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第一章
1-1 二度目の一度目
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スキルが起動した瞬間、記録された地点まで世界が巻き戻る。ただ一人、使用者の記憶だけを残して。
そして世界が完全に記録された地点と同じになったところで、世界は再び、正しく時を刻み始めた。
「――――はぁっ、はぁっ」
ただ一人の例外が、息を荒くする。
記憶を保持している代償なのか、それともレベルが足りないからなのか。体中の血が沸騰するような苦痛が襲う。
数秒が何十倍にも感じられるほどの痛みを感じるが、それも終わりを迎えていた。
「! 大丈夫!?」
彼女――――女子Aが様子のおかしい俺を気にかけてくれているようだ。
「ごめん、大丈夫だよ」
そう返すと、すぐさま扉の位置を確認する。
前に一つ、後ろに一つ。
そりゃそうだ。時を戻して扉の位置が変化したら、それは王城じゃなくてきっと迷宮だ。
この前のほうが国王とかが入ってきたところだから......
すぐさま後ろの扉を開いた。
その目線の先に広がっていたのは、雲一つない青空だった。
高いところに建てられている王城からは、低い位置にある街を一望できた。
遥か低いところで列をなして動いている姿は、アリのように見えてくる。
そしてそのアリのような人々と建物を大きく取り囲む石でできた壁。
日当たりが悪くなるのもいとわず、高く分厚い壁がそびえたっていた。
都会の空気とは違う、爽やかで、少し冷たい風が右の頬を撫でる。
僅かに香る草木の匂いが、今まで夢のように見えていたここがまったく別の世界というのを俺に嫌でも感じさせてくる。
さて、確認することはっと......
俺はその扉から出て、手すりのギリギリのところまで行った。
ベランダになっていたその場所から真下を見下ろす。勇気があれば飛び降りられそうだけれど、王城の、そしてこの街の外周の構造を知らない今、ここから逃げるのは得策ではないという結論を出していた。
まず最初の作戦が失敗、っと......
ベランダから逃げて亡命作戦は無理だ、となると......
すっと扉を閉めたところで、俺は女子Aに一回目と同じ言葉を、台本通りに伝える。
「みんな起こした方が......いいよね、男子を起こしてくるから、女子をお願い」
「うん、わかった!」
そう言って女子Aは飛ぶようにして立ち上がり、寝ている、というより倒れている女子たちに片っ端から声をかけ始めた。
一回目と、同じように。
本当に時が戻ったんだ、と実感させられながらも、俺は台本を逸脱しないように男子委員長を起こしに行く。
全挙動が寸分のズレもなく一緒だ......そんな細かいところ、全く覚えていないけれど。
女子Aを見ながらも、目を覚ました男子委員長に気を配る。
「ううん......? ここはどこだ......?」
「わからない、だけどとりあえず倒れている人たちを全員起こさないと」
「あぁ、なんとなくわかった、協力しよう」
先ほど、一回目とこれまた表情一つ変わらず同じだった男子委員長を尻目に、俺は次の準備を始める。
必要なものは――――リアリティと演技力、そして少しの勇気。
準備は完了した。さて、始めよう。
後から聞いたら頭が痛くなるようなセリフを吐くくらいには結構ノリノリに、俺は自分の上に化けの皮を被り始めた。
「よく聞いてほしい、私はここ、クリスタ王国の国王、アーサー・フォン・クリスタ。今この世界はある危機に直面している。異世界より召喚されし勇者たちよ、どうか我々を助けてほしい」
台本通り、一回目と一言一句違えずに全く同じセリフを吐いて見せた国王。
これから俺が同じ行動をとったら、これからの展開も全く同じになるのだろうかと楽しみだけど......そんなことをすることが出来る余裕はない。せめて回数制限が取っ払われてからじゃないと。
