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1章
幕間 崩壊したパーティー
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「おりゃ......クソっ!」
ケルヴィンが放った、大きく振りかぶった一撃。だが、隙が大きく生まれる攻撃だったというのに、魔物の皮膚を浅く切っただけ。致命傷はもちろん、ダメージとしても、到底期待できるものではなかった。
「ケルヴィン、撤退だ」
マルコはすぐに盾を構えなおし、後ろに飛んだ。
クレディは俯きながらも了承した。
「クソっ、クソっ!」
ケルヴィンは、まるで子供のように悪態をつくしかできなかった。
「戦闘は、極力避けよう」
マルコの一言が、二人に重くのしかかる。
クレディにとっては痛感する差を、ケルヴィンにとっては認められない現実として。
「依頼は、戦闘をしなくても大丈夫だ」
マルコが今一度確認を取る。
今回受けたのは森を超えた奥にある山の、その頂上に生える薬草の採取だった。
これまで何度も討伐依頼を失敗したせいで、採取依頼しか回ってこなくなったのだ。
が、その事実を知っているのはマルコだけ。クレディは薄々察しているが、それを口には出さない。
ケルヴィンが、いつまた怒り出すか、癇癪を起こすかわからないから。
「それで、これからどうするの?」
クレディは話を変える。
もう戻れない昔よりも、これからどうできるかを知りたかった。
「そうだね、これから山の麓の村に行こうにも、魔物と遭遇してこんな風に時間を取られるなら、ここで野宿したほうがよさそうだ。すぐに、テントを張ろう」
「わかったわ」
「......チっ!」
大人しく従うクレディ。それに対してケルヴィンは舌打ちをした後「少し周りを見てくる」とだけ言ってどこかへと歩き出して行った。
「今戻った」
「おかえり......何その怪我!」
もう太陽は沈み、足元も良く見えないくらいの深い闇に包まれた時、ようやくケルヴィンは戻ってきた。
その体中に、魔物から受けたであろう傷を残して。
流石に、クレディも声を抑えてはいられなかった。
「気にすんな、俺はもう寝る」
二人はとうに食べた夕食を放置し、ケルヴィンはテントのある方へと向かう。
「ケルヴィン、テント建ててないでしょ?」
「あぁ? 誰がそんな面倒なこと......あぁ、そうかよ」
今まではロードがすべてしていた。
テント設営、怪我の治癒、夕食の準備。そういえばその間ケルヴィンは同じように、どこかに狩りをしに行っていた。
ケルヴィンは「あぁあもう!」と怒りながら手をクレディに突き出した。
「どうしたの?」
「どうした、じゃねぇよ、ポーション寄越せ」
「ないわよ、後衛だから元からそこまで持ってないし、それもさっき使い果たした。ケルヴィンが怪我をしてたら私たちも戦闘苦しくなるから治癒魔法を使うけれど、明日怪我されたら治癒間に合わないわよ。
クレディは注意喚起を行う。
「それより、ケルヴィンが自分で補充してないの?」
そう、それもロードがしていた仕事。それに気づいたケルヴィンは流石に顔が真っ青になるようだった。
怪我をすればもう治せないという事実が、傷に染みるように感じていた。
もちろんマルコは数本、蓄えているだろうが、それをもらいに行ったら「僕の分はどう考えているんだい?」などと問われて結局くれないことくらい想像がつく。
完全に今、悪いのは自分だと、ケルヴィンは理性はそう理解していた。だが、本能が未だに認められないでいた。
「クソが、もう俺は寝る」
「見張り番、今日はケルヴィンよ」
ケルヴィンは今、クレディの言葉ですら煩わしく感じていた。
何もかもを一人に押し付けていた代償。
それは、今の彼らに重く、のしかかっていた。
ケルヴィンが放った、大きく振りかぶった一撃。だが、隙が大きく生まれる攻撃だったというのに、魔物の皮膚を浅く切っただけ。致命傷はもちろん、ダメージとしても、到底期待できるものではなかった。
「ケルヴィン、撤退だ」
マルコはすぐに盾を構えなおし、後ろに飛んだ。
クレディは俯きながらも了承した。
「クソっ、クソっ!」
ケルヴィンは、まるで子供のように悪態をつくしかできなかった。
「戦闘は、極力避けよう」
マルコの一言が、二人に重くのしかかる。
クレディにとっては痛感する差を、ケルヴィンにとっては認められない現実として。
「依頼は、戦闘をしなくても大丈夫だ」
マルコが今一度確認を取る。
今回受けたのは森を超えた奥にある山の、その頂上に生える薬草の採取だった。
これまで何度も討伐依頼を失敗したせいで、採取依頼しか回ってこなくなったのだ。
が、その事実を知っているのはマルコだけ。クレディは薄々察しているが、それを口には出さない。
ケルヴィンが、いつまた怒り出すか、癇癪を起こすかわからないから。
「それで、これからどうするの?」
クレディは話を変える。
もう戻れない昔よりも、これからどうできるかを知りたかった。
「そうだね、これから山の麓の村に行こうにも、魔物と遭遇してこんな風に時間を取られるなら、ここで野宿したほうがよさそうだ。すぐに、テントを張ろう」
「わかったわ」
「......チっ!」
大人しく従うクレディ。それに対してケルヴィンは舌打ちをした後「少し周りを見てくる」とだけ言ってどこかへと歩き出して行った。
「今戻った」
「おかえり......何その怪我!」
もう太陽は沈み、足元も良く見えないくらいの深い闇に包まれた時、ようやくケルヴィンは戻ってきた。
その体中に、魔物から受けたであろう傷を残して。
流石に、クレディも声を抑えてはいられなかった。
「気にすんな、俺はもう寝る」
二人はとうに食べた夕食を放置し、ケルヴィンはテントのある方へと向かう。
「ケルヴィン、テント建ててないでしょ?」
「あぁ? 誰がそんな面倒なこと......あぁ、そうかよ」
今まではロードがすべてしていた。
テント設営、怪我の治癒、夕食の準備。そういえばその間ケルヴィンは同じように、どこかに狩りをしに行っていた。
ケルヴィンは「あぁあもう!」と怒りながら手をクレディに突き出した。
「どうしたの?」
「どうした、じゃねぇよ、ポーション寄越せ」
「ないわよ、後衛だから元からそこまで持ってないし、それもさっき使い果たした。ケルヴィンが怪我をしてたら私たちも戦闘苦しくなるから治癒魔法を使うけれど、明日怪我されたら治癒間に合わないわよ。
クレディは注意喚起を行う。
「それより、ケルヴィンが自分で補充してないの?」
そう、それもロードがしていた仕事。それに気づいたケルヴィンは流石に顔が真っ青になるようだった。
怪我をすればもう治せないという事実が、傷に染みるように感じていた。
もちろんマルコは数本、蓄えているだろうが、それをもらいに行ったら「僕の分はどう考えているんだい?」などと問われて結局くれないことくらい想像がつく。
完全に今、悪いのは自分だと、ケルヴィンは理性はそう理解していた。だが、本能が未だに認められないでいた。
「クソが、もう俺は寝る」
「見張り番、今日はケルヴィンよ」
ケルヴィンは今、クレディの言葉ですら煩わしく感じていた。
何もかもを一人に押し付けていた代償。
それは、今の彼らに重く、のしかかっていた。
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