1 / 27
- 0 -
しおりを挟む「……ニア・エスコラ。七歳。数値191。
ユリアナ・ハーカナ。十五歳。数値70。
エミリア・へリスト。十八歳。数値97。
マユルト・キヴィ。三十八歳。数値287。
ウルリーカ・ラウタコルビ。十六歳。数値58……
……以上、五人が今回の候補者となります」
良く通る男の声が室内の高い天井に朗々と響いた。
国の信仰を一手に束ねる王都の中央神殿の一室には、夕闇が広がり始めていた。
夕べの祈りの前、神官たちが休息をとるわずかな時間。
集められた面々は難しい表情で額をつき合わせていた。
纏った衣服から、皆高貴な人間であることは見て取れた。
その中には国王や、大神官といったこの国の頂点に立つ男の姿もある。
「数値からしたら、やはりキヴィが有力ですかな?
280越えは『神子』にも迫る数字ですし…… 」
一人の男が決まりきったこととばかりに言う。
「待たぬか、それでは『神子』が望めぬではないか」
途端に部屋の奥、中央に座した老齢の男が不満そうな声をあげた。
居合わせた人々の中でも取り立てて豪華な神官の装束を纏った男は、座った位置からも最高の地位を持っていることを物語っている。
神殿の長、大神官だ。
「とは言っても大神官様、次の候補者はさすがに幼すぎると思いますが」
困惑気味な声がどこからともなく告げられる。
「確か、十八の者がいたな? 」
大神官と呼ばれた老齢の男の目が顰められた眉毛の下でかすかに光る。
「ですが数値も低めですし…… 」
先ほどの声がもう一度あがる。
「なに、身内の者が隠しているということもありうるぞ」
「確かに、神殿に差し出すのを恐れてあえて娘の能力を隠す家もありますが…… 」
「へリスト家は、確か何代か前にも出しておったな。
なら、尚更隠すとは思わぬか? 」
「親族は内情を薄々知っているでしょうから、隠し立てしてもおかしくはありません。
ですが…… 」
「では、ヘリストで決まりだ。
この際数値は関係ない。
要は魔力を片鱗でも持っていれば問題はないはずだ」
「お待ちください!
ヘリストでは、いくらなんでも若干若いと思いますが。
能力はともかく、早すぎるのではと……
前回の例もありますし。
もう少し世間慣れしている人間のほうがよろしいのではありませんか? 」
「そこを納得させるのもお前らの仕事だろう。
早ければ十五・六で嫁がされる者も居る、若すぎるということもなかろう。
なに、二・三年もすれば充分な齢になるではないか」
若い神官の言うことなど、耳に入れる価値もないとばかりに大神官は吐き捨てた。
「それまでに、大叔父上がつぶさなければ、ね…… 」
それまで、ずっと口を閉ざしていた大神官の隣に座る、これもまた身なりのいい若い男が呟いた。
「今回は見送ったらどうだ?
