舌先三寸覚えあり 〜おヌル様は異界人。美味しいお菓子のプロ技キラめく甘々生活

蜂蜜ひみつ

文字の大きさ
83 / 175
光の湖畔編

第81話 ご挨拶  

しおりを挟む
 クレールもエタンも、それにならうように、私よりうんと遠くに投げ入れた。

 ぽちゃん……3つの音に、それぞれ生まれたまあるい波紋。

 私たち3人は、特に示し合わせるわけでもなく、黙祷もくとうした。
 2人も私同様、虹の方様に、なにか語りかけているのだろう。


『虹の方様、初めまして……ではありませんよね? でもちゃんとご挨拶するのは初めてですから。

ヌルヌルの卵白にまみれた私がこちらに呼ばれたのは、単なる偶然か意味のあることなのか、私には全然分かりません。
でも。
悲しい別れをいっぱい経験してからは、『出来事には意味なんてあってないようなもんだろう』って。
そんなふうに今は思っています。

なにかをやる前に立てる、目標のような……
終わったあとに、つけたい人がつける題名のような……
だから私がこの世界に呼ばれた理由なんか、分かんなくたって別にいいのです。

私の願いは、いつも私は私でいたいです。
どこにいようとも。
地球でも、そしてリンゲル島でも。

七色の魔素は虹の方様が私に授けてくれたもの、全部の不思議の源なのだと思っています。
この世界の言葉が理解できる力も。
この髪の色や瞳の色も。
舌が光って、素材の味のイメージを再現できる力も。

丘から湖を見た瞬間。
直接水に触れた時。
私、歓迎されたるって、私が湖に会いに来たことを、あなたが喜んでくれてるって。
なぜか伝わってきました。
だから、自分にまつわる不思議なこと全て。
私のためにあなたがくださった「良きもの」なんだろうって、素直に迷いなく受け取れました。
驚きの連続ですが、全部受け入れて前向きな自分になれました。

リンゲル島で生きていくことをちゃんと自分の意思で選んだので、ここにご挨拶に上がったのですが、湖に触れてその思いがより確固としたものになりました。
 
この度一緒にボートで参りました2人は、こちらの世界で初めて出会った人達です。クレールとエタンセルと申します。
まだ出会って間もないのですが、私のとても大事な仲間です。
3人共々温かく見守っていただけたら幸いです。
これからもどうぞよろしくお願いします』

 長い心の語り掛けを終え、目を開けて顔を上げると、二人が静かに私を見つめて、待っていてくれたことに気がく。

『心から魔石を生み出したいと願う』
 この真理への最短ルートは、この世界で生きる、自分自身で生き方を決める、その決意だと私は思ってる。
 自分で選んで決めたからのその道を行く。
 いつだってそうやって生きてきたんだもの。
……でもそれは家族の支えや応援があって……友達も……

「お待たせ、ありがとう。
あのね、この世界に連れてこられてすぐに、クレールとエタンに助けてもらったでしょう?
これはもう天啓並みに素晴らしき出会いだと思うの。2人との出会いが、ここで生きる即決の後押しになったんだよ。
私、閃きには自信があるんだ。
クレール、エタン。
私と出会ってくれて……
縁とゆかりになってくれて、どうもありがとう」

「「コニー……」」

「さ、マフィンもお供えしようよ。エタン、ちょうだいな」

「あ! やべぇ。 魔石は防護服のポケットに移動させたんだが、マフィンはカーゴのでかいポケットのまんまだ。
ちょい待ち、バリア解除して出す」

 え? や、やだっ……なんかあったら怖い……

「そんなら、今度にするよぉ。ね、またの機会にしよう」

「大丈夫だって。2人とも動くなよ」

 で、でも……

 すぐにエタンは、防護服の中からマフィンを取り出しにかかった。

 うう……
 よし! 絶対に動かないぞ、と固まる私。



 ぽちゃん……


 
 ん????
 なんか音がしたように思って、その方向をパッと見たが、よく分からなかった。


 ぽちゃん

 あ! 遠く水面から何か飛び跳ねた!

「クレール。ここって魚とか、なんか生き物住んでる?」

「え? 何も住んでいないよ?」
エタンがポケットから取り出したマフィンを彼から受け取り、私の手に握らせつつクレールはそう答えた。

 ぽちゃんっ

 ふぁ! さっきよりこっちに近付いた箇所で跳ね、水面に落ちる。

「見た!?」
「見た……」

 ぽちゃんっ!

 もう1度。
 高く、そいつは跳ね飛び……
 確実に近づいてる?!

 怖くなったのは私だけじゃなく、クレールも同じだったようで。
 2人顔を見合わせ、隣り同士にあった手をどちらからともなく繋いだ。

 さっきの儀式で船首を横にしたため、魔石を投げた方向、つまり跳ねる物体に対して船は横付け状態。

「うおっし! できた。
んん? なんだよ2人とも。変な顔して、手なんか繋いじゃって?」
防護服に集中していたエタンが顔を上げ、私たちを見て、その視線を追うように、右側を見た。

 ぱしゅっ!! ぽちゃんっ!!
 迫り来ることあと1馬身。

 こ、怖い……ボートに飛び込んで来たらどうしよう……
 水面を3人、茫然と見つめる。
 心臓がばくばくしてる……

 ぱしゅんっ!!

 ついにボートの真横で派手な水飛沫と共に、何かが高く勢いをつけて飛び出し
「うひあぁ!!」
思わず驚きの声をあげたその瞬間。

 かぽっ

 私の口に、その物体は飛び込んだ。

しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

スマホアプリで衣食住確保の異世界スローライフ 〜面倒なことは避けたいのに怖いものなしのスライムと弱気なドラゴンと一緒だとそうもいかず〜

もーりんもも
ファンタジー
命より大事なスマホを拾おうとして命を落とした俺、武田義経。 ああ死んだと思った瞬間、俺はスマホの神様に祈った。スマホのために命を落としたんだから、お慈悲を! 目を開けると、俺は異世界に救世主として召喚されていた。それなのに俺のステータスは平均よりやや上といった程度。 スキル欄には見覚えのある虫眼鏡アイコンが。だが異世界人にはただの丸印に見えたらしい。 何やら漂う失望感。結局、救世主ではなく、ただの用無しと認定され、宮殿の使用人という身分に。 やれやれ。スキル欄の虫眼鏡をタップすると検索バーが出た。 「ご飯」と検索すると、見慣れたアプリがずらずらと! アプリがダウンロードできるんだ! ヤバくない? 不便な異世界だけど、楽してダラダラ生きていこう――そう思っていた矢先、命を狙われ国を出ることに。 ひょんなことから知り合った老婆のお陰でなんとか逃げ出したけど、気がつけば、いつの間にかスライムやらドラゴンやらに囲まれて、どんどん不本意な方向へ……。   2025/04/04-06 HOTランキング1位をいただきました! 応援ありがとうございます!

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

処理中です...