舌先三寸覚えあり 〜おヌル様は異界人。美味しいお菓子のプロ技キラめく甘々生活

蜂蜜ひみつ

文字の大きさ
145 / 175
羽馬渓谷編

第140話 吊り橋効果を回避せよ

しおりを挟む
 な、なるほど、こりゃまた、ホント……
 思ったよりもぉ密着するとぉきたもんだ。

 後ろからエタンにずっぽし抱き込まれ、お腹よりちょい上、胸の下あたりに、ぎゅうっと回されたエタンの腕。
 セクハラ対策を施す必要性、納得の密着ポーズ。

 さっきのカッコいいライダースジャケットを脱ぎ、エタンがいま着てるのは。
 上半身の一部チャックを開けて、前方騎手を取り込める、だぶだぶな二人乗り用の落下安全ツナギ。

 コントの二人羽織ににんばおりさながらエタンの服の中へ、私をぽすんと内包するようにイン。
 腕や膝下は騎手たるもの、自由に動かせるように、胴体と太ももだけだけど。
 あちこち連結パーツやらでカチリと留めて、互いをしっかり固定。

 くっつかり過ぎてなんか……恥ずかしい!
 でも、意識してるのがエタンにバレるのは、もっと恥ずかしい気がするから、平常心平常心。

 そだ、エタンの変な装いを見て落ち着こうっと。

「ん、なんだ? ちゃんと前見てくれよ、コニー」

「ひょわっ、あ、ご、ごめん」

 耳元で低音ボイスで喋られて、ぞわわってなった。
 エタンってば、いい声なんだもん。
 どきどきしちゃうのは、しょうがないよね?

「ヘンテコメガネのダサいエタンが見たかっただけ」
 
 騎手が装着するのは禁止だけど、タンデム同乗者用に開発された、漫画の瓶底メガネそっくりなのをかけているのだ。
 空間認識を歪ませ、高いとこの怖さを軽減なんちゃら。

「……今度クレールにカッコいいサングラスへ、特別に魔道具回路付与してもらいてえ」

 痩せて皮膚の余ったお相撲すもうさんコスプレみたいな、にくじゅば~ん肉襦袢色の二人乗り用安全服しかり。

 明らかにわらかす気満々だよね? このタンデムファッション。
 肉体的密着と高所の吊り橋効果で生じるドキドキリスクを回避する作戦に、確実に一役買ってることは間違いない。

 羽馬の二つある腹帯の一つ、騎乗者たちの股下を通して留める腰の安全ベルトが、いい感じにマワシ風味。
 ちなみに「相撲って知ってる?」って聞いたら、なにそれって言ってたけど、偶然ってすごい。

「ダメだよ、このままで。エタンぐらいの男前なら、これくらい個性的なメガネと服を着こなさなきゃ。よく似合ってるよ」

 ティアドロップ型のあの世界的に有名なサングラスをかけたエタンは、きっと格好良過ぎて反則だろうな。

 でも逆に、凄腕パイロットの風格漂う顔面ビジュアルで、私の背にコアラみたく一生懸命しがみついてるのも、ギャップがあって可愛いかもしれない。
 その上、相撲取り二人羽織だし。

「チェッ。似合ってるって言われても微妙だな。しっかし、羽馬に乗ってこんな高度で軽口言える日がくるなんてな。……マジな話、感謝してる。コニー。ありがとう」

 二人でたわいないお喋りの甲斐あってか、飛行当初より無駄な力の抜けたエタンが、ぎゅっと一瞬、わざと腕に力を込めて抱きしめてきた。

「うん、エタンの役に立てて良かった。それに私も楽しいし、一緒に飛べて嬉しいよ。あ、もうじきだね、虹の滝」

 さっき乗る前に「更衣塔に高度上げて帰るなら、虹を近くで見てみたい」って私の提案に対し。
 牧場羽馬は、虹渡り門界隈と羽馬聖岩の上空を、暗黙の了解で避けて通るから、どうなんだろうね、となったのだ。

