舌先三寸に覚えあり 〜おヌル様は異界人。美味しいお菓子のプロ技キラめく甘々生活

光の湖畔編

第62話 コーヒー実験スタート

　コーヒー豆は、昨日のクレールのやつをまず挽く。
　２人分を２回分、ドリップ用とプレス用で。

　それと宿舎にあるもっと安いやつ。
　エタンが用意してくれたものを１回分挽く。

　さらに。
　エタンが職場から持ってきてくれた温度計。
　湖の温度を測る備品の予備。
　保護カバーを外し剥き出しにする。
　昔ながらの赤いアルコールのシンプルなやつだ。

　一回だけならコーヒーポット(ここでは紅茶ポットだけど)に移して温度変えるけど、連続してだと、温度調整が難しい。
　それに実験の公平さがなくなっちゃう。
　沸かしたて高温で淹れたものは、スッキリを通り越して論外。
　あまり味がせずあっさり、かつただ苦いだけになっちゃうから。
　温度計、今日は手に入って良かった。
　
　それと私の想像が正しかったら、もう少し突っ込んだ実験もしたいし。

「私の推理だと、口に含みつつ両手にそれを持ってね。自分の舌が、脳が、記憶する味を明確にイメージしながら、魔素を放出するの。
昨日クレールが付与を見せてくれたアレみたいに。魔道具回路が私の記憶と舌って感じよ。
そしたら舌が光って、味がその記憶の通りに再現できる、と私は仮定してる。
あと、水もしくは違う食べ物でリセットできるとも思ってる。
じゃあ、やってみようかな。　
よろしくお願いしまぁす！！　」

　まず２杯分、クレール挽き豆をフィルターで入れる。
　カップ３つに分け、一つだけたっぷり多めに。多めのを私が、2人はそれぞれ自分の目の前のカップのを一口飲む。

　そして、私だけもう一口に含みながらいつものオーガニックペルー豆のコーヒーを頭に明確に浮かべる。
　コーヒーカップを右手で握り、左手は熱くない縁にそっと添えて。
　暗く湯気をたてる液体を見つめながら魔素を流す。

　ピカッ！

　フラッシュが焚たかれたように一瞬、視界が光る。
　そしてキラッっと輝いたように見えた液体が、これまた一瞬で普通のコーヒーに戻った。

　ごくんと口内にあったものを慌てて飲み下し、用意していた手鏡に向かって、口を開け舌を出す。

「やっぱ光った！！　じゃあ確認でお先に一口飲んでみるね！！」

　飲んでみるとやっぱりそうだった。
　思い描いたとおりの味になっていた。

「ポカンとしてないで早く早く。次々行くから！
　２人とも飲んでみてね」

　クレールの目前に置き、代わりに彼の前のカップを手繰り寄せる。

「じゃあこの舌まま。新たに口に含まずこっちのカップも」

　魔素を流すと、やはりピカッっと一瞬。
　同じように光って味見すると、先程と同じ味が再現できた。

　エタンの前のコーヒーを飲む。
　うん、最初のなにもしてない味だ。魔素を流さなきゃ変わんないし、味覚に変化なし。
　鏡で確認。
　同一のものだと舌がキラキラしたままでリセットなし。

　よし！　次。
　今度はココット型に測ってあった豆。
　魔素を流したら……どうだっっ？！
　光った……こりゃすごい、まとめて豆を一網打尽にできる可能性が……。

　次はクレールの豆と宿舎の豆をブレンドしたもの。
　あれ？　これは無理？　後回しにするか……

　気を取り直して、宿舎の豆オンリーに魔素を流し、ピカらせる。
　ふむ。こっちは成功。

　念のため、コップの水も。
　はは、ですよね、無反応。

　急いで紙の端に書き付け、引きちぎりそれぞれのココット型に入れる。

「さあ！　どんどんいくよぉ！　この豆も挽いてね。あと４回もドリップやんなきゃだから」

　そしてこのキラキラ舌のまま先に２杯分挽いといた、宿舎のをドリップしちゃうぞー。
　まだ光ってるか、鏡で舌を確認っと。

「ん？　どした？　飲んでみて感想どうよ？」

　２人が静かだ。
　鏡から視線を外して見やると、クレールとエタンのあんぐり顔が。
　見覚えがある……嫌な予感。

「こ、今度はなにか……？」

「群青色ぐんじょういろ……」
「夜空に満点の星……」

　ぽ？　ぽえむ？

　……はぁ～。
　前回は聞き流したケド、今回はちゃんと落ち着いて耳を傾けようじゃないか！　

「分からない。ちゃんと教えて？」

「……あんな。口閉じてるから予想だがな。
コーヒーや豆に魔素を流したとき、対象物が光ると共に、多分コニーの舌も光ってんだと思う。
そんでな。
あー、落ち着いて聞いてくれ。
前回はコニー、目を瞑つぶってたから分からなかったが、今回目を開けて魔素流してるだろ？
舌と対象物が光ると同時に、コニーの瞳が。
一瞬、群青色になって星が飛ぶようにキラキラする」

　……はぃい？　マ、マジで？？！

「次、僕のスマホで撮るから。ほんの一瞬しか光らないから、ちゃんとタイミングを合わせて撮影しようね！」

　……本当に？？
　ああ……冗談言うわけないよね……くっ！

「分かった。ん……次。早くやろう」

　ビビっけど、自分でも驚くぐらい。
　思ったより落ち着いている。

　ものの味が変えれるんだ。
　舌も光ろう！　
　きっと目の色も変わろう！
　それがなんだ！　

　だって別世界なんだから。
　はるばるきちゃったんだから。

　やけっぱちの開き直り？
　いいや。
　腹括はらくくった。
　覚悟決まったって言って欲しいね。

　ふん。
　どんどんやるぞ！　
　よっしゃ！　やってやる！