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Mirror前編
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僕、小説家:緑川更紗(みどりかわ さらさ)は、たった今人生最大の危機に立たされている・・・。
机の上でにらめっこしているのは、さっき編集さんが持ってきた企画書。大手の本屋さんから持ち込まれた企画で、僕の作品で特集を組んで一つのコーナーを作ってくれるらしい。期間限定とはいえ、それはすごく有り難いことなんだけれど、大きな大きな問題が一つ・・・。期間限定イベントの目玉として、その書店でサイン会を開いてはどうかという案が出ているらしい。
知っての通り、僕は商業柄とはいえほぼ引きこもりで、極度の人見知りでコミュ障。見た目からして根暗でおたくでとにかく冴えない。なのにサイン会なんて・・・・・・そんなの無理だ。
編集さんも僕が人前に出るの苦手なことは分かってるし、いつもならお断りするんだけど・・・なんだか今日の編集さんは、とっても機嫌が悪くてイライラしてたみたいで眉間に皺がくっきりで怖くて、嫌ですって言えなかったヘタレな僕。
編集さんからは更に追い打ちを掛けるように、「人前に出られる程度には小綺麗にしておけ」なんて鋭い目で言われてしまった。
確かに、今の僕は我ながら汚い。髪はボサボサ、肌はボロボロ、服はよれよれ。締め切り開けはいつもこうなる。
原稿書いてる時でもちゃんと寝てご飯食べてお風呂入ってって、そういう人並みの生活が出来ればいいんだけど・・・。僕にはそれが出来ない。本当に要領が悪いなぁ・・・。
少し凹んで、また企画書に向き合う。
断れなかった自分が悪いんだし、ちゃんとやらなきゃ。
まずは美容院に行って髪を綺麗にしよう!
・・・・・・・・・・・・僕、最後に髪を切ったのっていつだっけ? 考えてみれば、美容院なんて年単位で行ってないような・・・
気付けば肩より長くなっている髪を掴み、茫然とする。かつての記憶をたぐり寄せ、美容院に行くイメージを思い浮かべて・・・・・・・・・・・・意気消沈した。
僕きっと行けない。だって美容院ってお洒落なところなんだもん。
どうしよう・・・編集さんにお願いして連れて行って貰うとか。いや、駄目だ。編集さんの行くところなんてすごくお洒落でセレブな所に決まってる。前に買ってきてもらったお出掛け用の服一式(※ホワイトクリスマス~恋愛小説家3~参照)だって、後で値段を聞いて気絶しそうになったもの。
うぅ・・・どうしよう。どうしよう。
頭を抱えて唸っていると、机の中でスマホが鳴った。メールだ。
使いこなせてない僕のスマホが鳴るのはごく限られたときだ。編集さんからと実家から。そしてあとは、お隣さんから。
お隣さん・・・泉田智紀(せんだ ともき)さんは、お洒落で格好良い今時な感じの快活な人で、僕みたいな引きこもりにも分け隔て無く優しくしてくれる。なんていうか・・・その、とても素敵な人なんだ。
スマホを買う時も付き合ってくれたし、時々ご飯を一緒に作ろうって誘ってくれるし、貰い物だというお菓子を持ってきては美味しいハーブティーを入れてくれたりもする。しょっちゅうお客さんから差し入れ貰ってるってことは、きっと美容室でも人気者なんだろう。
・・・ん? 美容室? そうだよ! お隣さんは美容師さんじゃないか!! お隣さんのいるお店ならきっと行ける気がする!!
