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決戦はクリスマス響一朗編
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---決戦はクリスマス【響一朗編】---
“冷血宇佐美”などと陰で呼ばれるほどの類い希な嫌味と有無を言わさない強制力を駆使して忘年会を終わらせ、響一朗は家路についた。
タクシーでマンションの前までつけると、入り口でぽつんと立ち尽くしている人物を見つけた。
覚えのある顔に、金を払う時間すら惜しくなる。料金メーターが指し示すよりも遙かに多い額を渡し、釣り銭を断って飛び出すように車を降りた。
それでも駆け寄ることはせずに、平静を装って声をかける。
「ナツ」
「あ、おかえりなさい」
こちらに気付くと、彼は顔の筋肉が緩んだような笑みを浮かべた。
ナツ・・・御剣夏喜(みつるぎ なつき)は、響一朗の幼い頃からの想い人だ。
咲夜の弟で、つまりは響一朗の叔父にあたる。・・・夏喜の方が年下なのに、妙な話だ。
「何してる? というか、いつから待ってた? 」
何気に触れた髪が、ひどく冷たくなっていることに驚く。
夏喜は首を傾げ、響一朗の手を握って腕時計を覗き込んだ。
「多分・・・三時間くらい前?」
ぼんやりと答えたかと思えば、そのまま堪えきれずにくしゃみをする。
「とりあえず、さっさと中に入ろう」
何で電話一本入れないのかとか、どこかで時間を潰そうとは思わなかったのかとか、つっこみたい気持ちを飲み込んで夏喜を引っ張る。とにかく暖を取らせてやらなければ風邪を引かせてしまう。
「車あったし、すぐ帰ってくるかと思ったんだもん」
響一朗の入れてやったココアを飲みながら夏喜が拗ねたような口調で言う。
「忘年会だったんだよ」
スーツから普段着に着替え、夏喜の隣に腰掛ける。
咲夜が幹事だった所為で強制参加させられたのだと説明すると、合点がいったのか夏喜はクスクスと笑った。
「イブなのに一人でお家にいると寂しくなっちゃって、響一朗ならいるかな~って思って来てみたんだ」
楽しそうに、いそいそと持ってきていた箱を開ける。
「悪かったな、どうせ独り身で。・・・たった二人でこれ食う気か?」
眉を顰めて言葉を返し、出てきた箱の中身にぎょっとした。
クリスマスケーキだ。小さめではあるが、ホールの。
「僕晩御飯食べてないし、これくらい平気だよ」
鼻歌交じりで言いながら、ケーキナイフで取り分ける。他にもケーキ用のフォークや紙皿まで持参している。準備の良いことだ。
「・・・今日はアイツどうしたんだ? あの、サトルとかいう・・・」
ケーキを受け取り、徐に尋ねた。本来ならば夏喜が自宅でイブを共に過ごすであろう相手について。
「んー・・・どうしたんだろうね」
夏喜は曖昧に微笑む。
「そうか・・・」
響一朗もまた曖昧に頷いた。
また女か? そんな問いかけは飲み込んで、ケーキの上の苺をフォークで突き刺す。
踏み込んで聞いてしまえば、夏喜は傷付いた顔をするだろう。そんな夏喜を見れば、抱き締めずにはいられなくなってしまう。
だから曖昧なままにする。もう何年もそうしてきたことだ。
「ねぇ、覚えてる? 咲ちゃんと響一朗、毎年サンタさんの取り合いでケンカしてたの」
ケーキの上を指さして、夏喜が愉しげに微笑む。
思い返すのは、もうずっと昔の子供の頃のことだ。
「いっっっっつも最後は咲夜に持って行かれてたけどな。アイツは昔から要領が良いんだ」
力を込めて苦々しく言えば、夏喜は声を上げて笑った。
「何であんなに欲しかったんだろうな。大して美味い訳でもないのに」
サンタを指先で摘まみ、まじまじと見つめる。
子供受けの良い笑顔のそれは、別段物珍しいわけでもない単なる砂糖菓子だ。
「ケーキの上のサンタさんは特別だからだよ。美味しいとか不味いとかの問題じゃなくて、ただ特別なの」
夏喜が断言する。
なぜか誇らしげに胸を張るその姿に苦笑し、響一朗は改めてサンタを見た。
「ただ特別、か」
溜息混じりに呟いて、夏喜の口許にサンタを持って行く。そしてそのまま押し込んだ。
「んむっ!?」
突然のことに驚く夏喜。
非難がましく響一朗を睨みつつ、それでも素直にもぐもぐと口を動かす。
「すっごく甘い・・・」
「砂糖だからな」
口直しとばかりに珈琲を含む夏喜に、響一朗は笑みを漏らした。
ふと、指先に少しクリームが付いている事に気付く。
サンタを摘まんだ時に付いたのか、それとも夏喜の唇に触れた時に付いたのか・・・
