ホストの俺が、転生先ではじめたホストクラブが魔道具屋になってしまった理由。

弥湖 夕來

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「えっと、つまり…… 」

 俺は言いよどむ。

 正直俺にもイマイチ状況が良くわからない。
 わかっているのはグリゼルタが妖魔にとりつかれ、他人の生命力を奪っていたということだけだ。
 その妖魔だって何処からきたのやら、さっぱり…… 

「妖魔にとり憑かれて少々おいたが過ぎたんだよ」

 先ほどの瓶を軽く振りながら兄貴が言う。

「嘘! 
 わたしなにかしでかしたの? 」

 グリゼルタは困惑したように目を見開く。

「憶えていないんなら、思い出さないほうがいいよ」

 兄貴はグリゼルタの巻き毛を軽く撫でる。

「ただ、一つだけ教えてもらいたいんだけど。
 記憶が途切れているのはどの辺から? 
 何をしていて目が覚めたらそのテーブルに横になっていた? 」

「記憶? 
 そうねぇ…… 
 変な音があんまり気になったから音の出ている場所を捜しに行って…… 
 パントリーの前まで行ったのは確かよ。
 って、エジェ! 
 何よあれ。あのゴミ屋敷! 」

 不意にグリゼルタが怒りを剥き出しにして俺に怒鳴った。

「お前、あの中見たのか? 」

「見たわよ、鍵掛かっていなかったもの」

 兄貴が黙って俺の肩を軽く叩いた。

「まさか…… 」

「それだな。
 封印の甘かったものから漏れ出たんだろう。
 ついでにお前が鍵をかけ忘れたから、たまたま覗いたグリゼルタがとり憑かれた」

「嘘だろう…… 」

 俺は頭を抱えてうめく。

「愚弟のせいで怖い思いをさせたね、グリゼルタ」

 兄貴は俺の前でグリゼルタを軽く抱きしめる。

「とりあえず私はこれで帰るけど、また何かあったらすぐに連絡して」

 まるで逃げさるように兄貴は荷物を纏めると帰っていった。
 
 

 俺はグリゼルタと二人その場に残されて呆然とする。

「どういうことか、説明してもらっていい? 」

 案の定グリゼルタが詰め寄ってくる。

「っと、その前にちょっといいかな? 」

 俺は少し腰を上げた。

「逃げるつもり? 」

 グリゼルタが俺の上着の裾を握り締めた。

「いや、そうじゃなくて。
 どうしても確かめたいことがあるんだよ。
 すぐに戻るから」

「じゃ、わたしも行く! 」

 上着の裾を握り締めたままグリゼルタも立ち上がる。
 本当は連れて行きたくはないけれど、抵抗しても無駄だろう。
 俺はしぶしぶ頷いた。
 
 裏の廊下はいつもと変わらなかった。
 静まり返って空気一つ動かない。
 やっぱり物音なんてグリゼルタの気のせいだ。
 俺はドアに手を伸ばす。
 確かに常に鍵はかけてあったはず…… 
 そう信じ込んでドアに手を掛けると、すかりとドアが開く。

「うそ、だろ? 
 確かにしっかり掛けて…… 」

 その証拠にドアの側面にデットボルトが飛び出している。
 
 もしかして、やっちまった? 
 
 俺は思わず青ざめる。
 
「これじゃない? 
 これが引っかかっていたからドアが完全に閉まらなかったのよ」

 グリゼルタが天井付近に押し込んだ鏡を見上げる。

 確かに、僅かに飛び出してドアの上部に引っかかっている。

「これじゃ、いくら鍵回しても掛からないわけよ」

 呆れたように言うグリゼルタの手を借りて、俺は荷物を積みなおすと今度はきっちりドアを閉め、それを確認した後鍵を掛ける。
 とりあえずは一安心だ。
 俺は息をつく。

「それで、どうしてわたしが事務室の机の上に横になってたの? 」

 それも束の間、やっぱり忘れてくれていなかったグリゼルタに再び詰め寄られた。
 
「つまり、あのパントリーに詰め込んである、魔術がらみの物から出た妖魔がわたしに取り付いたってこと? 」

 気を取り直してお茶を淹れ一息ついたところで俺はことの顛末を一気に喋り捲った。

「呆れた。
 おかしいとは思っていたのよね。
 あのパントリーの話になるとエジェ挙動不審だったし。
 そんな危ないものひとまとめにして目につかないところに放り込んで蓋してたわけ? 
 何が起こっても自業自得じゃない」