善は急げと、お隣さんに返信がてらお願いをする。いつも返信の早いお隣さんは、一分も経たないうちに快諾。
しかも、翌日にはそれを実現してくれた。
お隣さんの働く美容室はやっぱりとてもおしゃれ。オーナーさんの趣味らしく、あちこちにアンティーク風のオブジェがある。オーナーさんの手作りなんだって。
ちょっとした非日常感を味わえて、その中にいるお隣さんはなんだかいつもよりもっともっと格好良く見えて・・・差し入れしたくなるお客さんたちの気持ちが分かるかも・・・。
ちなみに、今日はそんなお客さんの姿は一人もいない。もっと言うなら、オーナーさんすらいない。なんとビックリ、今日は定休日だから。
僕が美容室に行くことに気後れしてることを見越して、人と接するのが苦手だってこともお見通しで、お隣さんはわざわざオーナーさんにお願いをして定休日にお店を開けてくれたんだ。僕なんかのために・・・本当に申し訳ない。申し訳なさ過ぎてこの長い髪に埋もれて隠れてしまいたいくらいだ・・・。
大きな鏡に映るのが久々過ぎて気が滅入るし、僕の髪に触るお隣さんの手にドキドキしちゃうし・・・うぅぅ・・・ちょっと吐きそう。
「緑川さん、大丈夫ですか?」
お隣さんが、あまりにも挙動不審な僕を心配してくれる。
「だ、だ、だ、だ、だ、だいじょーぶです!! す、す、す、す、すいません!!」
大きくかぶりを振って謝る僕。お隣さんは苦笑しつつ僕の頭を正面に向けた。
「そんなに動くと危ないですってば」
「す、すみません・・・」
お隣さんの大きな手で頭を包まれるようにされ、鏡越しに見つめられる。
うぅう・・・やっぱりかっこいい。
とてもじゃないけど心臓が持たなくてまともに見ていられないので、頭を下げないように気をつけながらも俯く。
大きな鏡は残酷だ。こんなに素敵なお隣さんと、こんなにもみっともない僕が、まるで一つのフレームに入れられているみたいに見える。
不釣り合い・・・その一言に尽きるなぁって改めて思って、落ち込んだ。
お隣さんは引きこもりの僕なんかとは住む世界が違う人なんだって最初から分かってるんだけど、こうして自分の姿を目の当たりにすると益々実感する。
僕の書いた小説とは違うんだ。ダサくて根暗な冴えない奴が、恋なんてしたって叶うわけない。
髪に触れるこの優しい指先に、勘違いしてしまいしそうになるお客さんは一体どれくらいいるんだろう・・・。
胸のドキドキが締め付けるような痛みに変わる。
僕はいつの間にか、お隣さんが優しくしてくれることに慣れて、すっかり甘えてしまって、調子に乗っていたんだ。
僕みたいなのがお隣さんを好きになるなんて、分相応なのに。
「緑川さん?」
お隣さんが再び声を掛ける。
ハッとして顔を上げると、鏡にはひどく青ざめた僕の顔と心配そうなお隣さんの顔が映っていた。
「やっぱり、切るのやめときますか?」
僕が不安そうにしていると思ったのか、お隣さんは宥めるような声で言う。
本当によく気遣ってくれる優しい人だなぁ・・・。
「いえ・・・大丈夫です。バッサリ切って下さい」
答えた僕の声は震えていた。
机の上でにらめっこしているのは、さっき編集さんが持ってきた企画書。大手の本屋さんから持ち込まれた企画で、僕の作品で特集を組んで一つのコーナーを作ってくれるらしい。期間限定とはいえ、それはすごく有り難いことなんだけれど、大きな大きな問題が一つ・・・。期間限定イベントの目玉として、その書店でサイン会を開いてはどうかという案が出ているらしい。
知っての通り、僕は商業柄とはいえほぼ引きこもりで、極度の人見知りでコミュ障。見た目からして根暗でおたくでとにかく冴えない。なのにサイン会なんて・・・・・・そんなの無理だ。
編集さんも僕が人前に出るの苦手なことは分かってるし、いつもならお断りするんだけど・・・なんだか今日の編集さんは、とっても機嫌が悪くてイライラしてたみたいで眉間に皺がくっきりで怖くて、嫌ですって言えなかったヘタレな僕。
編集さんからは更に追い打ちを掛けるように、「人前に出られる程度には小綺麗にしておけ」なんて鋭い目で言われてしまった。
確かに、今の僕は我ながら汚い。髪はボサボサ、肌はボロボロ、服はよれよれ。締め切り開けはいつもこうなる。
原稿書いてる時でもちゃんと寝てご飯食べてお風呂入ってって、そういう人並みの生活が出来ればいいんだけど・・・。僕にはそれが出来ない。本当に要領が悪いなぁ・・・。
少し凹んで、また企画書に向き合う。
断れなかった自分が悪いんだし、ちゃんとやらなきゃ。
まずは美容院に行って髪を綺麗にしよう!
