英雄教科書

大山 たろう

文字の大きさ
12 / 48

ライズの休暇

しおりを挟む
 これは趣味も含まれているが、それよりも教師として生徒が何か良からぬことに手を染めていないか確認していたのだ!

 そう、ライズは開き直って物色......もとい、調査の結果を精査する。
 落ちていたのは魔法の痕跡と、何かを製作した跡だけ。それ以外はいたって健全な女子の部屋だった。
 服が脱ぎ散らかされているみたいな、そういう特徴という特徴がないあたり、つかみどころがわからない女子だなぁ、と思うところはあるものの、どうせ部屋を見て出てくるつかみどころなど馬鹿らしいものしかないだろう。思考を切り替えた。

 悪魔召喚や邪神信仰の類が無くて安心している。ああいうのに結構取り入れやすい年ごろだからな。ガイアの部屋に悪魔召喚のための血で描かれた魔法陣とか、邪神交霊の触媒を並べられててもそれはそれで疑うが。

 ともあれ、あとは残っていた何かの製作跡が何だったか。
 この魔法の痕跡は製作のために起動したのだろう。つまり製作したものによっては、すでに彼女は悪の組織だってことだ。端的に言うと。

 ともあれ、もう彼女が活動状態に入っている。もう視線に気づくだろうし、魔法使いなのだから直感的に魔法の気配を察知できるだろう。これ以上深追いすると痛い目を見る、具体的に言うと全財産没収を食らう。だからこの辺で引くか。明日は勤務じゃないから、研究に没頭だな。

 ライズは、魔法を解いて、一人で一日ぶっ通しの研究の準備を始めるのだった。


 翌日。

「おはよ」

 ガイアが教室へと入る。

「おはよー、最近どうしたの、体調悪かったの?」

 そう挨拶しながらもエアリが駆け寄っていく。

「そういうわけじゃない。今日は、ライズ先生は?」

「昨日いたから、今日は来ないんじゃないかな?」

 そう言った瞬間、一瞬だけ強大な魔法の気配を察知した。
 方向は―――――ライズの研究室。

「あそこだね」

「うん、あそこ」

 ライズの居場所は特定した。何をしているのかもわかった。が。

「ライズ先生に何か用事でもあったの?」

「ううん、急ぎの用事じゃないから大丈夫」

 ガイアはそう言うと、速足で自分の席へと座った。
 エアリはその用事が気になったのだが、詳しく聞くのもなんだか、と結局聞くのをやめてしまった。



 その間、というかその魔法の気配を一瞬だけ解き放ってしまったその時から、ライズの魔法研究は始まっていた。

「やっぱ、広範囲殲滅用の魔法は理論的に組み立てたほうがよさそうだな。プッチンして作った魔法は大抵単体高火力だからなぁ......これも失敗。次。」

 ひたすら彼は繰り返している。地面と壁、そして宙、天井、いたるところに描かれた魔法陣が、彼の魔法研究を助けている。

 周囲への被害を殺すための魔法や、魔力の回復を早める物、発動した魔法の威力、範囲を縮小するもの、その効果は様々だったが、一つ言えるのは、この魔法陣を展開してぶっつけ本番の魔法詠唱をしているのは、この国、この大陸、この世を探しても彼一人だろう。それぐらいに設備は整っており、それを一人が夜を徹しただけで作り上げられたとは思えないほどの完成度だった。

 その魔法陣をフル活用して、ライズはひたすらに研究を行う。

「この構文は駄目だ。次。」

 広範囲殲滅用の詠唱を無詠唱にすると、その膨大な消費魔力はさらにうなりを上げ、そのうえ唯一のとりえである広範囲殲滅ができないほどに威力減衰をする可能性があるため、意識的にその構文を、この理論を、と組み立てないと魔力食いお化けが出来上がるだけだ。それにこれは命綱。己の命を守るため、妥協なんてしてはいられない。

 ひたすら、ただひたすら魔法を唱え続けた。その結果を記し、つぎの休暇に生かす。ライズの生活は、魔法師が百人見たら九十九人が狂ってる、というような生活だった。

 一人はこの生活をしたいと思う魔法馬鹿だ。

 もともと、この魔法師の界隈には、完成された魔法を覚えたほうが効率が良い、という一種の風潮ができていた。
 もちろん、研究は研究者の領分だ、その意見が悪いとは言わない。ライズの場合はこうならざるを得なかっただけである。が、それがなかったとしても、手札が汎用的な魔法しかないのは不安で仕方がないと思うのだ。

 っと、思考がそれた。

 そうライズは思考をすぐに次の魔法へと移して、ひたすら、食事もとらずに魔法を、広範囲殲滅用の魔法を放ち続けるのだった。

「少し漏れてる」

「え? なにが?」

 ガイアとエアリが休み時間にライズの研究棟を見ながら、そう話した。

「魔力が」

「え、ほんと? 全然わかんないや」

「隠されてる、抑え込まれてる、無駄をすべて省かれてる。あそこでは何が起きているの......?」

 ガイアは一人、あの研究室を覗きたい衝動に駆られるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

グレート・プロデュース  〜密かに国をコントロールする最強のエージェントは、恋に落ちた王女を大帝王に即位させることができるのか?〜

青波良夜
ファンタジー
魔法と、魔導科学が進んだ強大な国、グランダメリス大帝国。 俺は、この国を陰からコントロールする秘密組織でエージェントとして働いている。 今回の任務は、豪華客船で行われる密売の現場を探ることだった。 その任務の途中、俺は第三継王家の王女『メリーナ・サンダーブロンド』と出会うことになる。 メリーナ王女は婚約しようとしていたのだが、俺の軽はずみな行動が彼女の運命を変えてしまった。 その後、なんやかんやあり、俺はメリーナ王女に惚れられることに……。 こんなことは、エージェントとしては絶対にあってはならないことだ。 というわけで、俺はメリーナ王女と別れ、二度と会わないよう工作をした。 それなのに、まさか再び出会うハメになるなんて……。 しかも次の任務は、メリーナを大帝王に即位させることだって!? ――これは最強のエージェントが、乙女の恋心に翻弄されながら、過去最難関のミッションに挑む物語である。 ※『ノベルアップ+』、『ネオページ』にも投稿してます。 ※『小説家になろう』『カクヨム』に投稿し、一度完結済みとなった作品です。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった

ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。 学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。 だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。 暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。 よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!? ……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい! そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。 赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。 「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」 そう、他人事のように見送った俺だったが……。 直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。 「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」 ――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...