不器用な愛慕

sakaki

文字の大きさ
3 / 4

七夕の願い事

しおりを挟む
ーーー  七夕の願い事   ーーー


御剣家は毎年、邸の庭から裏手に続いていく持ち山で笹を取り、大きな七夕飾りを作る。
御剣の家の子供は咲夜、響一朗、夏喜の3人だけだったので、近所の子供達も招いて七夕パーティーのようなことをやっていた。
成長とともにその行事もいつの間にかなくなったが、七夕飾りに使う笹は夏喜の勤める幼稚園に毎年提供することになっていた。

「わぁ、今年も立派だね~」
園庭にある登り棒に括り付けた笹を見上げ、夏喜が満足気に言う。
「立派なのはいいが・・・来年こそはいい加減業者に運ばせないか?」
同じく笹を見上ていた響一朗は、流れてくる汗を拭きながらぼやいた。
軽トラを借りて遠路遥々実家である御剣家から巨大な笹を運んで来るのは響一朗の役目だ。例年であれば咲夜にも手伝わせるのだが、生憎今年は予定が合わなかった。生徒の補習授業と重なってしまったらしい。
「こらこら、これから飾り付けもするのに何をへばっているんだ。情けないぞ、響一朗」
夏喜が冗談っぽく窘める。そうしながらも冷たい缶コーヒーを渡してくれた。
(ホントは一服したいとこなんだが・・・)
コーヒーを一気飲みし、ニコチンを求めている身体をカフェインで誤魔化す。
ここが幼稚園だからということもあるが、響一朗は夏喜の前では煙草を吸うのを控えていた。まだ学生の時に怒られて以来ずっとだ。当時とは違ってもういい大人なのだから何も言われないのだろうが、なんとなく気持ちの問題である。
夏喜を怒らせること、夏喜を悲しませること、夏喜が良しとしないこと・・・殊に夏喜に嫌われそうな事は、響一朗は絶対にしないのだ。

「“仮面ライダー鎧武になりたい”、“プリキュアに会えますように”、“お金持ちになりたい”、“ブタさんと仲良くなれますように”・・・ブタ?」
「ゆうかちゃんのお家、ペットでミニブタ買うんだって」
折り紙で作った種類豊富な飾りと共に、園児達の書いた短冊を取り付けていく。
幼稚園は休みなので、ここにいるのは響一朗と夏喜の二人だけ。響一朗にとっては至福のひと時だ。
「“こずえ先生が早く結婚出来ますように”・・・いいのかコレ?」
「あはは、こっちも。“こずえ先生に素敵なお婿さんが見つかりますように”」
短冊に書かれている際どい願い事に思わず苦笑する。こずえ先生というのは推定40代の独身女性保育士のことだ。彼女の結婚問題をいじるなど、子供にしかできないだろう。
「あ、でもほら。こずえ先生の短冊もコレだよ」
夏喜が気付き、短冊の一つをこちらに示す。ピンク色の短冊に書かれているのは、“かわいい花嫁さんになれますように”だ。もはや彼女の中ではネタ化しているらしい。
開き直りにホッとして、改めて残りの短冊を結びつけていく。

「僕、子供の頃に“響一朗のお嫁さんになれますように”って書いたことあったなぁ・・・」
ポツリと、夏喜が遠い目をして呟いた。
「近所の子達に男同士じゃ結婚できないんだーって言われてすごく悲しかったの覚えてる」
当時の事を思い出したのか、照れ臭そうに苦笑する。
「俺も覚えてるよ。それでナツを泣かしたヤツら全員を咲夜と一緒にボコボコにして、その後じーさんにやり過ぎだって怒られた」
響一朗もまた幼い頃の記憶を辿った。
実はさらにその後、事情を知った祖父(夏喜と咲夜にとっては父だが)が、その子供達に拳骨を食らわせていたのだが・・・多分夏喜は知らないだろう。
「僕がいつまで経っても泣き止まないから、響一朗と咲ちゃんが一所懸命慰めてくれたよね」
「あぁ。そりゃもう必死にな」


幼い頃。大きな七夕飾りを前に、夏喜が身を小さくして泣いていた。
響一朗も咲夜も、夏喜が泣くとどうしたらいいか分からなくなってしまって必要以上に慌てふためくのが常だったが、この時ばかりは本当にどんなに笑わせようとしても泣き止んでくれなくて困り果てた。
『なつ、大丈夫だよ。外国では男同士でもけっこんできる国もあるって、ぼくお母さんに聞いたことあるよ。日本はそういうところはおくれてるんだって』
持てる知識を振り絞ってそんなことを言い出したのは響一朗だった。
『だったら、おれたちが大人になる時にはきっとけっこんできるようになってるよ!  なー、なっちゃん』
咲夜も全力でその話に乗っかり、二人してそうだそうだと言い合った。
『・・・本当?   なつき、大人になったらきょうちゃんのおよめさんになれる?』
ようやく顔を上げた夏喜は、真っ赤な目で響一朗を見つめた。その手にはくしゃくしゃに握られた短冊。涙のせいで文字が滲んでいる。
『あたりまえだろ!  なっちゃんのことおよめにもらうんだよな、きょーいちろー!』
夏喜を泣き止ませる糸口が見つかったからか、咲夜は急き立てるように響一朗の背中をバシバシと叩いた。
咲夜に言われずとも、響一朗の気持ちはもちろん決まっていた。
『ぼく、なつを世界で一番幸せなおよめさんにするよ』
はっきりと宣言する。そしてシワシワになった短冊を懸命に伸ばした。
『よーし、じゃあその短冊いっちばん高いとこに飾ろーぜ!  兄ちゃんに任しとけ!』
『うん!  』
咲夜が名乗りを上げて意気揚々と塀によじ登る。夏喜はもう泣き止んで、満面の笑みを浮かべていた。


「そういえば響一朗は、今年の短冊なんて書いたの?」
最後の一枚を取り付けながら夏喜が尋ねる。
先ほどのこずえ先生しかり、園児達だけではなく先生も短冊を書く決まりなのだ。厳密に言えば響一朗はこの幼稚園の先生ではないが、園児達から見れば大差ないのだろう。行事にも可能な限りはかり出されるし、短冊だって当たり前のように準備されていた。
「俺の願い事はガキの頃から変わってない。毎年一緒だ」
「そうなの?   響一朗って小さい頃どんなこと書いてたっけ・・・?」
響一朗の答えに、夏喜は首を傾げる。見せたことはないのだから、知らないのも無理はないだろう。
「内緒だ」
「えぇ!?  ずるい!  いいもん。見つけるから」
意地悪く答えると、夏喜はムキになったように目の前の大量の短冊の中を隈なく探し始める。その様子に響一朗は思わず頬を緩めた。

“ナツが幸せで笑っていられますように”
響一朗の願い事は、いつだってそれだけだ。
たとえ、その隣にいるのが自分ではなかったとしても。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

敵国の将軍×見捨てられた王子

モカ
BL
敵国の将軍×見捨てられた王子

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

イケメンに惚れられた俺の話

モブです(病み期)
BL
歌うことが好きな俺三嶋裕人(みしまゆうと)は、匿名動画投稿サイトでユートとして活躍していた。 こんな俺を芸能事務所のお偉いさんがみつけてくれて俺はさらに活動の幅がひろがった。 そんなある日、最近人気の歌い手である大斗(だいと)とユニットを組んでみないかと社長に言われる。 どんなやつかと思い、会ってみると……

処理中です...