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2章
一か月
地獄は、訓練初日から始まった。
「継承できなかった理由にきっと気づきますよ」
大聖女様がどこか遠いところを見ながらもそう言った。
そして次の瞬間、矢が飛んできた。
先端はやわらかい素材で勢いも本物のそれとは大きく離れていたが、それでも当たると確実に痛いだろう。
そして当たる直前でその矢は止まった。
いや、止められたという方が表現としては正しかった。
確かに、よく見ればそこには壁のようなものが作られていた。
これが結界か、と俺はそれをじっと見る。だが、全く分からない。
「こうしてください。わかりましたか?」
そして大聖女様の一言。
それだけでなんとなくだが、大聖女様の言っていた意味が分かったような気がする。
利便性が高いにも関わらず喪失魔法になってしまうほどに、継承者が少ないその理由。
術式のように誰もが使えるようになっておらず、それを見よう見まねで習得していた、ということだろう。
俺はその難易度を再認識させられる。
それは独学で治癒魔法を使うのとは訳が違う。ある程度――金持ちだけとはいえ――形式として学び方が整うほどの難易度の治癒魔法と、人類が知恵を絞ってなお汎用化できなかった結界魔法では、雲泥の差があるだろう。
「わ、分かりました......」
俺はそっと、バフを用意する。
「あぁ、そうだ」と大聖女様が何かを思い出したように手を叩く。
「バフと治癒魔法は使用禁止です。頑張りましょう」
その瞬間、絶望が俺の中を駆け巡った。
だが、地獄はこれからだった。
「さて、今日で一週間。未だ片鱗も出来ていないので、さらに厳しくしますね」
そう言って、矢の先端が金属のものを見せられた。
まさか......と俺は声を漏らさずにはいられなかった。
「そのまさかですよ」
そして矢が打ち出される。
急所こそ外されているものの、俺の体は痣だらけだ。治癒も禁止されていれば、いくら優しかったとしてもそうなることくらい想像できるだろう。
その威力は骨折には至らないものの、非常に痛い。じんじんと痛みがそこに残る中、大聖女様は終始笑顔で口にした。
「聖女アミリアは体に痣があれば私が怒られるので治癒して良いですよ」
「あ、ありがとうございます」
そう言って、アミリアさんは自分で体の痣を治癒した。
なんとも理由が悲しいが、確かに女性はそう言ったことを気にするのかもしれない。
俺も気にしている、と言えば治癒を許してくれるだろうか。
「それでは、訓練を始めましょう」
大聖女様は、お前は駄目だと言わんばかりの笑顔で開始を宣言するのだった。
こうしてひと月の間、ひたすらに訓練に......というより週ごとに強くなる矢に撃たれるという半分拷問のような環境で耐え、最終日になってもそれは習得できなかった。
「まぁ、仕方ないですね。私でも三か月ほどかかっていますから」
「そうなんですか」
「帰ってからも練習をするのですよ。才能はあります、続けていればいつか実るでしょう。あぁ、もう治癒しても大丈夫ですよ」
その言葉を待っていた。俺はすぐに全身に治癒を使用した。
骨とかは幸いに折れることはなく、ただただ痛くて眠れないだけだったが、それから解放されるのは実に良いものだ。
「「ありがとうございました」」
「いえいえ。また来た時に習得出来ていなかったら......もう一度ですよ?」
満面の笑みを浮かべる大聖女様。いじめるのが好きとか、そう言う趣味なんだろうか。まぁそれを目上の人に軽く聞けはしないが。
「忘れ物はありませんか?」
「はい、大丈夫です」
アミリアさんは、俺に再確認をする。
まぁ、そこまで重要なものは元から持っていなかったし、渡されたお土産もちゃんと持った。
「長いようで短いような一か月でしたね。まぁ、お別れの挨拶、というほど遠く離れるわけでもないですが、体には気を付けるのですよ、聖女アミリア、そして聖者ロード」
「はい、一か月ありがとうございました!」
アミリアさんは大聖女様の手を握る。
この一か月で、二人の壁みたいなものが少なくなった気がする。
俺はまだ距離を感じているが......まぁ、二人ほど大聖女様と親密にならなければならないこともないだろう。
「そうだ、一応警告を。二人の関係については、まだ発表時期は未定です。それまではくれぐれも外部に漏れないように、お願いしますね」
「あぁ、はい、わかりました」
関係、というのはつまり結婚のことだろう。
これからもアミリアさんは未婚の聖女として活動をするためか、それともほかの宗教的事情があるのか。
詳しくはわからないが、要は人目のあるところでいちゃつくな、ということだ。
「それでは、一か月、お世話になりました」
「大聖女様、ありがとうございました」
「お元気で。またたまにはこちらに来るのですよ」
そしてアミリアさんと俺は転移魔法陣を使用し、治療院へと戻るのだった。