「魔王軍が我々の大陸に攻め込んできており、このままいくと人間族が滅んでしまう。解決のためには魔王軍を倒すしかないのだ。どうか、我々に力を貸してくれ」
やはりパニックになっている彼らに畳みかけるように、国王は言葉を重ねた。
そこに一回目、救世主のように見えた男子委員長。いい加減名前を知りたいけど、これまで名前を知らなかったのかと責められるような目線を向けられるのが怖いのでどこかタイミングを見計らわないと。
「俺たちにそんな戦うような力はないですが」
「いや、おぬしたちには神から力が与えられている。『ステータス』と唱えてみるのだ」
「『ステータス』」
俺も一応台本通り、ステータスを使用する。
とは言っても、まったく同じ、代わり映えしない風景だった。
ステータスが次の周回とかにも継承されるのか知りたかったけど、あの状況だとステータス変わらないし、スキルも取れないしと、実験ができなかった。痛い。
しかし、一つ変化があったのはギフト欄、回数制限のところが(9/10)になっていたところだ。
しっかりそこだけは減っているのが確認できたのは良かったというべきか、悪かったというべきか。
一応、戻ったときに回数もすべて戻されているのを期待したんだけど。
とか考えている合間にも、国王の話は進んでいたようだ。
そして運命の分水嶺に差し掛かる。
「おお、なんと今回は勇者が二人いるのか! これは心強い、ぜひ我々に力を貸してくれ!」
そう、国王は大きな声を出しながら二人に歩み寄っていく。
「あぁ、分かったぜ! 俺たちが元の世界に帰るついでに、この世界も救ってやらぁ!」
「条件があります」
やはり前者が赤髪、後者が男子委員長だ。
「はて、条件とは?」
「まず、全員の生命と衣食住の保証。それは約束してもらえますね」
「あぁ......そうだな、約束しよう」
少し口ごもったが、国王はその条件に納得した様子だった。
「そして戦闘を強制しないこと。大丈夫ですか」
「あぁ。構わない」
こちらはどうやら即答らしい。
これで終われば先ほどの奴隷ルートだ。
なけなしの勇気を出して、俺は言葉を発した。
「国王様。契約をしましょう」
そう、高らかに宣言をした。
そして世界が完全に記録された地点と同じになったところで、世界は再び、正しく時を刻み始めた。
「――――はぁっ、はぁっ」
ただ一人の例外が、息を荒くする。
記憶を保持している代償なのか、それともレベルが足りないからなのか。体中の血が沸騰するような苦痛が襲う。
数秒が何十倍にも感じられるほどの痛みを感じるが、それも終わりを迎えていた。
「! 大丈夫!?」
彼女――――女子Aが様子のおかしい俺を気にかけてくれているようだ。
「ごめん、大丈夫だよ」
そう返すと、すぐさま扉の位置を確認する。
前に一つ、後ろに一つ。
そりゃそうだ。時を戻して扉の位置が変化したら、それは王城じゃなくてきっと迷宮だ。
この前のほうが国王とかが入ってきたところだから......
すぐさま後ろの扉を開いた。
その目線の先に広がっていたのは、雲一つない青空だった。
高いところに建てられている王城からは、低い位置にある街を一望できた。
遥か低いところで列をなして動いている姿は、アリのように見えてくる。
そしてそのアリのような人々と建物を大きく取り囲む石でできた壁。
日当たりが悪くなるのもいとわず、高く分厚い壁がそびえたっていた。
都会の空気とは違う、爽やかで、少し冷たい風が右の頬を撫でる。
僅かに香る草木の匂いが、今まで夢のように見えていたここがまったく別の世界というのを俺に嫌でも感じさせてくる。
さて、確認することはっと......
俺はその扉から出て、手すりのギリギリのところまで行った。
ベランダになっていたその場所から真下を見下ろす。勇気があれば飛び降りられそうだけれど、王城の、そしてこの街の外周の構造を知らない今、ここから逃げるのは得策ではないという結論を出していた。
まず最初の作戦が失敗、っと......
ベランダから逃げて亡命作戦は無理だ、となると......
