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光の湖畔編

第80話 凪いだ水面

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「そういう意味では、いっそ少年好きって勘違いされたほうがね……いや、犯罪はまずいけど。
ああいうのが好みだと思われた方が、エタンと付き合ってるって思われるより100倍ましだ。
それとコニーが住んでいるのに、真相解明にウチへの突撃されたり、偵察にウロチョロされると嫌だから。ガツンと口止めしたんだけど」

「俺とクレールが恋人って、マジで笑えなさ過ぎて笑えんだろ。
俺らの間には確かに熱い絆があるが、それは母親の腹ん中からの相棒で親友で、恋愛な訳あっかよ。
そもそも俺もクレールも異性愛者だ」

「ここは男ばかりの職場だからか、職場恋愛、同性愛者率が高いんだよ。
最初からなのか。閉鎖的な場所だから、一緒にいる時間が長くて親しさが極まったのか。つまり好きになった奴がたまたま同性だったのか。
どういう内訳なのかは知らないけど。
それと身体が男性で心が女性の人も多くいるよ」

「そんでな。クレールのやつはどっちかっていうと、組み敷きたい派、その中でも、むくつけきマッチョ勢にとりわけ大人気の高嶺の花でさ。
あわよくば俺エタンセルに成り代わりてえって、いろんな意味でモリモリ夢見る輩たちがいんだよ。
もしも今日の噂がたったら、すっきり一掃できるな、クレール。好みの相手が華奢で小さな少年だったら、筋肉ダルマは諦めるしかねぇもんなぁ」

「エタン……ニヤついてるけど、オマエこそ相当やばいよ? 
コニー。エタンは女性もさることながら、男体女性にも、同性愛者の両方の嗜好勢からもモテるんだよ。
僕との噂の隠れ蓑が消えて、宿舎で告白されまくって、ぐいぐい攻められちまえよ」

 笑うクレールと、冗談でもやめろってため息つくエタン。
 ちなみに2人とのも男性の恋人は過去におらず、女性のお相手も今はいなくてフリー。

 こんなモテモテで素敵な人達だから、街に行ったらあっという間に恋人ができそうだけど。
でも、高濃度魔素の森で一緒に暮らせる結婚を見据えたお相手となると、条件的に厳しいか。

『この年で独り』

 クレールもエタンも。
 もしかすると、「誰か」と過ごすのはもう十分じゅうぶんって思ってて、「たった一人の特別な人」との出会いを待っているのかもしれない……。
 
 恋心は一人で手に入れるもんじゃないから。

 私もいつもみたく押し切られるんじゃなくて、自分自身が夢中過ぎてどうにかなっちゃうんじゃないかしらってぐらい「心の全部で愛してる!」って感じてみたい。
「本当にこの人でいいのかしら」って、心のどっかが呟くような恋愛は、もう十分だわ。

 恋人じゃなくて、まずは「心底好きな人」が欲しいなあ。

 話題が途切れてつらつらと独り考えごとをしていると、いつの間にかボートを漕ぐのをエタンが止めたようだ。
「コニー。ここらで虹の方様にご挨拶しようぜ」

「うん。あのさぁ。できれば、えっと。
髪の毛をほどいて下ろしてみたいの。
自分じゃ今は見えてないこの髪色も、虹の方様から授けられたものだと思うから……。
ちゃんとその姿でご挨拶したい」

 言葉を選びつつ、私は話を続ける。

「さっき、誰よりも魔石を作れるようになるのが早かったって言ってたでしょ?
その理由に多分……心当たりがあるよ。
もちろん虹の方様に奥深く潜り込まれたのが1番っぽいけど。

それはね、『決意』の有無だと思う。
この世界で生きるって覚悟。

私……ちょうど新しくスタートを切らなきゃいけなかったの。
昨夜は最後のほう眠くて、なに言ったかきちんと細かくは覚えてなかったけど。ちゃんとクレールとエタンには伝えたみたいだし、知っているでしょう?

私、地球に帰れないからここにいるんじゃないよ。
帰らないって、決めたからここにいるの。
この世界で生きる。そう自分で決めて選んだんだよ」

 エタンのほうにゆっくり移動して、三つ編みをほどいてもらい、ふわりと長い髪を下ろした。
 すくってまじまじと自分で見てみる。

 ほわぁ……ほんとだ……光の湖そっくりだ……

 そして、3人とも各自持参した、虹色魔石を手に持つ。
 まん丸くて、サイズもまさに、ビー玉みたい。
 7色かっきり。
 マーブル模様に渦巻いている。
 そしてそれは、個々の魔石によって違っていて、そっくり同じ出方でかたの模様はなかった。
 じっと見ていると、今にも流れて形を変えそうなぐらい生き生きしてる。

 エネルギーの、ハッピーパワーの源みたい。

 投げ込んだら、これが乳白色の湖の底についたら。
 この湧き上ってくる、美しい色彩の仲間になれるんだろうか?
 ゆらゆら一緒にダンスする、私の虹色ビー玉ちゃんを空想すると、あいらしくて、いとしい気持ちになった。

 天パの髪は、三つ編みをしていたせいで、いつもよりきっかり規則的なウェーブ。

 単純な白じゃない……
 光の湖面のように、プレシャスオパールのプリズムを揺らめかせ、キラキラと波打ってる。

 私の中に虹の方様に授けられた7色の魔素がたっぷり流れているから……中から色が浮き上がってくるんだわ。
 私が勝手に考えた、湖の色の原理と同じように。

 昨夜、私の心に生まれた、自分の魔素が7色という認識。
 それはミクロの一雫画像みたく。

 投げ込まれた昨夜は、ドボンと派手に王冠の形で跳ね上がり。
 そして今。
 こうして湖を見て、触れて、静かに染み渡るように。
 私はそれを理解して、受け入れ始めている。

 波紋が中心から身体に隅々まで、ゆっくり行き渡っていく感じ。
 広がって広がって、トライアングルの音が消えていくみたいに、徐々に収束していく。

 ああ、私いま、凪いだ水面になっているのね。

 そして私は口をつぐんだまま、神社でお詣りする心持ちで、魔石を遠くに投げ入れた。





【次回予告 第81話 ご挨拶】 


𖤣𖥧𖥣𖡡𖥧𖤣
エタンやクレールに横恋慕した男性キャラがコニーに意地悪する……そう言ったBL展開は、当作品では描かれません。
この世界はL.G.B.T.Q.I.Aにおいてそれぞれが自由に暮らしている、その設定説明会でありました。
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