silvery saga

sakaki

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番外編:理性的バスタイム

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(俺って意外と理性的な男だよな・・・)
深々と溜息を吐き、ブラムは思う。
これまでの人生を振り返ると、はっきりいって「好き放題」「やりたい放題」。自分でも呆れるほどに、奔放な生活(というか性生活)を送ってきたものだ。
ところが最近は、ことあるごとに「理性的だ」「紳士的だ」と感心している。
具体的には、今がまさにその時である。
シャワーを浴びているブラムのすぐ隣のバスタブにはユアンがいる。風呂なので、言わずもがなお互いに一糸纏わぬ姿だ。
リギィは部屋で大イビキをかいて寝ているので、この狭い空間には二人きり。
この状況下で理性を保っていられるなど、褒め称えて然るべきだろう。
(っつーか、何でこうなったかなぁ・・・)
蛇口を閉めて、髪をかき上げる。チラリとユアンの方を見やり、思わず生唾を飲んだ。


なぜこのような事態に陥ったかというと、ことの始まりは三十分ほど前に遡る。
宿に着き、たらふく飯を平らげるなりリギィはベッドに倒れこみ、連日の野宿で薄汚れているというのにそのまま爆睡。風呂に入らせようと叩き起こすが、目覚めない。
仕方が無いのでユアンに風呂の順番を譲ろうとしたところ、「せっかくだから一緒に入りませんか?」などという思いがけないお誘いが来たという訳だ。
恋人同士、二人きりでのバスタイム・・・願ってもないシチュエーションだと思えるが、ブラムの場合はそうとも限らない。
何せ相手はユアンなのだ。
「リギィとはたまに一緒に入ってるのに、僕とは一度もないでしょう?  何だか仲間はずれみたいで寂しくて」
屈託無い笑顔でそんなことを言う。
ブラムの期待する甘美なお誘いとは程遠いのだ。

少しずつでも進展をと日々けしかけてはいるものの、悲しいかな未だにキス止まり。先の展開をユアンも全く考えてくれていない訳ではないらしいが、どこまで想定出来ているのやら。
それでも「まだ心の準備が・・・」などと初心なことを言われれば、ブラムとしては大人しく尻尾を振って待っているしかないわけで。
それに、いつまで経ってもキス一つで緊張してしまうこの可愛らしい恋人に合わせて、ゆっくりと関係を深めていくのもなかなかに心地良い。
日々、欲望との戦いにはなるのだが。

