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番外編:番犬改め忠犬
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(やべ・・・ちょっと寝てた)
体勢を崩しそうになったところでブラムはハッとした。
うっかり放置してしまった所為で勢いを弱めている焚火に薪を放り込み、目を覚ますために軽く頭を振る。
今日は野宿だ。
焚火の番をすることと、魔獣や盗賊などの来訪者に備えることを役割と自負しているブラムはほとんどを眠らずに過ごす。これもまた騎士団に身を置いていた頃の習慣の一つである。
(通りで、寝心地良かったわけだ)
傍らにぴったりと寄り添っている温もりに思わず頬が緩む。いつの間にかユアンがブラムの肩に凭れて眠っているのだ。
ブラムがうたた寝をしてしまってから隣に来たのだろう。ユアンが毛布代わりにしていたガウンをブラムにも掛けてくれている。
ちなみにこのガウンはジョニスから餞別にと貰った例の寝巻だ。おそらく本来は素肌に一枚のみで着る非常に露出の高い衣服なのだろうが、ユアンは羽織りものとして利用している。ブラムとしては少し残念だ。
(ったく、そんな無防備な顔してっと襲っちまうぞ)
ユアンの安心しきったような寝顔を見つめ、そっと溜息を漏らす。
正直なところ、ブラムの欲求不満度はかなりのものなのだ。なまじ口付けをしてその肌に触れられるようになったからこそ、余計にその先を望んでしまう。
(俺も贅沢だよな・・・)
自分の中に生じている変化に苦笑する。
以前は・・・まだ城にいた頃は、その姿を一目見るだけで十分だと思っていた。出会ってからは傍にいるだけで十分だと、一番近い場所で守ることができるなど無上の喜びだと感じていた。勿論、その気持ちには今も変わらず一点の曇りもないが・・・そんな綺麗事だけでは済まないのが人の欲だ。
募る愛しさに相まって、奥深くまで繋がって自分のものだけにしてしまいたいという衝動もまた積み重なっていく。
当のユアンがキス以上の行為を何処まで想定できているのかは未知数だが・・・。
(実際ベロチューすら滅多にさせてもらえてねぇしなー・・・)
現実はなかなかに厳しい。今日のような野宿の日は習慣であるおやすみのキスすらお預けだ。
どうせ誰もいないのにと、ほんの一メートルほど先に眠っているリギィはカウントせずに不満に思う。
指先でユアンの唇に触れれば、その柔らかさと仄かな温もりを感じてよりいっそう欲しくなった。
「・・・ブラム・・?」
不意に長い睫毛が震えたかと思うと、ユアンはゆっくりと目を開けた。
「すみません。重かったですか?」
目を擦りながら、寄り掛かっていた身体を起こす。ブラムは慌てて首を振った。
「いや、全然。起こしちまって悪ぃ。なんか・・・美味そうだなーと思って見てたら、ついつい手が伸びたっつーか・・・」
冗談交じりに言い、バツの悪さを誤魔化してみる。ユアンはぼんやりとした眼差しでブラムを見つめ、首を傾げた。
「美味そうって・・・食べるんですか・・・?」
不思議そうに呟く口調もまたひどくぼんやりしている。
(ユアン・・・ちょっと寝ぼけてんな)
いつもと違う様子に気づき、ブラムは思わず笑みを零した。
「そう、すっげー食いたい。味見していいか? 」
ユアンの髪を撫でつつ、引き寄せるようにして問いかける。
「・・・うん・・」
唇に息がかかるほどの距離で見つめ合い、ユアンがそっと頷いた。
戸惑う様子も恥ずかしがる様子もないのは、寝ぼけてくれているおかげだろう。すんなりと口を開いて素直にブラムの舌を受け入れるのも今だからこそだ。
濡れた音を響かせながら、角度を変えて舌を絡める。何度かそれを繰り返したところで、ユアンがやんわりとブラムを押し戻した。
「も、もう、ダメ」
真っ赤な顔で非難がましくブラムを睨む。残念なことに、完全に目が覚めてしまったようだ。
(もうちょい寝ぼけてくれてても良かったんだけど・・・)
こっそりと舌打ちするブラム。
再びユアンを抱き寄せようとすれば、先ほどまでとは打って変わってひどく緊張した様子でその身を強張らせている。怯えているようにすら見えるほどだ。
ブラムは溜息を洩らし、ユアンを包むようにして後ろから抱きすくめた。
「今日はもう何にもしねーって。賢い番犬だからな、ご主人様の“待て”くらいちゃんと聞ける」
軽口を叩きながら、穏やかな手つきでユアンの髪を撫でる。
初めは不安そうな表情をしていたユアンだったが、徐々に安心したようでブラムに身を委ねてくれた。
二人身を寄せ合って、当初していたように毛布代わりのガウンにくるまる。互いの体温が心地良い。
(ずーっと“待て”のまんまだったりしてな・・・)
ふと過った笑えない考えに肩を落とす。
「ブラム・・・?」
渋い顔をしているブラムに、ユアンは不思議そうに首を傾げた。
「いや、なんでもねー・・・」
ブラムは力なく答え、ユアンの肩に顎を乗せる。