・・・・・・・・・・・・僕、最後に髪を切ったのっていつだっけ? 考えてみれば、美容院なんて年単位で行ってないような・・・
気付けば肩より長くなっている髪を掴み、茫然とする。かつての記憶をたぐり寄せ、美容院に行くイメージを思い浮かべて・・・・・・・・・・・・意気消沈した。
僕きっと行けない。だって美容院ってお洒落なところなんだもん。
どうしよう・・・編集さんにお願いして連れて行って貰うとか。いや、駄目だ。編集さんの行くところなんてすごくお洒落でセレブな所に決まってる。前に買ってきてもらったお出掛け用の服一式(※ホワイトクリスマス~恋愛小説家3~参照)だって、後で値段を聞いて気絶しそうになったもの。
うぅ・・・どうしよう。どうしよう。
頭を抱えて唸っていると、机の中でスマホが鳴った。メールだ。
使いこなせてない僕のスマホが鳴るのはごく限られたときだ。編集さんからと実家から。そしてあとは、お隣さんから。
お隣さん・・・泉田智紀(せんだ ともき)さんは、お洒落で格好良い今時な感じの快活な人で、僕みたいな引きこもりにも分け隔て無く優しくしてくれる。なんていうか・・・その、とても素敵な人なんだ。
スマホを買う時も付き合ってくれたし、時々ご飯を一緒に作ろうって誘ってくれるし、貰い物だというお菓子を持ってきては美味しいハーブティーを入れてくれたりもする。しょっちゅうお客さんから差し入れ貰ってるってことは、きっと美容室でも人気者なんだろう。
・・・ん? 美容室? そうだよ! お隣さんは美容師さんじゃないか!! お隣さんのいるお店ならきっと行ける気がする!!
善は急げと、お隣さんに返信がてらお願いをする。いつも返信の早いお隣さんは、一分も経たないうちに快諾。
しかも、翌日にはそれを実現してくれた。
お隣さんの働く美容室はやっぱりとてもおしゃれ。オーナーさんの趣味らしく、あちこちにアンティーク風のオブジェがある。オーナーさんの手作りなんだって。
ちょっとした非日常感を味わえて、その中にいるお隣さんはなんだかいつもよりもっともっと格好良く見えて・・・差し入れしたくなるお客さんたちの気持ちが分かるかも・・・。
ちなみに、今日はそんなお客さんの姿は一人もいない。もっと言うなら、オーナーさんすらいない。なんとビックリ、今日は定休日だから。
僕が美容室に行くことに気後れしてることを見越して、人と接するのが苦手だってこともお見通しで、お隣さんはわざわざオーナーさんにお願いをして定休日にお店を開けてくれたんだ。僕なんかのために・・・本当に申し訳ない。申し訳なさ過ぎてこの長い髪に埋もれて隠れてしまいたいくらいだ・・・。
大きな鏡に映るのが久々過ぎて気が滅入るし、僕の髪に触るお隣さんの手にドキドキしちゃうし・・・うぅぅ・・・ちょっと吐きそう。
「緑川さん、大丈夫ですか?」
お隣さんが、あまりにも挙動不審な僕を心配してくれる。
「だ、だ、だ、だ、だ、だいじょーぶです!! す、す、す、す、すいません!!」
大きくかぶりを振って謝る僕。お隣さんは苦笑しつつ僕の頭を正面に向けた。
「そんなに動くと危ないですってば」
「す、すみません・・・」
お隣さんの大きな手で頭を包まれるようにされ、鏡越しに見つめられる。
うぅう・・・やっぱりかっこいい。
とてもじゃないけど心臓が持たなくてまともに見ていられないので、頭を下げないように気をつけながらも俯く。
大きな鏡は残酷だ。こんなに素敵なお隣さんと、こんなにもみっともない僕が、まるで一つのフレームに入れられているみたいに見える。
不釣り合い・・・その一言に尽きるなぁって改めて思って、落ち込んだ。
お隣さんは引きこもりの僕なんかとは住む世界が違う人なんだって最初から分かってるんだけど、こうして自分の姿を目の当たりにすると益々実感する。
僕の書いた小説とは違うんだ。ダサくて根暗な冴えない奴が、恋なんてしたって叶うわけない。
髪に触れるこの優しい指先に、勘違いしてしまいしそうになるお客さんは一体どれくらいいるんだろう・・・。
胸のドキドキが締め付けるような痛みに変わる。
僕はいつの間にか、お隣さんが優しくしてくれることに慣れて、すっかり甘えてしまって、調子に乗っていたんだ。
僕みたいなのがお隣さんを好きになるなんて、分相応なのに。
「緑川さん?」
お隣さんが再び声を掛ける。
ハッとして顔を上げると、鏡にはひどく青ざめた僕の顔と心配そうなお隣さんの顔が映っていた。
「やっぱり、切るのやめときますか?」
僕が不安そうにしていると思ったのか、お隣さんは宥めるような声で言う。
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「いえ・・・大丈夫です。バッサリ切って下さい」
答えた僕の声は震えていた。
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