英雄教科書

大山 たろう

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1-1 ヘッドハンティングは唐突に

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 この大陸には、三つの強国と、百を下らない多数の小国が存在する。



 考え方も方針も、下手をすれば政治のシステムすら違うこの国々は、皆口をそろえてこう言った。





 ―――――『天星教団』には、気をつけろ―――――









 初夏にも関わらず、長袖の外套を着た男は、コツコツと靴を鳴らしながらもある場所へと向かう。



「あっちいなぁ......」



 自由に生えた赤髪を整えることもなく、ゆさゆさと揺らしながら歩く。

 今向かっているのは、王立図書館だ。その名の通り、王国自ら金をかけて作られた、大陸中の本が集うと言われるほどの図書館だ。



 ほんの数日前にやらかして全財産を失った彼がコツコツと金をためて、やっとの思いでためた貯金をつぎ込んで冷房が効いた王立図書館の入場料を払い、冷気を浴びた。。そして彼がそこで調べものをしていた時、一人のおじさんが「わからん! わからんのだぁ!」と叫んでいるのを見たのが全ての始まりだった。

 うるさくされるのも何なので、教えようとしたところ、彼の作ろうとしている魔法はオリジナル、しかもまだ世間では知られていないような理論を使っていた。

 男ははそれをおじさんでも理解できるように噛み砕いて説明をしている。なぜこのおっさんは、四属魔法と名高い火、水、風、土の四属性を掛け合わせようとしているのだろうか.......普通に合わせちゃ打ち消しあって消えるだけだってのに。



 そう分かったころには、ライズはそのおっさんに話しかけ、教えていた。



「ほほう? ではこれはどうしてこうなるんだ?」



「これがこーだからこーなるんですよ」



「なるほど! 君のその知識は素晴らしい! 名前は何というのかね!」



「あぁ......ライズですが」



「ライズ君! そうかそうか! 私はこの王都の誇る、王立学園 グランドの理事長を務めている、マルノという! 貴族ではあるが、気を楽にして聞いてくれたまえ。その膨大な知識を学生に伝え、英雄の卵を育成するのに、君も手伝ってはくれないだろうか?」



「つまり、働けと?」



「そうだ! この学園で君に非常勤でいい、講師をしてほしいと思っている!」



 ものすごい熱意で話しかけてくるのは理事長をしているというマルノ。が、ライズは金には困っているものの、進んで職に就きたいわけではなく、それどころか縛られるのは好ましくないとさえ考えていた。なぜなら彼の好きな魔法の研究が進まないからだ。まぁ、金がないので今は研究もくそもないのだが。



「給料や権限はどの程度?」



「給料は研究費含めて―――――程、権限は、王立図書館の禁書閲覧可能な一級を許可しよう。どうだ、その気になってくれたか?」



 非常に好条件を出された。ライズは即座に答えた。



「その話、乗ったぁ!」



「契約をしよう! さぁさぁ、こちらへ!」







 金欠ライズは意気揚々とそのおじさんについていき、これから非常勤講師として働くことになる学園へとはじめて足を踏み入れた。







「誰? 見たことある?」



「ないよ~、もしかして新しく入る人かも?」



 生徒どころか先生らしき人からも奇怪な物を見る目で見られる。とはいえまだ昼前。授業中であるため、窓の外を見てさぼっていた生徒たちの暇つぶしのようだ。



「さて、これが契約書だ」



 そう言って渡されたのは、二枚の契約書。

 内容も特筆するような者があるわけではなかったので、ライズは特に迷うことなくサインをした。



「これで、君も講師の一員だ。それでは、職員室で細かいところを話そうではないか!」





 言われるがまま、職員室へと向かう。

 理事長室の隣にあった職員室に入ると、授業のない先生が数人、書類とにらめっこしていた。が、理事長と俺が入ったと知るや否や、「あぁ、またか」という視線にさらされた。きっと俺だけではないのだろうと、ライズはその視線を無視して、話を詰めた。



 結果、翌週から三日ほど隔日で来ることが決定した。職員室の席も与えられた他、研究室や住む寮の部屋までもらってしまった。契約の範疇とはいえ、結構手際が良い。何度この作業を繰り返したのか、そして俺もまたその歴代のように切り捨てられるのかと思うと少し残念ではあるが、とりあえず雨風をしのげる部屋をもらえたことを喜ぶとしよう。



 そうライズはポジティブに考えると、そのまま研究室へとこもる。



 ライズの勤務は月水金、そして今日は土曜日である。



 ライズはこれを一日余裕があると考え、寮に入ることなく研究室に籠るのだった。
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