(辛抱強く待つしかない・・・ってか)
忠犬になるには何よりも忍耐力が不可欠なのだった。
体勢を崩しそうになったところでブラムはハッとした。
うっかり放置してしまった所為で勢いを弱めている焚火に薪を放り込み、目を覚ますために軽く頭を振る。
今日は野宿だ。
焚火の番をすることと、魔獣や盗賊などの来訪者に備えることを役割と自負しているブラムはほとんどを眠らずに過ごす。これもまた騎士団に身を置いていた頃の習慣の一つである。
(通りで、寝心地良かったわけだ)
傍らにぴったりと寄り添っている温もりに思わず頬が緩む。いつの間にかユアンがブラムの肩に凭れて眠っているのだ。
ブラムがうたた寝をしてしまってから隣に来たのだろう。ユアンが毛布代わりにしていたガウンをブラムにも掛けてくれている。
ちなみにこのガウンはジョニスから餞別にと貰った例の寝巻だ。おそらく本来は素肌に一枚のみで着る非常に露出の高い衣服なのだろうが、ユアンは羽織りものとして利用している。ブラムとしては少し残念だ。
(ったく、そんな無防備な顔してっと襲っちまうぞ)
ユアンの安心しきったような寝顔を見つめ、そっと溜息を漏らす。
正直なところ、ブラムの欲求不満度はかなりのものなのだ。なまじ口付けをしてその肌に触れられるようになったからこそ、余計にその先を望んでしまう。
(俺も贅沢だよな・・・)
自分の中に生じている変化に苦笑する。
以前は・・・まだ城にいた頃は、その姿を一目見るだけで十分だと思っていた。出会ってからは傍にいるだけで十分だと、一番近い場所で守ることができるなど無上の喜びだと感じていた。勿論、その気持ちには今も変わらず一点の曇りもないが・・・そんな綺麗事だけでは済まないのが人の欲だ。
募る愛しさに相まって、奥深くまで繋がって自分のものだけにしてしまいたいという衝動もまた積み重なっていく。
当のユアンがキス以上の行為を何処まで想定できているのかは未知数だが・・・。
(実際ベロチューすら滅多にさせてもらえてねぇしなー・・・)
現実はなかなかに厳しい。今日のような野宿の日は習慣であるおやすみのキスすらお預けだ。
どうせ誰もいないのにと、ほんの一メートルほど先に眠っているリギィはカウントせずに不満に思う。
指先でユアンの唇に触れれば、その柔らかさと仄かな温もりを感じてよりいっそう欲しくなった。
「・・・ブラム・・?」
不意に長い睫毛が震えたかと思うと、ユアンはゆっくりと目を開けた。
「すみません。重かったですか?」
目を擦りながら、寄り掛かっていた身体を起こす。ブラムは慌てて首を振った。
「いや、全然。起こしちまって悪ぃ。なんか・・・美味そうだなーと思って見てたら、ついつい手が伸びたっつーか・・・」
冗談交じりに言い、バツの悪さを誤魔化してみる。ユアンはぼんやりとした眼差しでブラムを見つめ、首を傾げた。
「美味そうって・・・食べるんですか・・・?」
不思議そうに呟く口調もまたひどくぼんやりしている。
(ユアン・・・ちょっと寝ぼけてんな)
いつもと違う様子に気づき、ブラムは思わず笑みを零した。
「そう、すっげー食いたい。味見していいか? 」
ユアンの髪を撫でつつ、引き寄せるようにして問いかける。
「・・・うん・・」
唇に息がかかるほどの距離で見つめ合い、ユアンがそっと頷いた。
戸惑う様子も恥ずかしがる様子もないのは、寝ぼけてくれているおかげだろう。すんなりと口を開いて素直にブラムの舌を受け入れるのも今だからこそだ。
濡れた音を響かせながら、角度を変えて舌を絡める。何度かそれを繰り返したところで、ユアンがやんわりとブラムを押し戻した。
「も、もう、ダメ」
真っ赤な顔で非難がましくブラムを睨む。残念なことに、完全に目が覚めてしまったようだ。
(もうちょい寝ぼけてくれてても良かったんだけど・・・)
こっそりと舌打ちするブラム。
再びユアンを抱き寄せようとすれば、先ほどまでとは打って変わってひどく緊張した様子でその身を強張らせている。怯えているようにすら見えるほどだ。
ブラムは溜息を洩らし、ユアンを包むようにして後ろから抱きすくめた。
「今日はもう何にもしねーって。賢い番犬だからな、ご主人様の“待て”くらいちゃんと聞ける」
軽口を叩きながら、穏やかな手つきでユアンの髪を撫でる。
初めは不安そうな表情をしていたユアンだったが、徐々に安心したようでブラムに身を委ねてくれた。
二人身を寄せ合って、当初していたように毛布代わりのガウンにくるまる。互いの体温が心地良い。
(ずーっと“待て”のまんまだったりしてな・・・)
ふと過った笑えない考えに肩を落とす。
「ブラム・・・?」
渋い顔をしているブラムに、ユアンは不思議そうに首を傾げた。
「いや、なんでもねー・・・」
ブラムは力なく答え、ユアンの肩に顎を乗せる。
(辛抱強く待つしかない・・・ってか)
忠犬になるには何よりも忍耐力が不可欠なのだった。
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