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【第一章】三谷恭司
【第三話】アベルト・バーレン⑤
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「選択肢をあげられなくてすまないね。だが、君の犯した罪の代わりとしては破格だと思うがね。なんせ、君は武術や魔法以前に、かつての時代の覇者の一人だ。実力で何とかできるだろう」
「………………」
恭司は黙ってしまった。
返せる言葉など無い。
「…………まぁ、具体的な内容についてはユウカにでも話しておこう。君はもう疲れているだろう?ゆっくり休みたまえ」
「…………ユウカに話すのですか?」
恭司はアベルトの気遣いに感謝する前に、そう尋ねた。
そこは、とても気になったのだ。
「あぁ、どうせ隠すことなど出来ないし、そうするメリットも無いからね。言うよ。全てだ」
「…………私はまだこの世界のことをそれほど分かってはおりませんので、何とも言えませんが…………これはおそらく危険な仕事でしょう?そんなものに、実の娘を巻き込むおつもりですか?」
恭司は真剣な面持ちでそう尋ねる。
出来れば、ユウカは巻き込みたくない。
だが、
「あぁ、そのつもりだ。アレは普通の娘じゃない。分かるだろう?君と同じ技を使えるんだ。アレは、そういう存在だ」
曖昧な表現だったが、理解は出来た。
確かにそうだと思った。
思ってしまった。
恭司がユウカの技を使えたんじゃない。
ユウカが、恭司の技を使えるのだ。
三谷恭司と同じ技を持っているのだ。
つまりユウカは、三谷恭司と同じ系列にいる人間だということなのだ。
「あの子のことについては、また追い追い話そう。とにかく、君のことはユウカに伝える。だから君は、これからはユウカに話を聞いて、ユウカと行動をしなさい。私が許可する。ユウカと一緒にいるんだ」
「………………」
『行動をしなさい』
「行動を共にしなさい」じゃない所が変に気になった。
だが、
おそらくは単なる言い回しの違いだろうと、恭司は頷くにとどめた。
些細な話だ。
追求するほどのことじゃない。
アベルトはそこでバツが悪そうに頭をかくと、すぐに踵を返すと思いきや、おもむろに恭司のことをジッと見つめてきた。
何を考えているのかは分からない。
だが、
その視線には熱がこもり、何かを期待する光があった。
そして、
そのさらに奥には、得体の知らないものに対する不安と恐怖もあった。
「………………」
アベルトの頭の中に、強大な葛藤が生まれているのが分かる。
でも、
恭司にできることなんて無いし、その余裕も無い。
アベルトはそれからずいぶん長い間そうしていたが、結局、そのままクルリと踵を返した。
恭司に背を向け、その足はリビングから出るための扉へと向いて歩き出した。
恭司はそれを、ホッとしたような不安なような、よく分からない顔で見送ることしかできなかった。
そして、
アベルトは扉へとたどり着き、取っ手に手を掛ける。
その背はやはり、まだ迷いが残っていることを雄弁に語っていた。
「期待してるよ。今回の私の決断は正しかったのだと、ちゃんと私に思わせてくれ。私は今日…………希望と絶望の瀬戸際の判断を下したんだ。頼むから…………私が人類にとっての絶望の引き金を引いたなんて結末だけは、勘弁してくれよ」
まるでひとり言のように、消え入りそうな声でそう呟く。
アベルトはそのまま恭司の返答も待たずに扉を開け放つと、このリビングを出て行った。
シンーーと静まり返り、恭司は大きなため息を一つ吐き出す。
徒労感は凄まじく、恭司の方には希望の一欠片も見えやしない。
何ともなしに、項垂れるくらいしか出来なかった。
「本当に…………勝手なことばかり言いやがる…………」
既に部屋を出て行った後の人間に向けて、恭司はやるせない気持ちで言葉を宙に放り捨てる。
記憶のなかった頃に行った内容の贖罪など、いくら言葉を尽くされたって納得のしようもないことだ。
アベルトからすれば当然でも、恭司にとってはあり得ない。
それでも、納得出来ようと出来まいと、やらなければならないものはやらなければならないのだ。
「くそ…………」
やり場のない憤りが、悪態となって口から零れ落ちる。
しかし、
そんな中でも、まだ何も把握出来てないそんな状況でも、
運命の歯車は今まさにこの瞬間から動き出した。
実感は湧かないし、自分にそもそもそんな力があるのかすら不明な中で、確実に事は動いた。
自分の話とは思えないくらい、逼迫した状況に放り込まれた。
気はとてつもなく重い。
本音はやりたくない。
それでも、やらなくてはならなくなった。
恭司は腰を浮かして立ち上がる。
衝撃的なカミングアウトと、途方も無いくらいに大きくて危険な指示を受けて、短くも長い夜はやっと終わった。
恭司もまたリビングを出て、与えられた自分の部屋へと向かう。
アベルトの話した内容をどれだけ頭の中に残せたかは分からないが、とにかく今は寝たい。
そう思ったのだ。
そして、
恭司は自室へ入ると、流れるかのようにベッドに入って目を閉じる。
この間に、アベルトはユウカと話をしているのだろう。
