silvery saga

sakaki

文字の大きさ
17 / 24

番外編:抜け駆けバレンタイン

しおりを挟む
いつものように3人部屋で宿を取った後、各自自由時間と銘打って解散した。
とはいえこんな小さな田舎町で何か物珍しい娯楽がある訳でもなく、それぞれ必要なものを買い回りするくらいのものだ。
それにブラムとしては一人で時間を潰すよりはユアンと共に過ごす方がずっと有意義なわけで。結局買い置き用の煙草と少しの酒を買い、早めに宿に帰ることにした。


「おかえりなさい、早かったんですね」
部屋に戻ると、既に一足早く帰って来ていたらしいユアンが出迎えてくれる。
予想と違っていたのは、読書でもしているだろうと思っていたユアンが花瓶に花を活けていることだ。そういえば宿屋のすぐ近くにこじんまりとした花屋があったような気がする。
「薔薇の花、買って来たのか?」
少しばかり物珍しく思ってユアンの手元を覗き込む。売れ残りだったのか、既に開ききっている真っ赤な花びらは少しでも触れれば落ちてしまいそうだ
「リギィがプレゼントしてくれたんです。バレンタインだからって」
ユアンははにかむように微笑む。その答えに、ブラムはピクリと片眉を上げた。
そういえば、自由行動に移る直前リギィに小遣いをせびられた。てっきり菓子でも買うのだろうと思って何の躊躇もなく幾分か多めに渡してやったのだが、あれはユアンに花を贈る為だったのだろう。まったく、敵に塩を送るような真似をしてしまったものだ。
(クソ・・・なかなかやるじゃねーか、リギィのくせに)
してやられた。出し抜かれた。そんな心地がして思わず舌打ちをする。
ユアンはそんなブラムの悔しさに気付く様子もなく、穏やかな手つきで花瓶を置いた。愛おしそうに薔薇の花を見つめるその表情は上機嫌そのもので、鼻歌でも聞こえてきそうなほどだ。
ブラムとしてはますます面白くない。
「そんなに喜ぶなら、俺も何か用意しときゃよかったな」
拗ねた口調で言いながら、花から引き剥がすようにユアンを背中から抱き寄せる。
例え相手がリギィであっても自分以外の誰かがユアンを喜ばせているのは悔しいのだ。
ユアンはブラムの大人げない様子に苦笑しつつ、ゆっくりと身体の向きを変えた。
「薔薇の花なら、もうずっと前に貰いましたよ?」
労わるような手付きでそっとブラムの鎖骨に触れ、何処か悪戯な笑みを浮かべる。
ユアンの指先の下にあるのは、ブラムが嘗て王家に仕える身であった証。真っ赤な薔薇の花の紋章だ。
ユアンの言わんとすることがわかり、ブラムはふっと笑った。
「確かに、俺はお前のものだもんな。御主人様」
ユアンの手を取り、忠誠の意を表して口付ける。そして左側の手でユアンの髪に触れた。
「んで?  当のリギィの姿が見えねぇな」
「お花屋さんの子供達と仲良くなったらしくて、外で遊んでくるそうです」
ブラムが内緒話をするように囁き声で問いかけると、ユアンは屈託のない笑みで答える。いつものことながらブラムの下心に気付く様子は微塵もない。
「ってことは、暫く帰って来ねぇんだな・・・」
ポツリと呟くのとほぼ同時に、ユアンの唇を掠め取る。
突然のことに、ユアンは銀色の瞳を大きく見開いて、信じられないという風にブラムを見つめた。
「い、いきなりは、ビックリします・・・」
たちまち頬を真っ赤に染め、自分の唇を隠す。責めるような口調だが、潤んだ瞳での上目遣いに含まれているのは甘さだけだ。
ブラムは再びユアンの髪を撫でて、流れるような仕草で耳を擽った。
触れるだけのキスに未だ慣れる様子もなく、こうして恥じらいを見せるユアンは可愛らしくてたまらない。こんな表情を見ることができるのは自分だけなのだという事実もまたブラムの独占欲を満たした。
「じゃあ、“キスしたい”」
いきなりするのが駄目なのなら、と今度は実行に移す前にはっきりとした言葉で強請る。表向きはユアンの抗議を聞き入れたようだが、実際はユアンの恥ずかしそうな表情がもっと見たいという欲の賜物だ。
ブラムの期待通り、ユアンは益々頬を紅くして暫し視線を泳がせた。けれどブラムが耳に触れていた手を頬にやり、自分に引き寄せるようにすれば、長い睫毛を震わせながら素直に目を閉じる。
(・・・かわいい)
何処か緊張した様子のユアンを目前にして、ブラムは密かに笑みを漏らした。
ゆっくりと唇を重ね、柔らかい弾力を感じながら、両方の手でユアンの髪を梳くように撫でる。
唇の隙間をぬって舌先を差し入れると、ユアンは大袈裟なほど身体をビクつかせた。全身に力が入り、まるで硬直してしまったように強張っている。
「・・・んっ・・」
ブラムは少しばかり強引にユアンの舌を絡め取った。じれったく舐め、混ざり合う互いの唾液を吸い上げる。敏感な舌根や上顎の辺りを擽って、また再び舌を絡めた。合間に漏れる吐息にユアンの鼻に抜けるような甘い声が混じる。
抱き締める身体にはどんどん熱が灯り、込められていた力が抜けて弛緩して行くのが分かった。
「・・ぁ・・・」
「おっと。大丈夫か?」
がくんと倒れかかってきたユアンを支え、そのまま背中から灘らかな曲線を描くように腰を撫でる。すぐ後ろにある机に寄り掛からせて、今度は首筋に口付けた。
首や鎖骨のに舌を這わせながら、手は裾から潜り込ませて柔肌の感触を楽しむ。背骨の形を確かめるようにして掌を這わせ、肩甲骨の辺りを擽ると、ユアンは甲高い声を漏らして仰け反った。胸元を突き出すようなその体勢に誘われ、ブラムは服越しにユアンの胸の先端を口に食んで舌で形を探る。
「あァっ・・・」
ユアンが一際泣きそうな声を上げ、身体を大きくビクつかせる。その拍子に、ユアンの手元でゴトリという音が鳴った。
花瓶が倒れたのだ。
「あ、お花が!」
我に返ったユアンが真っ青になる。慌てて花瓶を起こしたものの、初めから今にも落ちそうだった花弁は無残にも机の上に散ってしまった。
「せっかくリギィがくれたのに・・・」
花びらを拾い集め、泣きそうな面持ちで肩を落とすユアン。
「・・・わ、悪ぃ」
流石にブラムも反省せざるを得ない。
「ブラムも一緒にリギィに謝って下さいね」
「ハイ・・・」
つい先程までの甘い雰囲気は微塵もなく窘められ、ブラムはしょんぼりと頭を垂れた。


