捨てられたのは彼女?彼?

とくべぃ

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囚われの王子

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ハニーブロンドの少女が体をかき抱き、おもちゃを無くした子供のように泣いている。
「アンソニー様ぁ、赤ちゃんいなくなっちゃったの……」
ああライラ、泣かないでおくれ。
泣き続ける彼女に言葉も、この手も届かない。これは夢なのだ。それでも愛しい彼女に手を伸ばそうとすると、視界がスッと暗くなった。
ぴちゃん、ぴちゃっ。
真っ暗闇の中、後ろから水が滴り落ちる音がする。見たくない。聞きたくない。振り返ってはダメだ。
「どうして……」
か細い女の声が聞こえる。水音はすぐ後ろまで迫ってきていた。僕はこの声を知っている。罪の声だ。身体が縛られたように動かない。ガタガタと震える僕に、ひどく濡れた何かが後ろから抱きついてくる。
「どうして……私を殺したの?」
耳元でささやく声に目を向けると、水で重そうなアイスブルーの髪に、血の気の無い白い肌、紫色の唇。美しかったサファイアブルーの青い目は、まるでくりぬかれたように空洞になっている。僕はそんな彼女を見てたまらず絶叫した。

自分の叫び声で、僕は冷え冷えとしたベッドで目覚めた。心臓がドクドクと波打っているのがわかる。ハーッハーッと荒い息を整えてから、自分のいる場所を認識した。あれは夢だ。確かにあの時彼女は死んだ。ライラも国境近くの修道院に送られたと聞いている。

ここは北の塔の最上階。王族や上位貴族が犯罪を犯した時に幽閉される場所である。ある程度空調設備は整っているのに、寒々しいのは、石畳のせいなのか、あの彼女の瞳のような冷たいブルーを基調としたインテリアのせいなのか。

ここで彼女の幽霊がいるなんて考えに囚われると、それはもう発狂の入口だ。何とか起き上がると、夢の原因を探して部屋の中をフラフラとさまよう。貴人用の牢だけあって、1部屋ではあるが広々とした空間である。家具だって王宮にあるものと大して変わらない。なのに胸にせりあがってくるような圧迫感を感じるのは、ノートサイズの小さな窓が1つしかないからだろう。その申し訳程度の窓から外をのぞき見ると、今日は雨だった。鉛色の空模様が見える。雨がガラスを打つ音、滴り落ちる水の音で、あんな夢を見たらしい。

悪夢の理由を確認したところで、僕はまたベッドに寝転んだ。この部屋の中でもひと際大きく立派な天蓋付きベッドは、なんでも、北の塔の囚われ人は発狂して衰弱死するのが通例で、最後のときを少しでも快適に過ごせるようにという哀れみからくるものらしい。

僕は何を間違えたのか。
ライラを愛したことか。あのときあんな形で婚約破棄をしようとしたことか。
ミランダを殺す気なんてなかった。ただ可哀そうなライラのためにも、ミランダを貴族社会から追い出したかっただけなのに。

石畳の模様を数えながら、僕はあの日の過ちを思い出す……
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