すっと扉を閉めたところで、俺は女子Aに一回目と同じ言葉を、台本通りに伝える。
「みんな起こした方が......いいよね、男子を起こしてくるから、女子をお願い」
「うん、わかった!」
そう言って女子Aは飛ぶようにして立ち上がり、寝ている、というより倒れている女子たちに片っ端から声をかけ始めた。
一回目と、同じように。
本当に時が戻ったんだ、と実感させられながらも、俺は台本を逸脱しないように男子委員長を起こしに行く。
全挙動が寸分のズレもなく一緒だ......そんな細かいところ、全く覚えていないけれど。
女子Aを見ながらも、目を覚ました男子委員長に気を配る。
「ううん......? ここはどこだ......?」
「わからない、だけどとりあえず倒れている人たちを全員起こさないと」
「あぁ、なんとなくわかった、協力しよう」
先ほど、一回目とこれまた表情一つ変わらず同じだった男子委員長を尻目に、俺は次の準備を始める。
必要なものは――――リアリティと演技力、そして少しの勇気。
準備は完了した。さて、始めよう。
後から聞いたら頭が痛くなるようなセリフを吐くくらいには結構ノリノリに、俺は自分の上に化けの皮を被り始めた。
「よく聞いてほしい、私はここ、クリスタ王国の国王、アーサー・フォン・クリスタ。今この世界はある危機に直面している。異世界より召喚されし勇者たちよ、どうか我々を助けてほしい」
台本通り、一回目と一言一句違えずに全く同じセリフを吐いて見せた国王。
これから俺が同じ行動をとったら、これからの展開も全く同じになるのだろうかと楽しみだけど......そんなことをすることが出来る余裕はない。せめて回数制限が取っ払われてからじゃないと。
「魔王軍が我々の大陸に攻め込んできており、このままいくと人間族が滅んでしまう。解決のためには魔王軍を倒すしかないのだ。どうか、我々に力を貸してくれ」
やはりパニックになっている彼らに畳みかけるように、国王は言葉を重ねた。
そこに一回目、救世主のように見えた男子委員長。いい加減名前を知りたいけど、これまで名前を知らなかったのかと責められるような目線を向けられるのが怖いのでどこかタイミングを見計らわないと。
「俺たちにそんな戦うような力はないですが」
「いや、おぬしたちには神から力が与えられている。『ステータス』と唱えてみるのだ」
「『ステータス』」
俺も一応台本通り、ステータスを使用する。
とは言っても、まったく同じ、代わり映えしない風景だった。
ステータスが次の周回とかにも継承されるのか知りたかったけど、あの状況だとステータス変わらないし、スキルも取れないしと、実験ができなかった。痛い。
しかし、一つ変化があったのはギフト欄、回数制限のところが(9/10)になっていたところだ。
しっかりそこだけは減っているのが確認できたのは良かったというべきか、悪かったというべきか。
一応、戻ったときに回数もすべて戻されているのを期待したんだけど。
とか考えている合間にも、国王の話は進んでいたようだ。
そして運命の分水嶺に差し掛かる。
「おお、なんと今回は勇者が二人いるのか! これは心強い、ぜひ我々に力を貸してくれ!」
そう、国王は大きな声を出しながら二人に歩み寄っていく。
「あぁ、分かったぜ! 俺たちが元の世界に帰るついでに、この世界も救ってやらぁ!」
「条件があります」
やはり前者が赤髪、後者が男子委員長だ。
「はて、条件とは?」
「まず、全員の生命と衣食住の保証。それは約束してもらえますね」
「あぁ......そうだな、約束しよう」
少し口ごもったが、国王はその条件に納得した様子だった。
「そして戦闘を強制しないこと。大丈夫ですか」
「あぁ。構わない」
こちらはどうやら即答らしい。
これで終われば先ほどの奴隷ルートだ。
なけなしの勇気を出して、俺は言葉を発した。
「国王様。契約をしましょう」
そう、高らかに宣言をした。
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