもたちのことを妬む気持ちが薄れたんじゃないかなって、自分では思っている。

それと。

「須藤さんは、絵を描いている私を見て、私のことを好きになった」って話したでしょう?
実は、須藤さん、私と同じ緑化委員りょっかいいんに所属しているんだって。

それで、委員会が始まる前、一心不乱いっしんふらんに絵を描いている私を見て、「いいなあ。この人、絵を描くことが大好きなんだなあ」って思ったんだって。

うん。
確かに、絵は好きだよ。

だけど、スケッチブックにいつも向かっていたのには、他にも理由がある。

先にも話したように、私にとって他人は自分の心を傷つける存在でしかなかった。
だから、暇さえあれば絵を描いた。
顔を伏せて絵を描いていれば、他人と目を合わせずに済むもんね。

でも、最近になって、「もったいないことをしたなあ」って考えるようになった。
もしかしたら、私のことを好意的な目で見てくれる人もいたかもしれないのに、……顔を伏せていなければ、その人たちの視線に気づけたかもしれないのに、私はうつむいてばかりいた。
顔を上げる勇気がなかったから、ずっと下を向いて絵を描いていた。

「顔を上げたいな」と思った。
「顔を上げて、人の顔をちゃんと見るようにしたい」と思った。

それと、もうひとつ伝えておきたいことがあるんだけど。

以前、「私の絵をめてくれたのは、龍源寺りゅうげんじさんがはじめてだよ」って言ったよね。
けど、それ、……違うんだ。

いちばん最初に絵を褒めてくれたのは、母だった。
父の浮気が発覚する前、……まだ母が狂っていなかった頃、あの人、私の絵を褒めてくれたんだ。
外に出ると毎回のように画材を買ってきて、「これで絵を描きなさい」って言ってくれたんだ。
そして、誰よりも私のことを応援してくれた。

いま気づいたことなんだけれど、母は父に恋をしていたんだと思う。
「家族が相手なのに恋をするなんて変なの」と思われるかもしれないけど、母は父のことが大好きでたまらなかったんだと思うんだ。
父が出張から帰ってくると、真っ先に迎えに駆けつけていたぐらいだもの。

それに、父のそばにいるときの母は、いつもにこにこしていた。
本当に、本当に、嬉しそうな顔をしていた。

……だから父に裏切られて、あの人、相当落ち込んだんじゃないかなって、いまは思う。
本当は父に裏切られて泣きたかったのに、いろんなしがらみがあって泣けなかったから、怒ったんだろうなって思う。

だって、私もそうだったもん。
本当は悲しくてたまらないのに、うまく泣けないものだから、怒りという感情を表に出して自分の気持ちをごまかしていた。

母もたぶんそうだったんじゃないかな。
心にある悲しみをうまく表現できなかったから、怒りという感情でごまかしてしまったんじゃないかな……。
あの人が死んだいまとなっては、確かめる手段がないのだけれど。

最後に。

龍源寺さん。
私は、君に出会うことができてよかったと思っている。
君への恋は破れてしまったけれど、不思議と後悔はしていない。
君に出会って、自分自身のかたかえりみることができた。だから、君に感謝している。

それに。

「この世には、信頼するにあたいする人もいるんだ」って、君に出会ってようやく理解することができた。
「この世界には、人が人を想う優しい感情もある」と気づくことができた。

それもこれも、君が私の本音を真正面から受け止めてくれたおかげだよ。

だから、もう一度礼を言うね。
ありがとう、龍源寺さん。私、君に出会えて本当によかった。

ありがとう。

二〇××年 十月某日ぼうじつ 
上月巴こうづきともえ

【終章に続く】
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