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上位ランカーと侵入者

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 警備隊を殺し、見張りも全員のした男は街1番の高層ビルの3階をゆうゆうと歩く。
 いくら隠密に行動しようとしたところで、きっと足取りは掴まれる。ならばと無駄にコソコソなどせずに堂々と歩き回る。
 このビルがこの街の全てと言っても過言ではない。そんな街の心臓部で侵入者が動き回っているのにも関わらず、警備システムやそれらしき気配は全くしない。

 「まあ、向こうも無駄に労力は使わないってところか」

 こちらの動きは筒抜け。ならば待ち伏せでもなんでも対応のしようがある。むやみやたらに戦力を失ってくれるほど単純な敵ではないようだ。
 しかし、誰が相手だろうとどんな策を練ようと、この街に自分を止めることができる人間はいない。
 男は確信を持って、ただひたすらに上へと向かう。

 「いっそのことエレベーターでも使ってやろうか」

 相手に絶好のチャンスを与えることになるがーー何人が相手だろうと関係ない。

 「この街の人間の力では、魔法(ほんもの)を超えることなどできないんだよ」

 男はエレベーターの前に行くとボタンを押す。数秒のちにエレベーターが到着し、ドアが自動で開かれ、

 「ーーシネ」
 「やだ」

 中にいた大男は目があった瞬間に殴りかかってくる。防御魔法の展開も間に合わず、少し後ろに飛ぶことでダメージを和らげたが、勢いよく飛ばされた身体はガラス窓をぶち破り空中に身を投げ出される。

 「すげえ馬鹿力だ。でも残念、魔法使いは空を飛べるんだよ」
 「知っている」

 大男は呟くように太く低い声でそう言うと、拳を引いて構える。

 「そこから殴るの? じゃあ君は、手が伸びる能力? それとも君も飛べるのかい?」

 問いかけるものの大男は聞こえていないかのように無反応のまま、こちらを見る。

 「いずれにしても無駄だ。君たちのまがい物の能力は、魔法に勝てない」

 欺くように笑い、手のひらを天に掲げ、魔法を生み出す。
 外に出たのはむしろ好都合。このまま魔法を放って暴れ、最上階まで空から行けばいい。

 「手始めに君に魔法のすごさを享受してあげよう。炎魔法第20術 烈火球!」

 振り下ろした手からは炎で作り上げた球体が、大男目掛けて放たれる。
 勢い十分に火球は割れた窓に襲いかかり、大爆破を起こす。

 「あっけねえな。強いのは見た目だけか」
 「んーんっ!違うもん!クマ助は本当に強いよ!」

 男は息を飲む。背後からしたのは幼き少年の声。驚きなのは空を飛んでいること、ではない。
 ーー気配を全く感じ取れなかっただと?

 男は振り向く。瞬間、重い拳が頬に強襲し割れた窓へ向かい、今度は閉じたエレベーターのドアに直撃する。

 「があっ!?」

 痛みに顔を歪めると、追撃すべく拳を放った張本人ーーー先の大男が一瞬にして距離を詰める。
 2回目の拳はなんとか躱すと、ビルが大きく揺れ、無論エレベーターも破損する。

 「防御魔法第4術 完全拒絶範囲網!!」

 追撃が来る前にすぐさま防御魔法を展開、すかさず反撃のための魔法を放つため眼前に魔法陣を展開ーー、

 「いっけえ、クマ助ぇ!」

 少年の声はただ楽しそうに。
 それに応えるように目を見開いた大男は幾度と拳を振り下ろす。
 1発1発が重い攻撃を至近距離で連発され、男は反撃どころか防御魔法の維持で手一杯。

 「……いや、それすらもできそうにないな。ありえねえ。初めて見たぜ、素手で防御魔法割るなんざ」

 世界を隔絶している防御魔法はひび割れ、大男は無表情のまま攻撃し続ける。
 しかし、指示らしきものを出した子供の姿はそこにない。

 「てめえの主人はどこだ? ああ?」
 「話しかけても無駄だよ~、クマ助を喋らせてるのはボクなんだから」
 「なるほど。人形使いのクソガキが遠方から操作してやがるわけか。」
 「違うよ~ボクは初めからここにいるよ」

 少年の声がそう答えると、大男の真横でぼやぼやと空間が歪む。
 それは数時間前にも見たような光景だった。

 「その能力は……」
 「やっほ~~~~!」

 捻れた空間は黒い渦を巻き、その中から見覚えのある男と、金髪の子供が顔を出す。

 「あはは、やっぱ常助の能力は面白いなあ!」
 「そうちゃん、早く変わってよ。十分楽しめたでしょ? 魔法もブラックホールも」
 「しょーがないなあ、クマ助!」

  すると大男の姿をした人形は一瞬、間を空けると先ほどまでよりさらに数段速く、重い一撃を繰り出す。
 拳はやすやすと防御魔法を破り、男を捉える。

 「ーーーガハッ!!」

 吐血するのと同時に衝撃で床が割れ、下の階へと突き落とされる。
 そうして落ちた先では、また空間が歪みだし、身動きが取れなくなった男の前に2人の刺客は現れる。

 「そのガキも上位ランカーか?」
 「ボクは7位だよ~。常助は馬鹿だけど5位!」
 「その常助とやらはさっき殺したはずなんだけどなあ」
 「いやあ、ついうっかり報告を忘れちゃってて怒られそうだったから途中で報告に行ったんだよねー。そしたらなんでかわからないけど仕留めてこいって怒られちゃった」
 「な? 常助って馬鹿だろ?」

 つまりは互角以上に渡り合ったつもりでいた上位ランカーだが、敵からすれば面白いマジシャンくらいにしか思われていなかったということだ。
 それは、この街で生産された戦士たちの強さを見誤っていた証拠。
 今の自分の力は上位ランカーに遠く及ばないということだ。

 「まあこれはこれで、高値な情報だな」

 男は呟くと、自身の身体の元の床に魔法陣を展開する。

 「おお~~~! やっぱ魔法陣かっちょいい~~~! けど僕のブラックホールは~~~!!!」

  頭上の空間が歪む。ブラックホールで飲み込もうとしているのだろう。
 そんなピンチを前に男は鼻で笑い、

 「あばよ」

 魔法を展開。光に包まれた男は消えるようにその場を去った。
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