「・・・甘い」
クリームを舐め取り、響一朗はぽつりと呟いた。
“冷血宇佐美”などと陰で呼ばれるほどの類い希な嫌味と有無を言わさない強制力を駆使して忘年会を終わらせ、響一朗は家路についた。
タクシーでマンションの前までつけると、入り口でぽつんと立ち尽くしている人物を見つけた。
覚えのある顔に、金を払う時間すら惜しくなる。料金メーターが指し示すよりも遙かに多い額を渡し、釣り銭を断って飛び出すように車を降りた。
それでも駆け寄ることはせずに、平静を装って声をかける。
「ナツ」
「あ、おかえりなさい」
こちらに気付くと、彼は顔の筋肉が緩んだような笑みを浮かべた。
ナツ・・・御剣夏喜(みつるぎ なつき)は、響一朗の幼い頃からの想い人だ。
咲夜の弟で、つまりは響一朗の叔父にあたる。・・・夏喜の方が年下なのに、妙な話だ。
「何してる? というか、いつから待ってた? 」
何気に触れた髪が、ひどく冷たくなっていることに驚く。
夏喜は首を傾げ、響一朗の手を握って腕時計を覗き込んだ。
「多分・・・三時間くらい前?」
ぼんやりと答えたかと思えば、そのまま堪えきれずにくしゃみをする。
「とりあえず、さっさと中に入ろう」
何で電話一本入れないのかとか、どこかで時間を潰そうとは思わなかったのかとか、つっこみたい気持ちを飲み込んで夏喜を引っ張る。とにかく暖を取らせてやらなければ風邪を引かせてしまう。
「車あったし、すぐ帰ってくるかと思ったんだもん」
響一朗の入れてやったココアを飲みながら夏喜が拗ねたような口調で言う。
「忘年会だったんだよ」
スーツから普段着に着替え、夏喜の隣に腰掛ける。
咲夜が幹事だった所為で強制参加させられたのだと説明すると、合点がいったのか夏喜はクスクスと笑った。
「イブなのに一人でお家にいると寂しくなっちゃって、響一朗ならいるかな~って思って来てみたんだ」
楽しそうに、いそいそと持ってきていた箱を開ける。
「悪かったな、どうせ独り身で。・・・たった二人でこれ食う気か?」
眉を顰めて言葉を返し、出てきた箱の中身にぎょっとした。
クリスマスケーキだ。小さめではあるが、ホールの。
「僕晩御飯食べてないし、これくらい平気だよ」
鼻歌交じりで言いながら、ケーキナイフで取り分ける。他にもケーキ用のフォークや紙皿まで持参している。準備の良いことだ。
「・・・今日はアイツどうしたんだ? あの、サトルとかいう・・・」
ケーキを受け取り、徐に尋ねた。本来ならば夏喜が自宅でイブを共に過ごすであろう相手について。
「んー・・・どうしたんだろうね」
夏喜は曖昧に微笑む。
「そうか・・・」
響一朗もまた曖昧に頷いた。
また女か? そんな問いかけは飲み込んで、ケーキの上の苺をフォークで突き刺す。
踏み込んで聞いてしまえば、夏喜は傷付いた顔をするだろう。そんな夏喜を見れば、抱き締めずにはいられなくなってしまう。
だから曖昧なままにする。もう何年もそうしてきたことだ。
「ねぇ、覚えてる? 咲ちゃんと響一朗、毎年サンタさんの取り合いでケンカしてたの」
ケーキの上を指さして、夏喜が愉しげに微笑む。
思い返すのは、もうずっと昔の子供の頃のことだ。
「いっっっっつも最後は咲夜に持って行かれてたけどな。アイツは昔から要領が良いんだ」
力を込めて苦々しく言えば、夏喜は声を上げて笑った。
「何であんなに欲しかったんだろうな。大して美味い訳でもないのに」
サンタを指先で摘まみ、まじまじと見つめる。
子供受けの良い笑顔のそれは、別段物珍しいわけでもない単なる砂糖菓子だ。
「ケーキの上のサンタさんは特別だからだよ。美味しいとか不味いとかの問題じゃなくて、ただ特別なの」
夏喜が断言する。
なぜか誇らしげに胸を張るその姿に苦笑し、響一朗は改めてサンタを見た。
「ただ特別、か」
溜息混じりに呟いて、夏喜の口許にサンタを持って行く。そしてそのまま押し込んだ。
「んむっ!?」
突然のことに驚く夏喜。
非難がましく響一朗を睨みつつ、それでも素直にもぐもぐと口を動かす。
「すっごく甘い・・・」
「砂糖だからな」
口直しとばかりに珈琲を含む夏喜に、響一朗は笑みを漏らした。
ふと、指先に少しクリームが付いている事に気付く。
サンタを摘まんだ時に付いたのか、それとも夏喜の唇に触れた時に付いたのか・・・
「・・・甘い」
クリームを舐め取り、響一朗はぽつりと呟いた。
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