 ギャロ爺っちゃは、そんならタマ子たちを一旦牧場に連れ帰って、私の筋肉痛対策に、奥さんの腰痛グッズを持ってきてあげよう、と言ってくれて。
 更衣塔で合流することになったのだ。

「エタン。虹って日本語で『こう』って読み方があるんだよ。日本人おヌル様の私としては、あの虹の裏の洞窟名前に『渡り』が入ってて何よりだと思ってんだ~」

 エタンの気分が紛れるように、くだらないお喋りするのが良いのかも? と思いついたことを私は口にする。

「ん? 謎かけか? 『渡り』を抜いたら、虹門にじもんだから……日本語で……こう……マジか?! ケツの穴じゃねえか。コニーから下ネタ聞けるとは、貴重だな、くっ、はははっ」

「下ネタじゃないやい! 日本語の特別伝授だよ。でも、下品だからクレールに教えるのは恥ずかしいかも、あはは」

「俺は特別?」

「ん。恥ずかしいメガネかけてるエタンと、恥ずかしおあいこだからさ。特別サービス」

「そうか。この恥ずいメガネが取り持つ秘密か。悪くねえな」
 こくり、私はうなづいた。

「ロクム。さっきロクムたちの住まいの崖にある滝や、てっぺんがどうなってるか見てみたいって言ったけど。無理強いはしないよ。コース取りはお任せするね」

 軽くいななき返事をするロクム。
 頭に乗ったポンポ振り向いて私に手を振る。
 背中の羽はいつのまにかなくて、いつもの水まんじゅう猫フォルム。

 私もクレールを振り返りたいけど、大っきいエタンが後ろにいるから見えっこない。

 さあいよいよだ。

 はりゃ、ロクムが右へと舵を切り、崖から離れいく。
 そっか……うん。
 ちょっぴり期待してたんだけどな、残念。

 わっ?!
 左へギュインと旋回したぞ。

 滝と虹とがババーンと、視界真正面にくるコース取り?!
 あ、もしかして……
 垂直に、崖に目掛けて飛んでいくロクム。

 壁の亀裂から吹き出す水のところに、淡い虹が一つ浮かんでいる。

 その水は下に向けて細かい飛沫しぶきの滝となって。
 崖にぽっかり大きく口を開けた暗闇を隠す、霧のシャワーカーテンさながら。

 そしてなんと言っても圧巻なのは。
 洞窟の入り口の下ら辺に存在する、明るく眩しい虹。

 初めて見た、虹のダブルアーチだ!
 
 下からじゃ一個だけしか見えなかったなあ。
 へえ……上下、配色が反転してる。
 なんて不思議なの、お伽話みたいな景色……

 少し上から滑空するように、二つの虹で作られた門を渡り。
 私とエタンを乗せたロクムは、真っ暗な洞窟の入り口へと滑り込んだ。





【第141話 羽馬聖岩の中】

しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

パーティーの役立たずとして追放された魔力タンク、世界でただ一人の自動人形『ドール』使いになる

日之影ソラ
ファンタジー
「ラスト、今日でお前はクビだ」 冒険者パーティで魔力タンク兼雑用係をしていたラストは、ある日突然リーダーから追放を宣告されてしまった。追放の理由は戦闘で役に立たないから。戦闘中に『コネクト』スキルで仲間と繋がり、仲間たちに自信の魔力を分け与えていたのだが……。それしかやっていないことを責められ、戦える人間のほうがマシだと仲間たちから言い放たれてしまう。 一人になり途方にくれるラストだったが、そこへ行方不明だった冒険者の祖父から送り物が届いた。贈り物と一緒に入れられた手紙には一言。 「ラストよ。彼女たちはお前の力になってくれる。ドール使いとなり、使い熟してみせよ」 そう記され、大きな木箱の中に入っていたのは綺麗な少女だった。 これは無能と言われた一人の冒険者が、自動人形(ドール)と共に成り上がる物語。 7/25男性向けHOTランキング1位

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...