治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう

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1章

休みとは

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「さて、休憩もらっていいとは聞いたものの、どうしようか......」

 何処に行くか、何をするか、そしていつ戻るか、一切考えないまま治療院から出てきてしまった。
 ついでに言えば、持ち物も偶然ポケットに入れていた銀貨二枚と銅貨九枚。暇をつぶすには十分すぎるほどの量ではあるが、それでも後々の心配が残るのは確か。

 ロードの中で悩む点はこれからどうするか、という点よりも金を使うか否か、になっていた。

「とりあえず、散歩でもしてみるか」

 数分後、なんとも段取りが悪いものに結局娯楽を決めないことには金を使うかどうかすら考えられない、と、大通りを歩き始めた。



「何故こうなった......」

 俺は今、自身の身についた習慣に驚いている。
 散歩をすると言ったのに、気が付いたらギルドに到着していた。
 特にすることもないが......まぁ、来てしまったから、一回顔だけ出しておくか。
 そう思いながらドアを開く。
 今日の深夜二時とは違い、活気があった。
 依頼の量も比べ物にならないほどだった。
 が、どうせ一人、依頼は受けられないから酒場へと行く。
 いつも通り、と言ったらなんか悲しくはなるが、酒場は六割程度が埋まる程度には盛況していた。

「ちょっと早いけど......まぁいいや」

 ちょうど小腹が空いたころだった。
 よくよく思いだせば、今日の朝食は深夜に食べた野菜スープ一つだった。
 やりたいこともあったし、ちょうど空いていたカウンター席に座って注文を入れる。

「スープ一つ」

「あいよ」

 周囲のテーブル席とかにパーティーで座っている人がいたりして、結構な騒がしさだけどカウンターだったから助かった。

「ほらよ」

 案外早く出てきたスープをすする。
 これいっぱいで昼から夕方にかけて耐えられるかと聞かれたらまぁ無理だ、と答えるだろうけど、正直これ以上食べたら所持金が不安になって集中できないだろうから、食事のほうは全部夕方の俺に丸投げすることにして、今やることに集中する。
 今集中してすること、それは端的に言えば情報収集。
 騒がしい、雑音だったその音に耳を傾け、冒険者たちの口から無防備に語られる情報を集める――――

「――――だってよ! それでさ――――」

「ギャハハハハ! そんなことが――――」

 そんな俺にとって無意味な雑音から、有益な情報だけを取っていく。

「最近怪我――――いよな」

「確かに、魔物が――――」

「だよ――――」

 俺のちょうど後ろ、三人組のパーティーが何かを話していた。
『怪我』『魔物』ってところなら......怪我が増えているのは魔物のせい、って感じなのか?
 確かにほかのところも、魔物というワードが多く聞こえる。いつも自慢ばかりのやつらが、敵を評価するのは疑問がある。
 が、そう推測するものの、まだまだ情報不足。ギルドで聞いてみるに限る。

 俺はギルドの受付に行くと、新人のような職員に聞いてみる。

「最近、魔物が強くなっている気がするんだが......」

 八割どころか十割嘘の情報。俺が魔物関連の情報なんて集められるはずがない。
 だが、それをギルド職員が知る由もない。

「確かに、そのような報告が増えていますね......調査した結果も、二割から五割増しで魔物が強くなっているとの情報が。どんどんと強くなっているとの声もありますし、一応、気を付けてくださいね」

「ありがとう。助かるよ」

 さて、情報が確実だと分かった。
 ギルド職員をだますような扱いは少し心が痛むが情報のためだ。仕方がない。
 それよりも、やはり魔物が強くなっているらしい。
 現場確認はできないけど一応、聖女様に報告......いや、いいか。

 あれだけの信徒を抱える宗教と治療院のトップと言っても差し支えないほどの権力をもち、さらに美貌も持っている。そんな人がこの情報をつかんでいないわけがない。

 と、そこでやっと思いだした。

「俺、今休憩時間では?」

 どうやら俺に、休憩という時間は似合わないのかもしれない。
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