捨てられたのは彼女?彼?

とくべぃ

文字の大きさ
1 / 2

囚われの王子

しおりを挟む
ハニーブロンドの少女が体をかき抱き、おもちゃを無くした子供のように泣いている。
「アンソニー様ぁ、赤ちゃんいなくなっちゃったの……」
ああライラ、泣かないでおくれ。
泣き続ける彼女に言葉も、この手も届かない。これは夢なのだ。それでも愛しい彼女に手を伸ばそうとすると、視界がスッと暗くなった。
ぴちゃん、ぴちゃっ。
真っ暗闇の中、後ろから水が滴り落ちる音がする。見たくない。聞きたくない。振り返ってはダメだ。
「どうして……」
か細い女の声が聞こえる。水音はすぐ後ろまで迫ってきていた。僕はこの声を知っている。罪の声だ。身体が縛られたように動かない。ガタガタと震える僕に、ひどく濡れた何かが後ろから抱きついてくる。
「どうして……私を殺したの?」
耳元でささやく声に目を向けると、水で重そうなアイスブルーの髪に、血の気の無い白い肌、紫色の唇。美しかったサファイアブルーの青い目は、まるでくりぬかれたように空洞になっている。僕はそんな彼女を見てたまらず絶叫した。

自分の叫び声で、僕は冷え冷えとしたベッドで目覚めた。心臓がドクドクと波打っているのがわかる。ハーッハーッと荒い息を整えてから、自分のいる場所を認識した。あれは夢だ。確かにあの時彼女は死んだ。ライラも国境近くの修道院に送られたと聞いている。

ここは北の塔の最上階。王族や上位貴族が犯罪を犯した時に幽閉される場所である。ある程度空調設備は整っているのに、寒々しいのは、石畳のせいなのか、あの彼女の瞳のような冷たいブルーを基調としたインテリアのせいなのか。

ここで彼女の幽霊がいるなんて考えに囚われると、それはもう発狂の入口だ。何とか起き上がると、夢の原因を探して部屋の中をフラフラとさまよう。貴人用の牢だけあって、1部屋ではあるが広々とした空間である。家具だって王宮にあるものと大して変わらない。なのに胸にせりあがってくるような圧迫感を感じるのは、ノートサイズの小さな窓が1つしかないからだろう。その申し訳程度の窓から外をのぞき見ると、今日は雨だった。鉛色の空模様が見える。雨がガラスを打つ音、滴り落ちる水の音で、あんな夢を見たらしい。

悪夢の理由を確認したところで、僕はまたベッドに寝転んだ。この部屋の中でもひと際大きく立派な天蓋付きベッドは、なんでも、北の塔の囚われ人は発狂して衰弱死するのが通例で、最後のときを少しでも快適に過ごせるようにという哀れみからくるものらしい。

僕は何を間違えたのか。
ライラを愛したことか。あのときあんな形で婚約破棄をしようとしたことか。
ミランダを殺す気なんてなかった。ただ可哀そうなライラのためにも、ミランダを貴族社会から追い出したかっただけなのに。

石畳の模様を数えながら、僕はあの日の過ちを思い出す……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!

志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」  皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。  そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?  『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!

婚約破棄を伝えられて居るのは帝国の皇女様ですが…国は大丈夫でしょうか【完結】

恋愛
卒業式の最中、王子が隣国皇帝陛下の娘で有る皇女に婚約破棄を突き付けると言う、前代未聞の所業が行われ阿鼻叫喚の事態に陥り、卒業式どころでは無くなる事から物語は始まる。 果たして王子の国は無事に国を維持できるのか?

