不器用な愛慕

sakaki

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トリックオアトリートで奪えるなら

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トリックオアトリートで奪えるなら


その地で知らぬものはいないと言われる御剣家の屋敷には、当時3人の子供がいた。
咲夜(さくや)、響一朗(きょういちろう)、夏喜(なつき)。多くの人々は彼らを3人兄弟だと思っていた事だろう。
だが実際には、御剣家は長女:朝香(あさか)、長男:咲夜、次男:夏喜の3姉弟で、響一朗は朝香の息子だ。朝香と咲夜の歳が二十以上離れているため、こんな妙な家族構成になっていた。
とはいえ当時は叔父だとか甥だとかそんな認識は無い。ただいつも一緒にいて、いつも三人で遊んでいた。
特に夏喜は、物心付く頃から響一朗にべったりだった。今になって思えば、咲夜が活発すぎる遊びばかりしていた所為で小さい夏喜が付いて来られなかったのかもしれないが。
堂々と「響ちゃんが世界で一番大好きで、咲ちゃんは二番目に大好き」と言われるので、咲夜としては面白くなかった。一つ年下の響一朗には何に置いても負けたくなかったのに。
けれどいつしか、響一朗も夏喜の事が世界で一番好きで、しかもそれが咲夜の夏喜や響一朗に対する好きとは違うのだと気付いた。
夏喜も響一朗のお嫁さんになりたいと言い、響一朗もそう約束した。男同士だとかそんなことは深く考えていなかったし、咲夜としては夏喜と響一朗が結婚すれば、自分は二人共のお兄ちゃんになれるんだと思った。密かに「それってすっげー!!」とはしゃいだものだ。
年頃になれば自然と夏喜と響一朗は恋人同士になって、そして大人になる頃には本当に結婚出来るようになっているかもしれない。そう信じてやまなかった。
それなのに・・・



咲夜は夏喜と共に響一朗のマンションに来ていた。
机の上には色紙やカラフルな布やモールが雑然と並んでいる。
「なぁ、なっちゃん。俺あんまし器用な方じゃないんだけど」
持たされたハサミをチャキチャキと言わせながら咲夜は嘆く。
咲夜が夏喜に言い渡されたのはフェルトを切ってボンドで貼り合わせる作業だ。今日は夏喜の手伝いをするためにこうして三人で集まっている。
「咲ちゃんなら大丈夫だよ~。型紙通りに切ればいいだけだから。この絵が見本ね」
夏喜が画用紙を掲げて見せる。夏喜の描いたカボチャと黒猫、それと愛嬌のあるお化けもいる。夏喜の勤める保育園で予定しているハロウィンパーティの準備なのだ。
「衣装とかさ、ガキ共が自分で好きなもん用意して着てきた方が個性が出ておもしろいんじゃねーの?」
しげしげとオレンジ色のフェルトを眺めながら呟く。園児全員分を保育士達が手作りするのだというから随分なことだ。
「そうすると各家庭で差が出てしまうからな。子供達も喧嘩になるし、父兄から苦情も来る」
だから低予算でできるだけ良い物を作らなければならないのだと、ため息混じりに主張するのは響一朗だ。彼は先ほどからエクセルの画面と領収書とを交互に睨んでいる。今日買ってきた材料費から、全員分の衣装と小物などを作るのにかかる費用を計算しているらしい。予算との兼ね合いに頭を抱えている。
「保育園も色々面倒臭ぇんだなー」
園児がというよりも保護者が、という意味でぼやく。
咲夜と響一朗の勤める帝城高校にも口うるさい保護者はいるが、子供が自立していない分、保育園の方が干渉がすごそうだ。夏喜が大変な思いをしているのではないかと少しだけ心配になったが、響一朗に過保護だと揶揄されるのが目に見えているので口には出さないでおく。

