英雄教科書

大山 たろう

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1-2 魔法理論のマルノさん

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「ライズ先生! 今日は勤務ですよ!」

 そう研究室の戸が叩かれる。
 もう一日過ぎていたのか。まだ実験装置すら製作途中だが、今は休憩だったので好都合。そう考え、ライズは少し伸びたひげと長く伸びた髪をそのままに、職員室へと向かった。



「おお! やっと来てくれたか! 次から勤務の日はこの時間までに職員室まで来てくれ!」

 そう理事長に言われる。

「こいつが新しい非常勤ですか」

「そうだぞトルネ君! ライズ君だ! 彼には一年三組副担と総合戦闘術の補佐、魔法理論の補佐をしてもらう!」

 そう紹介された。ライズは受け持つ授業を今知ったが、それを顔に出さずに軽く会釈をする。

「フン! せいぜい足を引っ張らぬことだな!」

 そう言ったトルネ。ライズは「はぁ」としか返せなかった。

「彼、魔術理論の先生なんですよ、それであなたが入ってくるのを邪魔だと思っているみたいです」

 そう隣から話しかけられ、右を見るも、誰もいない。

「もう、こっちですよ!」

 音のする方を向くと、身長が俺の三分の二程度しかない(ライズが百八十なので百二十ほど)の少女が、こちらを見上げていた。

 一瞬ライズはここに生徒が紛れ込んだのかと思ったが、制服ではないのを見るにそれくらいの身長の人なのだろう。

「いっつもはじめての人はこちらを探して、見つけたら笑うんですよ! ひどくないですか! でもライズさんは笑わなかったので合格です!」

 そう言った身長の小さな女性の先生。ライズは「は、はぁ.....」としか返せなかった。

「あ、私はソフィアです! 一年三組の担任をしています! 一緒に行きましょう!」

 そう言った瞬間、ライズへと一瞬だけ威圧が飛んできた。それに対してライズは反射的に威圧をし返すと、「ひぃ!」という声が聞こえた。この程度で逃げるならしなければいいのに。
 そう考えながらもソフィア先生についていくのだった。


「ここが一年三組です! これから一緒に頑張りましょう!」

 そのしっかり、というより背伸びをしたおえねちゃんのように穢れを知らず、純粋な感情をたたきつけてくるソフィア先生。
 いつから、俺はこんなに穢れてしまったのだろう......そんなことをライズが考えていると、「ほら! 来てください!」とソフィア先生が声をかけてきた。

 俺は少し早めに歩いて、教壇の中央に立つ。

「こちらが、今日からこの一年三組の副担任をしてもらう、ライズ先生です!」

 そうソフィア先生から紹介を受ける。

「ライズだ。 月水金は働く。えー、総合格闘術と魔法理論の補佐を担当らしい。、ろしく頼む」

 そう話すと、教室内からぱちぱちと拍手が送られてきた。

「何か質問がある人いますか!」

 ソフィア先生が言う。すると真っ先に生徒の一人が手を挙げる。

「はい、アレス君!」

「先生の魔法適正と魔力容量を教えてくれ!」

 そう元気に言い放ったのは金髪の少年......アレスだった。

「こーら、先生ですから、敬語くらい使って下さい! 先生、答えてくれますか?」

 ソフィア先生の視線に負け、その質問にやむなく答える。

「えー、魔法適正は火と光が少々。他は発動すらできない。それと魔法容量は今は五千ってところだ」

 その声に、周囲からは落胆の声が漏れる。

 まず、ライズの適性が火と光なのは問題ない。光が四大属性に比べると少ないくらいだろう。が、他が発動できないというのは問題だ。なにせ才能がゼロということ、自身は無能だと言っているようなものだからだ。
 そして魔法容量が五千というのもポイントだ。ここにいる生徒の最低ラインも八千、高い奴は三万ほどある。

 単純に考えても、撃ち合いをしたら先に力尽きるのはライズとなる。
 そのうえ、五千という数字は、広域魔法を一発、場合によっては魔力が足りない可能性すらある。

 そんな、魔法師としての適性では自身より劣っている人が、傲慢にも先生として入ってきたのだ。落胆ぐらい漏れて当然だろう。

「はい」

「ど、どうぞ! ガイアさん!」

「スキル、何もってるの」

「そ、それはさすがに......」

 スキル。それは一人につき一つ与えられる、人生を左右する能力。

 大抵はその人の生命線になるものなので、親しい人以外には口外しないのだ。が。

「あぁ、俺のスキルは『棒術』だ、魔法にも近接にも補正がかかる」

 その瞬間、ため息が漏れた。

 棒術というのは、杖術とも槍術とも違って、中途半端に両方補正がかかる。魔法は魔力対効果を上げてくれる(らしい)程度の効果だし、近接も体感速度が速くなる程度だ。その中途半端さから、器用貧乏だの、役立たずだのと散々な言われようだ。

 仮にも、王国が建てた、これから、政治や戦争、様々な環境で活躍するであろう学園生を育てる講師が、これでいいのか、と。

 次の質問を、とソフィア先生がみんなを見渡したところで、チャイムが鳴る。この学園は王都全域とは別に時刻を知らせる金がなる。これで授業と授業の区切りをしているというわけだ。

「そ、それでは、一時限目の準備をしてください!」

 そう言ったソフィア先生は、ライズの手を引いて、教室から逃げるように出ていった。


「どういうことですか、あれ、全部本当ですか!?」

「もちろん、本当ですよ」

 ソフィア先生から問いただされる。ソフィア先生が背伸びをして腕を組んだ様子が可愛いなんて断じて考えてはいけない。

「それじゃあ、どうして」

「おっと、授業の準備があるので急ぎますね!」

 ライズはそう無理やりに話を切って、先ほど職員室で見ておいた、魔法理論の教室へと向かった。



「ほう、時間は守れるようだな。が、授業に余計な口出しは不要。質問されたら答える程度でよい!」

 トルネ先生から先にくぎを刺される。

 ライズは「わかりました」と心を無心にして、教室の後方に立つ。




「さて、今日から非常勤の先生が後ろにいる。追い付けなくなったら合間に聞くと良い。」
 傲慢な物言いだと思うかもしれないが、実際人に教えること何て少ししかしたことないし、この学園での立ち回り方もわからない今、不用意にでしゃばる必要もないだろう。むしろ授業せずに給料がもらえてラッキーまである。

 ライズはそんな気持ちを胸に、トルネ先生の授業を後ろから見るのだった。


 はっきり言おう。トルネ先生は理論派だ。
 ライズは心の中でそうつぶやく。

 この世界の魔法使いには二種類の人間がいる。

 片方は、トルネ先生のような、理論をもとに詠唱を組み立てる人だ。

 今ライズが心配しているのは、もう片方、感覚派の人間だ。

 百聞は一見に如かず、という言葉のように、言い聞かせるよりも体験させたほうが良い人だっている。
 今俺の隣でウンウンとうなっている茶髪の少女のように。

「ライズ先生、あとでここ、教えてください......」

 少ししょんぼりとした表情でそう言った、先ほど一年三組にもいた生徒だ。

「あぁ、任せとけ。今はわからないところに印をつけておいてくれ」

 そう小声で言った。すると少女はぱぁ、と表情を明るくした。

「おいそこ! 授業をしっかりと受けんか!」

 トルネ先生の叱責に対して、ライズは少女と合わせて「はーい!」と答えるのだった。
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