そんな訳で、今もこうして試練とも言うべき状況に耐え忍んでいる。
だったら断れば良かっただけのことなのだが、そこはあっさりと欲望に負けてしまった。一緒にお風呂というシチュエーションに、あわよくばという期待がどうしても沸いてくる。
(やっぱ・・・無理だな。我慢出来る気がしねぇ)
溜まりに溜まった欲求不満と目前に差し出されたご馳走(ユアン)とがブラムの理性を崩しにかかる。
ブラムは再び溜息を吐いた。
「あ~・・・俺は、もうそろそろ出ようかなぁ~」
どことなく不自然に言う。完全に逃げ腰だ。
「もう、ダメですよ。ちゃんと暖まらなくちゃ」
ブラムの苦悩になど全く気付かず、ユアンは諭すように言った。バスタブの端に詰め、「ここに来て」と言わんばかりに場所を開けてくれる。
(あぁ、もう! どうなっても知らねぇぞ!!)
半ばやけくそになって湯船に浸かる。
二人で入るには流石に狭く、勢いよくお湯が溢れていった。
「わぁ、すごい」
流れ出るお湯を楽しそうに見つめ、ユアンはとても無邪気に微笑んでいる。
子供のようにはしゃいでいるのに、濡れそぼる髪や上気した肌が迸らせるのはとんでもない程の色香。
まだ何度かしか触れたことのない背中や胸元も、それどころか初めて目にするユアンの全てがこんな明るい場所で惜しげも無く晒されている。
「ユアン・・・やっぱ、俺もう出た方がいいかも」
ブラムは掠れた声で呟く。
ユアンは不思議そうに首を傾げた。
「やっぱり狭いですか?」
少しばかりしゅんとして尋ねる。
引き留めるようなその視線に、ブラムはまた息を呑んだ。
「こうしてるとムラムラするって言ってんの」
開き直って冗談交じりに言ってみる。
「むらむら?」
ユアンは殊更にキョトンとした顔をした。聞き慣れない言葉に全くピンと来ていないようだ。
ユアンの周りにたくさんの「?」が浮かんでいるのが見えて、ブラムは苦笑した。
「発情しちまうってことだよ」
「え・・・」
そっとユアンの首筋に触れ、うなじの辺りを撫でる。
ユアンはたちまち真っ赤になって、ブラムに背を向けた。
(・・・可愛い)
ここで引ければこれ以上理性も揺らぐことなく事なきを得る・・・と、それは分かっているのだが、恥じらうユアンを見ていると、どうしてもブラムの中の悪戯心が擡げて来てしまう。
もっと恥ずかしがる顔が見たい。もう少しだけ困らせてしまいたい。そんな欲求のままに、ブラムはユアンの背中に触れた。
「一緒に風呂なんか入ったらヤらしいコトされるかもって、少しも考えなかった?」
肩甲骨を形取るように指先でなぞり、ユアンの耳元で囁く。
ユアンは黙ったままコクンと頷いた。
必死に身を小さくしてブラムから距離を取ろうとしているが、狭いバスタブの中に逃げ場は無い。
「だって、リギィとも入ってる・・」
「リギィとお前とじゃ全然意味が違うだろ」
言い訳のように呟くユアンに、ブラムは呆れて言葉を返す。
銀髪をかきあげ、うなじの辺りに何度かキスをすると、ユアンの身体が小さく震えた。
細い首から肩、すらりと伸びた腕をゆっくりと撫でる。指先を絡めて手を握るようにしながら、もう片方の手で腰を抱き寄せた。どこに触れても温かいお湯の緩やかな抵抗があるだけで、もどかしさなど感じることもなく存分にユアンの肌を味わえる。
柔らかい肌の感触、体温、鼓動。全てが触れ合った箇所から在り在りと伝わってくる。徐々に乱れていく息遣いが互いの高まりを表していた。
「ぁ・・」
腰に回していた手を胸元にずらす。意図せずしてブラムの指先に突起が触れると、ユアンの甘い声が漏れた。悟られまいと慌てて口を塞いでいるが、もう手遅れだ。
「ココ触られんの好き?」
ブラムは意地悪く囁き、今度は両手で執拗に愛撫する。
指の腹で焦れったく撫でれば溜息のような切なげな声を零し、わざと強めに摘まんだり爪で押し潰したりと荒い触れ方をすれば背を仰け反らせて甲高い声を上げる。
ユアンは自分の声が響いてしまうことに羞恥しているが、それでもブラムに与えられる刺激に耐えることが出来ないようだ。
ユアンが身体を捩り、ブラムにもたれ掛かるように体重を預けた体勢になる。
(もう流石に・・・ヤバいな)
密着したことで、ユアンの腰の辺りにブラムの隠しようのない昂ぶりが触れてしまう。ただでさえ熱を帯びていたそれは、ユアンが動く度に擦られ、もはや後には引けないほどに高まっている。
「・・・悪ぃ、限界」
ユアンをバスタブにしがみつくようにさせ、再び背中から抱き締める。首筋や背中にキスを落としながら、ユアンへの愛撫を再開させた。
「このまま抜いていい?」
問いかけると同時に片方の手を下腹部に移す。改めて触れたその箇所は、腹に付きそうな程勃ち上がり、冷め始めた湯よりもずっと熱くなっていた。
先走りで滑る先端をユアンの腰に擦り付けながら、何度も手を上下させる。
ユアンを抱きたい。ユアンの胎内にこの熱の固まりを挿れて、何度も何度も奥深くまで繋がって、ユアンが壊れてしまうほど快楽の波に溺れさせたい。
妄想と目の前のユアンとがリンクして、ブラムに興奮を与える。荒い息を吐き、ユアンの背中にありったけの欲望を弾けさせた。
「・・・ユアン」
呼吸の整わないまま、ユアンの耳元に口付ける。
「ユアン?」
反応がないことを不思議に思い、覗き込むとユアンはくったりとして倒れこんでいた。のぼせてしまったらしい。
「ユアン、おい、しっかりしろ」
ブラムは大慌てでユアンを抱き上げた。

この後、すっかり賢者モードになったブラムは猛省した。
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