silvery saga

sakaki

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番外編:酒は飲めども

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※一話後のお話


クジ村を旅立ってから数日、ようやく少し栄えた町にたどり着いた。
このところ野宿続きだったころもあり、二人は久々のベッドに感動していた。
「しかし、ホンットこの辺って田舎だったんだなー」
歩いても歩いても山道、そんなここ数日間を思い出しブラムが呟く。部屋に入るなりベッドにダイブしてそのままの体勢だ。
「小さな村があっても、宿屋のあるところなんてなかったですもんね。」
すぐ隣のベッドに同じく寝転んでいたユアンもそれに同意した。

(なんか・・・新鮮な構図だな)
横になったまま体をこちらに向けて微笑むユアンを見つめながらブラムはそんな感想を抱く。
狭い部屋に無理やりベッドを二つ並べているような作りのため、別々のベッドとはいえ手を伸ばせばすぐに届きそうなところにユアンがいるのだ。
野宿の時は自然と肩を並べるようにして寝ていたが、それとはまた違う、何とも不思議な感覚だった。

「あ、そうだ。」
ふと思い立ち、体を起こして荷物の中からあるものを取り出す。
「おばさんとこからこっそり貰っといたんだ。飲もうぜ。」
悪戯な笑みを浮かべてブラムが差し出したものは葡萄酒。クジ村唯一の特産品だ。
「葡萄酒って・・・もちろんお酒、ですよね。」
ユアンも体を起こし、少し考えるような顔をして当たり前のことを言う。
「そりゃそうだろ。」
グラス2つと葡萄酒を抱え、ユアンのいる方のベッドに座り直したブラムは“?”を浮かべる。
ユアンは驚くべきことを呟いた。
「僕、飲んだことないんですよね。」
とりあえずとばかりにグラスを受け取り、少し心配そうな顔をする。
「マジか・・・」
いくら大司教様と言えど、まさか酒を飲んだ経験がないとは思わなかった。
(ま、大丈夫だろ)
ブラムも少し悩んだが、そんなに強い酒ではないし、と思い直してグラスに真紅の液体を注ぐ。
「美味いから、ちょっと飲んでみろよ。」
“何事も経験”そんな風にそそのかし、ユアンに勧めた。
「いただきます。」
少し警戒するような面持ちで一口。
だが次の瞬間、パッと花の咲いたような笑顔に変わった。
「美味しい。」
「だろ?」
ユアンの様子にホッとしつつ、自分も葡萄酒を口にする。この一級品がなくなっていることに気付けばミネルバはキセルを振り回して怒るだろうが・・・これでユアンも共犯だ。ブラムはこっそりそんなことを考えていた。

そして約30分後。
「なんだか、頭がボーっとしてきました。」
ユアンがようやく空になったらしいグラスをサイドテーブルに置き、ぼんやりとした口調で言った。
「なんだよ、もう酔って来たのか? 」
揶揄するようにブラムが言う。“まだたった一杯しか飲んでないのに”と。
自らもグラスを置いてユアンの様子を伺う。ちなみにブラムはすでに4杯目だ。
「顔真っ赤だな。」
笑いながらユアンの頬に触れる。
普段は見ないような珍しい姿が見られるのは面白いものだ・・・そんな風に思っていたが、そんな余裕は脆くも崩れ去った。
「ブラムの手・・・冷たくて気持ちいい・・・」
うっとりとした表情で、ユアンが自らの頬に添えられていたブラムの手を握る。愛おしそうに頬擦りし、蕩け切ったような笑みを浮かべた。
「ユ、ユアン・・・? 」
思いがけない反応に面食らい、咄嗟的に手を引っ込めるブラム。
するとユアンは眉を顰め、思い切り身体を寄せてから再度ブラムの手を取った。
「もう・・・離さないで」
甘えた声で駄々をこね、ブラムの手に擦り寄る。
高揚した肌が熱い。銀色の瞳は潤み、薄く開かれた唇からは吐息が漏れている。
「ブラム・・・」
ふんわりと身を寄せ、耳元で名を呼ぶその声はひどく淫猥で熱っぽい。
(・・・据え膳。)
ゴクリと喉を鳴らし、ブラムは目の前の白い首筋へと顔を埋めた。甘い香りを存分に味わいながら、ユアンの身体をゆっくりと押し倒す。
が、
「あれ・・? 」
よりいっそう絡み付いてくるであろうと予測した腕は力なくシーツに沈んだ。
不思議に思ったブラムが顔を上げると、規則正しい寝息が聞こえた。
「マジか・・・」
真下にある顔には先ほどまでの魔性の色気は微塵もなく、実に無邪気な顔でぐっすりと眠っている。
「・・・・・」
愕然としつつも、とりあえず体を起こすブラム。
(・・・あっぶねー・・・)
ユアンの色香にうっかり惑わされてしまった自分に項垂れる。
テーブルに置いた葡萄酒に目をやると、ふと、旅に出る前にミネルバから『盛りの付いた犬』と言われてくぎを刺されていたのを思い出した。
「・・・おっしゃる通りで。」
ここにはいないミネルバに言い、グラスに残った酒を一気に煽るブラムだった。
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