「ハロウィン面白そうだよな。帝城でもやんないかって、朝香に提案してみるか? 10月イベントねぇし」
ただのフェルトだった物がカボチャの顔になり始めた事が嬉しくて、思わずそんな提案をする。帝城高校の行事はすべて理事長である朝香の思いつきで決まるのだ。9月の体育祭、11月の文化祭の間にもあたるので、良いアイデアだと思ったのだが・・・
「すんなり採用されそうだからやめろ。10月のイベントなら中間考査で十分だ」
響一朗がうんざりしたように言った。朝香の気まぐれや思いつきにさんざん振り回されている身としては、御免被りたいというわけだろう。かく言うこのマンションも、朝香が占いだか何だかの結果によって突如響一朗に引っ越しを強要させたものだ。同じく振り回される立場の咲夜も朝香の暴君振りに辟易することがあるが、朝香の息子である響一朗の被害数には及ばないだろう。
「テストがイベントって、ホントお前って冷血ウサギだな」
学校ではよく見かける顰めっ面に苦笑する。
「えー? 冷血ウサギってなぁに?」
咲夜の言葉に反応したのは夏喜だ。興味津々に響一朗と咲夜を交互に見やる。
ばつの悪そうにしている響一朗が面白くて、咲夜はニヤリと笑った。
「生徒が影で呼んでるコイツのあだ名。最恐冷徹陰険教師宇佐美。略して冷血ウサギ」
「それ微妙に略してないだろ・・・」
胸を張って解説してやると、響一朗が益々項垂れた。学校では思いっ切りキャラを変えて冷血教師を演じているのだとは夏喜には話していなかっただろうから、さぞかし決まりが悪い事だろう。夏喜が絡んだ響一朗は実にからかいがいがある。
不良生徒を諫める時と全く同じ冷たい視線で睨まれるので、咲夜はざまぁ見ろと舌を出してやった。
「あ、そっか。宇佐美だからウサギなんだ・・・」
思わずという風に夏喜が呟く。
それを聞いて、咲夜は咄嗟にしまったと思った。咲夜や響一朗とは違い、夏喜が引っ掛かっているのは冷血教師ではなく宇佐美の名字の方だ。
咲夜もおそらく響一朗も、もうすっかり馴染んで当たり前の事に感じていたが、夏喜にとってはまだ違和感があるのかもしれない。
響一朗が宇佐美響一朗になったのは、中学生の頃だっただろうか。朝香への反発から御剣姓を名乗らなくなり、そして夏喜への想いにも蓋をした。夏喜の気持ちは置き去りにして。
おそらくそれが、子供の頃信じていた未来が変わってしまった瞬間だったように思う。
「保育園だと響一朗先生だし、名字ってあんまりピンと来ないや」
えへへ、と誤魔化すように夏喜が笑った。深い意味なんてないのだと、懸命に取り繕っている。
「きょういちろーせんせーって長ったらしいなぁ、呼びにくいっつの」
咲夜は努めて明るく笑い飛ばした。
「うるせぇな。名前なんだから仕方ないだろ」
響一朗もテンポ良く言葉を返す。夏喜の憂いに鈍感な振りをして、仲の良い兄弟然とした会話を交わす。
夏喜も響一朗も、ふとしたきっかけで足場が崩れてしまいそうな、危うい立ち位置にいるようだと咲夜は思う。兄弟のような関係で、それ以上にもそれ以下にもならない。踏み込めずに立ち止まり、結局いつも同じ距離のまま。
響一朗の気持ちが、子供の頃からずっと変わっていない事知っている。
けれど今も、響一朗は宇佐美響一朗のままだ。朝香との蟠りが少しずつ消えていっても、宇佐美の姓を名乗り続けている。勿論、単に仕事上面倒だからという理由もあるのだろう。咲夜や朝香との血縁がバレるのは嫌だと言って憚らないくらいだ。だが何より一番は、夏喜への想いを公にしないという自分への戒めのつもりなのではないかと思う。
夏喜には今、共に暮らしている相手がいる。だから夏喜の幸せを壊さないために、響一朗は自分の気持ちを押し殺している。
咲夜からすれば、馬鹿げたことだ。

「なぁ、なっちゃん達は仮装しねぇの?」
聊か唐突に咲夜は尋ねた。
「まだ決まってないよ。でも、せっかくだから何かしようかなぁ・・・」
夏喜はネコの耳を模した髪留めを作りながら暫し悩む。響一朗は我関せずという顔で漸くノートパソコンを閉じた。
「仮装すりゃあいいじゃん。響一朗が吸血鬼で、なっちゃんがお姫様。んで、吸血鬼に攫われたお姫様を園児達が助けに行く。的なイベントでどうよ?」
響一朗と夏喜をそれぞれに指差して、雑なプレゼンをする。
「面白そう! 響一朗どう思う? 提案してみよっか?」
「提案するのはいいが・・・俺、ハロウィン不参加なんだからな? 生徒の補習授業があって行けない」
嬉々として乗ってくれた夏喜だったが、響一朗が極めて冷静に待ったをかけた。
響一朗がいなければ早々に企画倒れだ。
「面白そうなのに・・・残念」
夏喜はしょんぼりと肩を落としている。
「ホ~ントに残念」
咲夜も響一朗を見ながらため息交じりに呟いた。
「強引にでも、攫っちまうトコ見たかったのにな」
他意を含ませた言葉に響一朗の眉がピクリと動く。わざとらしく目配せすると、よりいっそう睨まれた。

冗談抜きで、いっそ攫ってしまえば良いのに。
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