恋愛下手な恋愛小説家が恋をしてみました

sakaki

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jealousy

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少し早目に上がれた日は、コンビニではなくスーパーに寄るのが俺:泉田智樹の習慣だ。
コンビニ弁当が常だから、たまに早く帰って来られる時くらいは自炊をするように心がけている。
健康のことを考えて、ってのも勿論理由だけど、今のマンションに越してきてからはもっと別の理由がある。

お隣さん:緑川更紗さんを誘う口実になるからだ。

(“珍しく自炊するんで、良かったら食べに来ませんか?”っと)
お隣さんの顔を思い浮かべながらお誘いのメールを送る。
突然の誘いだから乗ってもらえるかどうかは分からない。
だから、大抵俺は一人分よりは多めに、けど二人分というにはやや少なめに材料を買うことにしている。
お隣さんも俺の知る限りでは毎日コンビニ弁当だから、手料理を振る舞って上げられたら少しは喜んでくれるかなーって思うんだけど・・・どうかな?


お隣さんから“ぜひよろしくおねがいします。あとでおじゃまします”という返事をもらい、俺は鼻歌交じりでエレベーターを降りた。
お隣さんのメールはいつも平仮名ばかりだ。携帯を買ってからもう随分な月日が経つというのに、どうやら未だに使いこなせてはいないらしい。
難しい顔をして携帯に向かっているであろうお隣さんを想像すると自然と顔が緩んだ。

(あれ?)
お隣さんの家の前に誰か立っている。
何度か見たことがあるその人は、作家であるお隣さんの“担当さん”ってやつだ。
俺やお隣さんよりも少し歳が上くらいなんだろうが、いつも落ち着いた恰好をしているからものすごく大人見える。
お隣さんは出かけているらしく、担当さんは何度もインターフォンを鳴らしてもいるが一向に出てこない。
「どーも」
ぺこりと頭を下げながら愛想笑いを浮かべ、担当さんを通り過ぎる。
「あぁ、どうも」
担当さんも俺を一瞥し、軽く頭を下げた。
盗み見るように担当さんを見ると、眼鏡に隠れたその顔はなかなかの男前だということに気付かされた。
着ているものも持っているものも一目見ただけで上質なものだと分かるし、センスが良い。
美容師という仕事柄、これでもかというほど流行りものに身を包んでいる自分を省みると、なんだかチャラチャラしていて・・・・はっきり言って負けてる。

正直なところ、仕事とはいえこんないい男がお隣さんのところに頻繁に出入りしているのは面白くなかった。
初めの頃はてっきり恋人なんじゃないかと思ってたくらいだし。
お隣さんははっきりと否定していたから、それは単なる杞憂に過ぎなかったと分かったんだけど。

―――カチャリ。
(・・・えっ!?)
隣で鍵を差す音が聞こえ、俺はまさかと顔を上げる。
担当さんが自分のキーケースから出した鍵をお隣さんの家の鍵穴に差していた。さも当然のように。
ためらいなく鍵は回り、それが合鍵なのだという証明になる。
「あ、あの!」
堪らず、俺は担当さんに声をかけた。
「何か?」
担当さんは視線だけをこちらに移す。
何だか余裕のあるその素振りに気圧されながらも、俺はさらに続けた。
「編集者って、担当してる作家の合鍵まで持ってるのがフツーなんスか?」
自分でも、自然と視線が鋭くなっているのが分かる。
発した声も意図せず刺々しくなってしまった。

担当さんはほんの少しだけ面食らったような顔をした後で、ドアノブに差した鍵と俺とを見比べた。
そして、ブランド物の鞄の中から揃いのブランドのキーケースを幾つか取り出す。
「“普通”がどうだかは知らないが、俺は持つようにしてる。担当の作家、全員分」
幾つも鍵が付いているため持ち上げた拍子にチャラチャラと金属音が鳴る。
「・・あ・・・」
合鍵の群れを示され、俺は言葉を失った。
「前に担当作家に自宅で行き倒れられたことがあるんでね」
溜息を洩らし、キーケースを仕舞い込む担当さん。
その溜息は絶対俺に向けられてる・・・。
勝手に一人で嫉妬してムキになってしまったことを呆れられてるんだろう。

「あれ・・・二人とも何してるんですか?」
コンビニ袋を手に提げて、お隣さんが帰ってきた。
お互いドアノブに鍵を差したままなのに家に入ろうとしていない俺たちを見て不思議そうな顔をしてる。
俺はどんな顔をしていればいいのかわからず、適当に会釈をしてから逃げるように自分の部屋に入った。

(何やってんだ・・俺。ガキみてぇ・・・)
部屋に入るなり、へなへなと崩れ落ちる。
~~~~♪♪
「―――っ!?」
項垂れているところに不意打ちのように着信音が鳴り、思わず仰け反った。
「・・メールか・・・」
こんな時に誰だよ、と非難がましく思いながら開いてみると、そこには平仮名ばかりの文字が並んでいた。
“たんとうさんにけんこうわたしたらすぐにおうかがいします。おりょうりぽくもおてつだいします”
(“原稿”が“けんこう”になってるし。“僕”が“ぽく”になってる・・・)
間違いに思わず笑ってしまう。
きっと慌てて文字を打った所為で入力ミスしたのだろう。
(ほんっと・・・可愛い人だな)
俺は気を取り直して立ち上がり、ムニエルの下ごしらえをすべく台所に向かうのだった。
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