『神子』のことはどうしても今でなくてもかまわないはずだ。
強い能力を持った者がいれば、それに任せ、また次の機会を待つべきだと、私は思うが? 」
若い男の向かいに座る中年の恰幅の良い男が、威厳のある声を発した。
「ですが、陛下。
先代の神子が身罷ってからすでに二十年。
『神子』の残した力もそろそろ尽きようとしております。
尽きる前にどうしても新しい『神子』を設ける必要があることはご承知のはず」
男の言葉に抗議するような大神官の声。
「年頃の人間が居らねばいたしかたあるまい」
「……そもそも、つぶしたのは大叔父上ですよね? 」
若い男がまた、ポツリと呟く。
しかし、その呟きは年老いた男の遠くなった耳には届かなかったようだ。
「居るではありませんか、ただ少々数値が低いというだけの話。
先代の神子の力が残っている今ならまだ、かろうじてこの程度の数値の人間でも今の状態を保つことは可能だ。
その間に何とか次の『神子』を用意しなくては。
違いますかな? 」
老人は男の言葉にかまわずに続ける。
「陛下は黙って、その『血』だけお貸しくださればよいのです。
そもそも、これは神殿の話。
王宮の皆様に意見を言われる筋合いはありませぬぞ! 」
老人は声を荒げた。
大神官の言葉に国王は諦めたように大きなため息をついた。
……何を言っても無駄だろう。
そんな表情を向かいの若い男に向ける。
「では、決まりということでよろしいですな? 」
男は誰の口も挟ませずに、勝手にまくし立てた後、そう言い切った。
「私は、今回の役目は辞退するよ」
国王は瞳を伏せ立ち上がる。
「陛下? 」
「どうせ、ここでは私に発言権はない。違うか? 」
「…… 」
呼び止めた男の顔が苦々しく歪む。
その顔を目に国王は小さく頷くと黙って室内を出て行った。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
そろりと何かが腿の辺りを這う。
なんだか、少しごつくて柔らかい、そして暖かなものだ。
自分の躯を這う妙な感覚に、エミリアは目を覚ました。
「! 」
途端に言葉なく目を見開き、躯を強張らせた。
みたこともない豪華な帳の下りた天蓋つきのベッド。
何故か、そのベッドに敷かれたリネンのシーツに横たえられていた。
そして、その自分の顔を同じく横になった状態で覗き込んでいる半裸の若い男。
視線を動かすと、男の手がエミリアの腰骨の辺りに添えられている。
「い、い、い…… 」
悲鳴をあげたいのに驚きすぎて声が喉に張り付き出てこない。
リネンのシーツを這うようにして、エミリアは男の手から抜け出すと側に無造作に丸まっていた毛布を引き寄せベッドを降りようとした。
しかし、見知らぬ大きなベッドを取り囲む帳に隔された壁に行く手を阻まれてしまった。
「あ、あの…… 」
唇をわななかせながらエミリアは同じベッドに横になっていた男を見据える。
……どうしよう。
もし、このまま男が近づいてきたら。
逃げ場がないのを自覚しながら、脱出口を確保しようと周囲を見渡す。
ドアが男の背後にあるのが目に入った。
このままの位置関係から考えると、目の前の男を回りこまないとこの部屋からは出られなさそうだ。
それには、この男を何とかしなければ。
下手をしたら捕えられてしまう。
そしたら……
これから起ころうとしていること、もしくはすでに済んでしまったかも知れないことを予見して、エミリアの肌が粟立った。
0
あなたにおすすめの小説
君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】
ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る――
※他サイトでも投稿中
で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?
Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。
簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。
一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。
ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。
そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。
オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。
オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。
「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」
「はい?」
ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。
*--*--*
覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾
★全31話7時19時更新で、全話予約投稿済みです。
★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓
このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。
第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」
第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」
第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」
どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ
もしよかったら宜しくお願いしますね!
『紅茶の香りが消えた午後に』
柴田はつみ
恋愛
穏やかで控えめな公爵令嬢リディアの唯一の楽しみは、幼なじみの公爵アーヴィンと過ごす午後の茶会だった。
けれど、近隣に越してきた伯爵令嬢ミレーユが明るく距離を詰めてくるたび、二人の時間は少しずつ失われていく。
誤解と沈黙、そして抑えた想いの裏で、すれ違う恋の行方は——。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
旦那様。私が悪女ならば、愛人の女は何になるのかしら?
白雲八鈴
恋愛
我が公爵家主催の夜会の最中。夫が愛人を連れてやってきたのです。そして、私を悪女という理由で離縁を突きつけてきました。
離縁して欲しいというのであれば、今まで支援してきた金額を全額返済していただけません?
あら?愛人の貴女が支払ってくれると?お優しいわね。
私が悪女というのであれば、妻のいる夫の愛人に収まっている貴女は何なのかしら?
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる