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sakaki

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***

咲夜の行きつけの店で食事を済ませ、コンビニで大量の酒を買ってから帰宅した。
食事の間も、酒を酌み交わす間も、当初心配していた気まずさはまるでない。
3年のブランクも感じられない程自然に過ごすことができた。
それは喜ばしいことで、内心かなりホッとしているのだが・・・そのあまりの普通さに、咲夜は違和感を覚えていた。
かくいう今も、酔いつぶれてソファで眠る美琴にただただ困惑している所だ。
(俺に寝込み襲われるかもとか・・・思わねぇのかな・・・)
無防備な寝顔を眺めながら缶ビールを煽る。

3年前・・・美琴が日本を発つ前夜、たった一度だけ咲夜は美琴を抱いた。
何も力尽くで無理やり犯した訳ではない。
だが、美琴の気持ちを確かめることもせずに自らの欲望のままに強いた行為など、限りなく強姦に等しい。
翌朝になって、美琴が何も言わずに咲夜のアパートから消えていたのがその証拠だろう。

(まさか忘れてるわけでもねーだろうに・・・)
煙草を灰皿に押し付け、また新たな缶ビールに手を伸ばす。
開けた拍子にプシュッという大きな音が鳴ったが、美琴は全く目を覚まさない。心地よさそうに規則的な寝息を立てるのみだ。

自分を犯した男の傍で、なぜこんなにも警戒心を抱かずにいられるのか・・・咲夜には理解できなかった。
きっと恨まれていると思っていたのに、美琴はあまりにも“普通”でいてくれる。
また微笑みかけてくれる日がくるなんて思いもしなかったのに・・・。

(まさか自分が散々ネタにされてるなんて・・・思わねーよな)
アルコールにより高揚している頬と唇から洩れる吐息が、否応なしにあの時の美琴を彷彿させる。
罪悪感を覚えながらも、一体何度思い返したか分からない。
誰を抱いたとしても、絶頂を迎える間際に浮かぶのは自分の腕の中で淫らに喘ぐ美琴の姿。

(我ながら情けねぇよな。未練タラタラじゃねーか・・・)
深々とため息を漏らす。
ビールを一口含んでから、重い腰を上げて美琴に歩み寄った。
「おーい、寝るならちゃんとベッドに行けって」
言いながら、美琴の寝ているソファを軽く蹴る。
「んん・・・」
美琴は眉を顰めて寝返りを打ったものの、目を覚ます気配はない。
咲夜は少し悩んでから、また一つ大きなため息を漏らした。
「運ぶからな。触るぞ。いいな?」
わざと声を張りながら言い、恐る恐る美琴の腕に触れる。
抵抗されないのを確かめてから、ゆっくりとその体を抱きかかえた。



翌朝。
時刻にして6時半。目覚ましが鳴るよりも幾分早いこの時間に、けたたましいインターフォンの音によって咲夜は目覚めた。
驚きにより勢いよく体を起こすと、テーブルの上の大量の缶に手が当たって随分と派手な音を立てた。

「はい?」
寝癖のついた髪をかき上げながら玄関の扉を開くと、顔中から不機嫌さがにじみ出させた人物が立っていた。
力任せに扉をこじ開け、強引に室内に踏み入る。
呆気にとられている咲夜に、掴みかからんばかりの勢いで怒鳴り散らした。
「ちょっと!なんで昨日連絡くれなかったのよ!!ずーっと待ってたのに、2か月記念のお祝いしようって約束したでしょ!!」
キンキンとした甲高い声が二日酔いの頭に響く。
(やべぇ、カンッペキに忘れてた・・・)
咲夜は頭を抱えつつ、小型犬のようにキャンキャンと吠え続ける目の前の女を見つめた。
「悪かったよ、ちょっと昨日はゴタゴタしてて・・・」
素直に謝罪を口にしようとするが、彼女の耳には一切届いてないらしい。
リビングを覗き込み、夥しい数の酒盛りの後を見つけてさらに怒りを増幅させた。
「人のことほっといて飲んでたわけ!? あれ一人分じゃないわよね? まさか女でも連れ込んでるんじゃないでしょうね!?」
濃いめのアイメイクを施した大きな瞳で咲夜を睨む。この早朝からよくもそこまでテンション高くいられるものだ。
咲夜が呆れて何も答えずにいると、どうやらシャワーを浴びていたらしい美琴が顔を出した。
当然ながらこの騒ぎに驚き、何だかひどく困惑した顔をしている。
「・・・すみません、昨夜は僕が突然転がり込んだものですから」
タオルで濡れた黒髪を拭いつつ、余所行きの笑顔で美琴が言った。
「え・・・だ、誰?」
グロスを引いた唇をへの字に曲げて、困ったように問いかける。
「後輩、兼同僚」
咲夜は当たり障りなく美琴のことを一言で述べた。
そして何となく気まずい心地がしながらも、今度は美琴に向き直ってこちら側の紹介をする。
「春野倫子(はるの りんこ)サン。一応彼女」
「ちょっと、一応って何よ!?」
些細な言葉にまた食って掛かられ、本当に朝から血気盛んだと感心した。

「倫子、とりあえずもう帰れ。俺ら学校あるし。また埋め合わせはするから」
咲夜が宥めるように言う。
腑に落ちないような顔をしていたが倫子だが、美琴の目があるからか、渋々ながらも大人しく帰って行った。
「彼女・・・美人ですね」
テーブルの上の空き缶を片付けながら、美琴がポツリと言う。
「面食いですよね、御剣先生は」
高校の時も大学の時も付き合う女性は皆綺麗処ばかりだった・・・そんなことを揶揄するように言われた。
「まぁ綺麗に越したことはねーけど、別に面食いってわけじゃ・・・」
咲夜は言い訳のように呟く。
美琴は意地悪い笑みを浮かべてさらに続けた。
「言い寄ってくる女性が多いから、その中から選りすぐりの美人を選べるんでしょうね。いいですよね、モテる人は」
「あのなぁ・・・」
あからさまな嫌味に流石の咲夜も顔を顰める。
何か言い返そうとも思ったが、美琴にジロリと睨まれて思わず口を閉ざした。
「貴方もそろそろ準備しなくていいんですか? 遅刻しますよ」
何処となく冷たい口調で言い捨てられ、咲夜はさらに困惑。
とはいえ時計を見ればごもっともなので、素直に従いバスルームへ向かった。
(なんか急に機嫌悪くなったな・・・)
黙々と片づけをする美琴をこっそり見やり、戸惑いを覚える。
昨夜までは口調にこそ可愛げはないものの、それでも楽しそうにしてくれていたのに・・・。
単に低血圧なのか、二日酔いなのか、朝から騒しくしてしまった所為か、それとも・・・
(ヤキモチだったりして・・・って、んなわけねーか・・)
ふと湧いて出たあまりにも楽天的な考えに、自分で“有り得ない”とツッコミを入れる咲夜だった。



***

昼休み。咲夜は購買で買ったパンを手に、保健室へと向かっていた。
突如今夜は外食することを余儀なくされたため、美琴が先に帰っておけるように合鍵を渡すためだ。

保健室が近づくにつれ、何やら生徒たちの行列にかち合った。
幻のメロンパンにでも並んでいるのかとも思ったが、どう見ても購買部とは反対方向だ。
一体何事なのかと横目で見ながら目的地へ歩みを進める。・・・と、行列の先頭が保健室に続いていることに気付いた。
よくよく見れば、生徒たちは皆デレデレと浮足立った表情を浮かべながら突き指や打ち身、頭痛など極々大したことのない症状を訴えている。
つまりは単なる美琴目当ての行列と言うわけだ。
(流石、元ミスコン覇者・・・)
高校時代の美琴のモテぶりが思い出される。

咲夜たちの高校時代・・・この帝城高校がまだ男子校だったころ、美琴は文化祭名物“ミスター女装コンテスト”に嫌々ながらに出場し、見事にグランプリを受賞した。
当然ながら人気は絶大なもので、男に言い寄られるのは日常茶飯事。
ファンクラブめいたものまであり、果てはストーカーになる者も少なくなかった。
妙な輩が近づく度に、咲夜が力づくで追い返していたものだ。

(っつーか、これ俺も並ばないといけないのか・・?)
改めて長蛇の列を眺め、げんなりする。
合鍵を渡しがてら一緒に昼食でもと思っていたというのに、まともに並んでいたのでは昼休みが終わってしまいかねない。
出直そうかと思いあぐねいていると、不意に保健室の扉が開いた。
どんなにやけ顔が出てくるのかと思いきや、現れたのはとんだ仏頂面。きっちり着込んだスーツに銀縁眼鏡のインケン教師、宇佐美響一朗(うさみ きょういちろう)だ
彼の姿が見えた途端、列を成していた生徒達が一斉に硬直したのが分かった。
「見たところ全員元気そうだが、保健室に一体何の用だ?」
持っていた書類をトントンと手に打ち付け、生徒達を鋭い眼光で見据える。
その一睨みで行列は一斉に解散した。生徒たちは散り散りになって逃げている。
目の前の光景に、咲夜は思わず笑みを漏らした。
「相変わらずすげぇな、響一朗」
揶揄するように話しかける。
宇佐美は思い切り顔を顰めた。
「ここでその呼び方はやめろ」
こちらに歩み寄り、少しばかり声を潜めて言う。
「あぁ、悪い悪い。失礼しました。宇佐美先生」
咲夜は口先だけの謝罪を述べ、大して悪びれることもなくヘラヘラと笑った。

宇佐美響一朗は御剣朝香の実の息子・・・つまり咲夜の甥に当たる。
甥とはいえ歳の差は僅か1つ。一緒に育ったこともあり、どちらかと言えば兄弟のような存在だ。
だが宇佐美の希望により、学校では他人の振りをするようにしている。
咲夜との、というよりは理事長である朝香との血縁関係がバレたくないらしい。気持ちは分からないでもないが。

「丁度これから国語教諭室に行こうと思ってたんだ。手間が省けたな」
「なんだこれ?」
書類を手渡され、咲夜は眉を顰める。
「体育祭実行委員の資料。綾華先生にもそれを渡しに来たんだ」
宇佐美はため息を漏らしながら答えた。
書類の中身を知って咲夜はの眉間には益々皺が寄る。
「うわ、めんどくせぇ・・・」
そういえば夏休み前の会議で実行委員顧問に自分の名前が挙がっていたのを思い出した。
美琴にも資料を渡しに来たということは、彼もまた顧問に選出されたのだろう。新任早々ご苦労なことだ。
「さっきの様子じゃ体育祭にも余分な怪我人が救護テントに溢れかえりそうだな。ま、綾華先生のボディーガードも兼ねてていいんじゃないか」
宇佐美がからかい交じりに言う。無意識なのだろうが、薄く笑みを讃えたその顔には“冷血教師”とは程遠い。
(素が出てるっつーの)
咲夜もつられるように顔を綻ばせ、宇佐美に手を振って別れた。


「失礼しまーす」
軽くノックをしてから保健室の扉を開ける。
美琴は机に向かい、パンを食べながら先ほど渡されたのであろう書類に目を通していた。
「よぉ、お疲れ」
今朝の気まずさもあり、咲夜は敢えてヘラヘラと笑いながら声をかけてみる。
こちらを振り返った美琴に特に不機嫌そうな様子は見られず、とりあえずはホッとした。
椅子に腰かけ、美琴と向き合いながら咲夜もパンを頬張る。
そして本題に入った。
「今日ちょっと野暮用が出来ちまって、一緒に帰れそうにねーから合鍵渡しとくな」
当たり障りのない言い方をして鍵を差し出す。
美琴は少し考えるような顔になった。
「野暮用って、“埋め合わせ”ですか?」
確信的に問いかけられる。
見透かされているような感覚にバツの悪い思いがしながらも、咲夜は渋々頷いた。

咲夜の“野暮用”は美琴の察した通り、倫子への埋め合わせのためだ。
つい今しがた倫子から某有名レストランを予約したという内容のメールが届いた。
正直なところ、埋め合わせをするとは確かに言ったが、何も今日のうちにとは思っていなかったためあまり気は進まない。
とはいえ、昨日すっぽかしたのは完全にこちらの落ち度・・・そのため素直に従うことにしたのだ。

「分かりました。じゃあ勝手に帰っておきます」
鍵を受け取り、美琴が微笑む。
何処となく物言いたげな表情が気になったが、すぐに気を取り直したように話題転換されたため、何も聞くことができなかった。


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