ちなみに、リギィはこの件を夕食のエビフライで許してくれたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

告白ごっこ

みなみ ゆうき
BL
ある事情から極力目立たず地味にひっそりと学園生活を送っていた瑠衣(るい)。 ある日偶然に自分をターゲットに告白という名の罰ゲームが行われることを知ってしまう。それを実行することになったのは学園の人気者で同級生の昴流(すばる)。 更に1ヶ月以内に昴流が瑠衣を口説き落とし好きだと言わせることが出来るかということを新しい賭けにしようとしている事に憤りを覚えた瑠衣は一計を案じ、自分の方から先に告白をし、その直後に全てを知っていると種明かしをすることで、早々に馬鹿げたゲームに決着をつけてやろうと考える。しかし、この告白が原因で事態は瑠衣の想定とは違った方向に動きだし……。 テンプレの罰ゲーム告白ものです。 表紙イラストは、かさしま様より描いていただきました! ムーンライトノベルズでも同時公開。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

バツイチ上司が、地味な僕を特別扱いしてくる

衣草 薫
BL
理性的でクールなバツイチ上司・桐原恒一は、過去の失敗から、もう誰も必要としないと決めて生きてきた。 男が好きだという事実を隠し、「期待しなければ傷つかない」と思い込んできた部下・葉山直。 すれ違いと誤解の果てに、直が職場を去ろうとしたとき、恒一は初めて“追いかける”ことを選ぶ。 選ばれないと信じてきた直と、逃げないと決めた恒一。 二人の距離が近づくことで、直は「ここにいていい」と思える場所を見つけていく。 元ノンケ上司×自己肯定感低め部下の社会人BL。※ハッピーエンド保証。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

処理中です...