「継承できなかった理由にきっと気づきますよ」
大聖女様がどこか遠いところを見ながらもそう言った。
そして次の瞬間、矢が飛んできた。
先端はやわらかい素材で勢いも本物のそれとは大きく離れていたが、それでも当たると確実に痛いだろう。
そして当たる直前でその矢は止まった。
いや、止められたという方が表現としては正しかった。
確かに、よく見ればそこには壁のようなものが作られていた。
これが結界か、と俺はそれをじっと見る。だが、全く分からない。
「こうしてください。わかりましたか?」
そして大聖女様の一言。
それだけでなんとなくだが、大聖女様の言っていた意味が分かったような気がする。
利便性が高いにも関わらず喪失魔法になってしまうほどに、継承者が少ないその理由。
術式のように誰もが使えるようになっておらず、それを見よう見まねで習得していた、ということだろう。
俺はその難易度を再認識させられる。
それは独学で治癒魔法を使うのとは訳が違う。ある程度――金持ちだけとはいえ――形式として学び方が整うほどの難易度の治癒魔法と、人類が知恵を絞ってなお汎用化できなかった結界魔法では、雲泥の差があるだろう。
「わ、分かりました......」
俺はそっと、バフを用意する。
「あぁ、そうだ」と大聖女様が何かを思い出したように手を叩く。
「バフと治癒魔法は使用禁止です。頑張りましょう」
その瞬間、絶望が俺の中を駆け巡った。
だが、地獄はこれからだった。
「さて、今日で一週間。未だ片鱗も出来ていないので、さらに厳しくしますね」
そう言って、矢の先端が金属のものを見せられた。
まさか......と俺は声を漏らさずにはいられなかった。
「そのまさかですよ」
そして矢が打ち出される。
急所こそ外されているものの、俺の体は痣だらけだ。治癒も禁止されていれば、いくら優しかったとしてもそうなることくらい想像できるだろう。
その威力は骨折には至らないものの、非常に痛い。じんじんと痛みがそこに残る中、大聖女様は終始笑顔で口にした。
「聖女アミリアは体に痣があれば私が怒られるので治癒して良いですよ」
「あ、ありがとうございます」
そう言って、アミリアさんは自分で体の痣を治癒した。
なんとも理由が悲しいが、確かに女性はそう言ったことを気にするのかもしれない。
俺も気にしている、と言えば治癒を許してくれるだろうか。
「それでは、訓練を始めましょう」
大聖女様は、お前は駄目だと言わんばかりの笑顔で開始を宣言するのだった。
こうしてひと月の間、ひたすらに訓練に......というより週ごとに強くなる矢に撃たれるという半分拷問のような環境で耐え、最終日になってもそれは習得できなかった。
「まぁ、仕方ないですね。私でも三か月ほどかかっていますから」
「そうなんですか」
「帰ってからも練習をするのですよ。才能はあります、続けていればいつか実るでしょう。あぁ、もう治癒しても大丈夫ですよ」
その言葉を待っていた。俺はすぐに全身に治癒を使用した。
骨とかは幸いに折れることはなく、ただただ痛くて眠れないだけだったが、それから解放されるのは実に良いものだ。
「「ありがとうございました」」
「いえいえ。また来た時に習得出来ていなかったら......もう一度ですよ?」
満面の笑みを浮かべる大聖女様。いじめるのが好きとか、そう言う趣味なんだろうか。まぁそれを目上の人に軽く聞けはしないが。
「忘れ物はありませんか?」
「はい、大丈夫です」
アミリアさんは、俺に再確認をする。
まぁ、そこまで重要なものは元から持っていなかったし、渡されたお土産もちゃんと持った。
「長いようで短いような一か月でしたね。まぁ、お別れの挨拶、というほど遠く離れるわけでもないですが、体には気を付けるのですよ、聖女アミリア、そして聖者ロード」
「はい、一か月ありがとうございました!」
アミリアさんは大聖女様の手を握る。
この一か月で、二人の壁みたいなものが少なくなった気がする。
俺はまだ距離を感じているが......まぁ、二人ほど大聖女様と親密にならなければならないこともないだろう。
「そうだ、一応警告を。二人の関係については、まだ発表時期は未定です。それまではくれぐれも外部に漏れないように、お願いしますね」
「あぁ、はい、わかりました」
関係、というのはつまり結婚のことだろう。
これからもアミリアさんは未婚の聖女として活動をするためか、それともほかの宗教的事情があるのか。
詳しくはわからないが、要は人目のあるところでいちゃつくな、ということだ。
「それでは、一か月、お世話になりました」
「大聖女様、ありがとうございました」
「お元気で。またたまにはこちらに来るのですよ」
そしてアミリアさんと俺は転移魔法陣を使用し、治療院へと戻るのだった。
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