【完結】真実の愛とやらに目覚めてしまった王太子のその後

綾森れん
恋愛
レオノーラ・ドゥランテ侯爵令嬢は夜会にて婚約者の王太子から、 「真実の愛に目覚めた」 と衝撃の告白をされる。 王太子の愛のお相手は男爵令嬢パミーナ。 婚約は破棄され、レオノーラは王太子の弟である公爵との婚約が決まる。 一方、今まで男爵令嬢としての教育しか受けていなかったパミーナには急遽、王妃教育がほどこされるが全く進まない。 文句ばかり言うわがままなパミーナに、王宮の人々は愛想を尽かす。 そんな中「真実の愛」で結ばれた王太子だけが愛する妃パミーナの面倒を見るが、それは不幸の始まりだった。 周囲の忠告を聞かず「真実の愛」とやらを貫いた王太子の末路とは?

お礼を言うのはこちらですわ!~婚約者も財産も、すべてを奪われた悪役?令嬢の華麗なる反撃

水無月 星璃
恋愛
【悪役?令嬢シリーズ1作目】 一話完結。 婚約者も財産も、すべてを奪われ、ついには家を追い出されたイザベラ・フォン・リースフェルト。 けれど彼女は泣き寝入りなどしない。 ――奪わせてあげますわ。その代わり……。 上品に、華麗に「ざまぁ」する悪役?令嬢のひとり語り。 ★続編『謝罪するのはこちらですわ!~すべてを奪ってしまった悪役?令嬢の優雅なる防衛』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/947398225/744007806

その言葉、今さらですか?あなたが落ちぶれても、もう助けてあげる理由はありません

有賀冬馬
恋愛
「君は、地味すぎるんだ」――そう言って、辺境伯子息の婚約者はわたしを捨てた。 彼が選んだのは、華やかで社交界の華と謳われる侯爵令嬢。 絶望の淵にいたわたしは、道で倒れていた旅人を助ける。 彼の正体は、なんと隣国の皇帝だった。 「君の優しさに心を奪われた」優しく微笑む彼に求婚され、わたしは皇妃として新たな人生を歩み始める。 一方、元婚約者は選んだ姫に裏切られ、すべてを失う。 助けを乞う彼に、わたしは冷たく言い放つ。 「あなたを助ける義理はありません」。

後悔などありません。あなたのことは愛していないので。

あかぎ
恋愛
「お前とは婚約破棄する」 婚約者の突然の宣言に、レイラは言葉を失った。 理由は見知らぬ女ジェシカへのいじめ。 証拠と称される手紙も差し出されたが、筆跡は明らかに自分のものではない。 初対面の相手に嫉妬して傷つけただなど、理不尽にもほどがある。 だが、トールは疑いを信じ込み、ジェシカと共にレイラを糾弾する。 静かに溜息をついたレイラは、彼の目を見据えて言った。 「私、あなたのことなんて全然好きじゃないの」

婚約破棄は喜んで

nanahi
恋愛
「お前はもう美しくない。婚約破棄だ」 他の女を愛するあなたは私にそう言い放った。あなたの国を守るため、聖なる力を搾り取られ、みじめに痩せ細った私に。 え!いいんですか?喜んで私は去ります。子爵令嬢さん、厄災の件、あとはよろしく。

私が誰だか、分かってますか? 【完結保証】

美麗
恋愛
アスターテ皇国 時の皇太子は、皇太子妃とその侍女を妾妃とし他の妃を娶ることはなかった 出産時の出血により一時病床にあったもののゆっくり回復した。 皇太子は皇帝となり、皇太子妃は皇后となった。 そして、皇后との間に産まれた男児を皇太子とした。 以降の子は妾妃との娘のみであった。 表向きは皇帝と皇后の仲は睦まじく、皇后は妾妃を受け入れていた。 ただ、皇帝と皇后より、皇后と妾妃の仲はより睦まじくあったとの話もあるようだ。 残念ながら、この妾妃は産まれも育ちも定かではなかった。 また、後ろ盾も何もないために何故皇后の侍女となったかも不明であった。 そして、この妾妃の娘マリアーナははたしてどのような娘なのか… 17話完結予定です。 完結まで書き終わっております。 よろしくお願いいたします。

処理中です...