それは今は考えないようにして、恭司は間も無くして寝息を立てた。
次に目を開ければ、その瞬間からは正しくその三谷恭司としての自分になる。
今日自分を包む闇は、いつもよりさらに深いような気がした。
「………………」
恭司は黙ってしまった。
返せる言葉など無い。
「…………まぁ、具体的な内容についてはユウカにでも話しておこう。君はもう疲れているだろう?ゆっくり休みたまえ」
「…………ユウカに話すのですか?」
恭司はアベルトの気遣いに感謝する前に、そう尋ねた。
そこは、とても気になったのだ。
「あぁ、どうせ隠すことなど出来ないし、そうするメリットも無いからね。言うよ。全てだ」
「…………私はまだこの世界のことをそれほど分かってはおりませんので、何とも言えませんが…………これはおそらく危険な仕事でしょう?そんなものに、実の娘を巻き込むおつもりですか?」
恭司は真剣な面持ちでそう尋ねる。
出来れば、ユウカは巻き込みたくない。
だが、
「あぁ、そのつもりだ。アレは普通の娘じゃない。分かるだろう?君と同じ技を使えるんだ。アレは、そういう存在だ」
曖昧な表現だったが、理解は出来た。
確かにそうだと思った。
思ってしまった。
恭司がユウカの技を使えたんじゃない。
ユウカが、恭司の技を使えるのだ。
三谷恭司と同じ技を持っているのだ。
つまりユウカは、三谷恭司と同じ系列にいる人間だということなのだ。
「あの子のことについては、また追い追い話そう。とにかく、君のことはユウカに伝える。だから君は、これからはユウカに話を聞いて、ユウカと行動をしなさい。私が許可する。ユウカと一緒にいるんだ」
「………………」
『行動をしなさい』
「行動を共にしなさい」じゃない所が変に気になった。
だが、
おそらくは単なる言い回しの違いだろうと、恭司は頷くにとどめた。
些細な話だ。
追求するほどのことじゃない。
アベルトはそこでバツが悪そうに頭をかくと、すぐに踵を返すと思いきや、おもむろに恭司のことをジッと見つめてきた。
何を考えているのかは分からない。
だが、
その視線には熱がこもり、何かを期待する光があった。
そして、
そのさらに奥には、得体の知らないものに対する不安と恐怖もあった。
「………………」
アベルトの頭の中に、強大な葛藤が生まれているのが分かる。
でも、
恭司にできることなんて無いし、その余裕も無い。
アベルトはそれからずいぶん長い間そうしていたが、結局、そのままクルリと踵を返した。
恭司に背を向け、その足はリビングから出るための扉へと向いて歩き出した。
恭司はそれを、ホッとしたような不安なような、よく分からない顔で見送ることしかできなかった。
そして、
アベルトは扉へとたどり着き、取っ手に手を掛ける。
その背はやはり、まだ迷いが残っていることを雄弁に語っていた。
「期待してるよ。今回の私の決断は正しかったのだと、ちゃんと私に思わせてくれ。私は今日…………希望と絶望の瀬戸際の判断を下したんだ。頼むから…………私が人類にとっての絶望の引き金を引いたなんて結末だけは、勘弁してくれよ」
まるでひとり言のように、消え入りそうな声でそう呟く。
アベルトはそのまま恭司の返答も待たずに扉を開け放つと、このリビングを出て行った。
シンーーと静まり返り、恭司は大きなため息を一つ吐き出す。
徒労感は凄まじく、恭司の方には希望の一欠片も見えやしない。
何ともなしに、項垂れるくらいしか出来なかった。
「本当に…………勝手なことばかり言いやがる…………」
既に部屋を出て行った後の人間に向けて、恭司はやるせない気持ちで言葉を宙に放り捨てる。
記憶のなかった頃に行った内容の贖罪など、いくら言葉を尽くされたって納得のしようもないことだ。
アベルトからすれば当然でも、恭司にとってはあり得ない。
それでも、納得出来ようと出来まいと、やらなければならないものはやらなければならないのだ。
「くそ…………」
やり場のない憤りが、悪態となって口から零れ落ちる。
しかし、
そんな中でも、まだ何も把握出来てないそんな状況でも、
運命の歯車は今まさにこの瞬間から動き出した。
実感は湧かないし、自分にそもそもそんな力があるのかすら不明な中で、確実に事は動いた。
自分の話とは思えないくらい、逼迫した状況に放り込まれた。
気はとてつもなく重い。
本音はやりたくない。
それでも、やらなくてはならなくなった。
恭司は腰を浮かして立ち上がる。
衝撃的なカミングアウトと、途方も無いくらいに大きくて危険な指示を受けて、短くも長い夜はやっと終わった。
恭司もまたリビングを出て、与えられた自分の部屋へと向かう。
アベルトの話した内容をどれだけ頭の中に残せたかは分からないが、とにかく今は寝たい。
そう思ったのだ。
そして、
恭司は自室へ入ると、流れるかのようにベッドに入って目を閉じる。
この間に、アベルトはユウカと話をしているのだろう。
それは今は考えないようにして、恭司は間も無くして寝息を立てた。
次に目を開ければ、その瞬間からは正しくその三谷恭司としての自分になる。
今日自分を包む闇は、いつもよりさらに深いような気がした。
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