「済まん。
 ごめんなさい。
 申し訳ない」

 とにかく俺はひたすら頭を下げる。

「何もかも詰め込むから悪いのよ。
 たまには整理したら? 」

「今度、いつか、な」

 俺はグリゼルタの言葉をはぐらかす。

「今度って何時? 
 今回は、わたしで済んだけど、もしこれが従業員の誰かだったらどうするつもり? 」

 怖い顔でグリゼルタが額を寄せる。

「俺だって片付けたいって思ってる! 
 けど、あの中に詰っているの皆訳ありの品物だぞ。
 そう簡単に売ったり捨てたりできないんだよ」

 額に浮かんだ汗をぬぐいながらとにかく俺は説明する。

「もう、どうしてこんなに溜め込んだのよ? 
 エジェに収集癖があるなんて聞いていないわよ」

「実はかくかくしかじかで…… 」

 俺は最初からの経緯を説明した。

「ふぅん。
 手放してもいいけど手放せないものばかりってことね」

 グリゼルタは何度か頷く。

「一番手っ取り早いのは、売ればいいのよね」

 考えながらグリゼルタは言う。

「それができたらこんなところに積み上げてなんかおくもんか。
 これ何処に売れっていうんだよ? 」

 俺はその短絡的な案に声をあげる。

「街の魔道具屋だってこっちがどんな手法で手に入れた物かわかれば、足元見て二束三文でしか買わないし。
 第一、贈ってくれた女性客にばれる可能性だって高くなるんだよ。
 お気に入りのホストの為に珍しいもの探し出すのに躍起になっているんだからな」

 正直魔道具屋に稼がせてやる義理はない。

 だったら従業員の手取りを少しでも上げてやりたい。

「いっそのこと魔道具屋はじめたら」

 グリゼルタが何かを思いついたように笑顔を向ける。

「はぁ? 」

 その突飛な言葉に俺は呆けた声をあげる。

「正式に魔道具取り扱うお店を商えば、売り払っても何の問題もないでしょ? 
 それに魔導師以外入店禁止にしてお客さんを選べば、これを扱える魔導師ばかりになるし、安全でしょ? 
 家のほうも、こんなお宝ただ眠らせて部屋をいっぱいにしてしまうよりいいし。
 いただいた物が売れれば、皆にも収入になるじゃない」

「プレゼントを運んでくる客にはどう言い訳するんだよ? 
 お目当てのホストに使ってもらいたくてせっせと収集して来るんだぞ」

「ん~? そうね」

 グリゼルタは少し首を傾げてから口を開く。

「持って産まれた魔力といただいた魔道具との相性が悪いから使いこなせなかったとか。
 もっと上物の魔道具見つけてどうしても欲しかったから、売却して新しい物を買う足しにさせてもらったとか? 
 まぁ、適当な言い訳なんていくらでも見つかるわよ」

 グリゼルタは笑顔をこぼす。

「ホストクラブの方はどうするんだ? 
 俺二軒も店切り盛りできないぞ」

「それもご心配なく。
 わたしには魔力がないから魔道具のお手伝いはできないけど、表のお店の方なら手伝えるわ。
 第一閉めちゃったら、その曰くつきの魔道具? 集まってこなくなるもの。魔道具商だってできなくなるし」

「な、訳あるか? 
 あのな、ここに来る客、ちやほや姫君扱いしてもらっていい気分になりに来るんだぞ。
 おまえみたいなのが店内うろうろしてたら、嫌でも自分の不細工さ思い知らされて興ざめだろうが」

「お客様に対してそう言う認識の訳? 」

 グリゼルタは呆れたように俺を見据える。

「いや、それは、その…… 
 正直中にはそう言うお客様もいるのも事実だし…… 
 俺の目にはみんなそう見えると言うか…… 」

 俺はもそもそと言い訳を引っ張り出す。

「ありがと。うれしい! 」

 グリゼルタが幸せそうに顔をほころばせると俺の頬に軽くキスを落とした。

「だから、おまえが店に出るのは絶対駄目! 」

「これ、何だと思う? 」

 グリゼルタは部屋の片隅から一枚のドレスを引っ張り出す。
 上等な生地からはなんとなく魔術の匂いがした。

「先日、お義兄様にいただいたの。
 着ると倍くらいに太って見えるドレスですって」

「あのヤロー! 」

 俺は頭を抱え込む。
 そういえば最初からグリゼルタは店を手伝うと口にしていた。
 何もかも承知で二人でこうなるように計画していたというところか。





 ……あれから数年。

 今日もまた、何時の間にか俺に代わって表を取り仕切るようになったグリゼルタに促され、一人の魔術師が裏の店のドアを開ける。
 一見まだ少女に見える銀の髪と揃いの瞳の恐らく産まれついての魔女。
 手には夢魔が入っていると思われる、小さな箱が握られていた。

「いらっしゃいませ。
 どんなものをお探しですかな? 
 夢使いの魔女さん」

 俺は少女に笑いかけた。

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