当然のごとく俺たちの街に平凡な日常などない。

星乃 優

文字の大きさ
32 / 33

青崎真司郎と謎の男

しおりを挟む
 しばらくの間、青崎は見る影もなくなった白松を見つめ続けた。多量の血を流しながら歩く白松の足取りは遅く、鼻のきく青崎ならば行き先を予測して先回りすることも恐らく容易にできてしまうだろう。

 しかし今はその容易いことがとても難しい。
 心中はいろんなことに対しての疑問符で埋め尽くされていく。

 なぜこうなったのか、さっきのは何だったのか、これからどうなるのか、どうすればいいのか、

ーー俺は誰なのか。

 無くした記憶を不安に思う気持ちは、目覚めた頃によく抱いていた。最近では感じなくなっていたが、『今の自分』としてやっと一歩を踏み出したところで最初にして最大の恐怖が青崎を取り巻く。

 「青崎くん、大丈……」
 「なあ、星宮。おまえには俺が誰に見える?」

 後ろから話しかけてくる星宮の言葉を遮り、不安から目を背けるように問いかける。

 「まだ俺は俺か? まだ俺は星宮が知っている青崎真司郎に見える?」
 「見えるよ。青崎くんは青崎くんだよ!」

 力強く優しさに満ちた声が耳に届く。確かに届いているのに、空っぽのような、はたまた『何か』に満ち満ちてしまっているような青崎の身には響かない。

 「いまいち状況に置いてきぼり食らってるな……どうしたの、この子は」

 成海はちんぷんかんぷんと言った様子で問う。

 「敵はあそこで伸びてるやつでしょ? 勝ったなら明るく行こうぜ」
 「そう、なんですけど……」

 星宮は成海の言葉を柔らかく肯定しつつ、対応に困った様子。その様子を見て青崎は立ち上がり、

「悪い。変なこと聞いたな。忘れてくれ」

 そう言って歩き出す。

 ーー刹那、青崎の前方に未知の光が生じる。小さな球状のものだったそれは、次第に大きさを増し、眩い閃光を放つ。

 「なん、だ?」

 青崎は目を細めて、光を見る。まさか、敵の増援だろうか。
 だとしたら対応が早すぎる。闘う余力など当然残ってはいない。正しく絶体絶命ーー。

「ーーガハァッ!」

 予想に反して、聞こえてきたのは苦痛の声。それから閃光は散って、満身創痍の男が1人、姿を現した。
 青崎を超える尋常ではない傷つき方。一体何をすればこうなるのだろうか。

 「お、おい、あんた大丈夫か?」
 「大丈夫そうに見えるかい……?」

 そう言って男はこちらを振り向き、目が合う。瞬間、男は驚いたように目を見開く。

 「……? どうした?」
 「君はーーはは、こいつはすげえ。生きていたのか。なるほど、じゃあさっきの魔法も」
 「魔法? なんかまた頭おかしい奴が現れたな」

 言葉に食いついた成海は怪訝そうな顔をする。

 「あんた、さっきの炎を知っているのか!?」
 「ああ、よく知っているとも。……記憶を消されたって噂は本当だったようだな」
 「教えてくれ!! 俺は一体ーー」
 「青崎くん、それより先にその人の手当てをしないと」

 取り乱す青崎を落ち着かせるように星宮がいう。すると男は手を左右に振って「ご心配なく」といい、胸の前で手を交差させる。

 「回復魔法第5術 応急処置」

 男は唱えると同時に全身を白い光で包まれる。するとそれは手品のごとく、流れ出ていた血は止まり、見るに耐えなかった傷はみるみる塞がっていく。

 「これが魔法。君は魔法を使ってそこの奴を倒したのさ」
 「魔法……」

 その言葉を青崎は脳内で反芻する。魔法なんて、非科学的で、2次元の中のものだと思っていた。
 嗅覚特化の能力を持つ青崎が魔法によって炎を出すことができたとするならば、魔法は使用者の持つ能力と関連性のない力という事だ。
 魔法、もしそれが実在するならば、この能力都市のパワーバランスは根底から覆ることとなる。

 ならば、魔法はこの街の腐った制度をぶち壊すヒントになり得る可能性が大きい。
 だったらこのチャンスを逃す手はない。魔法を知ることは青崎の、そして白松との目標に近づくための最善の道なのだから。

 ーーあるいは、今の自分はそんなことはもうどうでもいいとさえ思っているのかもしれない。

 「魔法ってなんなんだ? 教えてくれ、俺は、俺は、ーー俺はどこの誰なんだ!?」

 不安から自然と声は大きくなる。それは目覚めた瞬間から一瞬足りとも消えることのなかった不安であり、疑問であり、青崎の原点。

 入院中考えなかった日はなかった。自分自身がどんな人間なのかを。何を成し、何を捨て、どう生きてきたのかを。

 この傷は何故生まれたのかと。

 退院して学校に通いだしてからは意識的に考えないようにしていた。
 過去の自分がどこの誰でも今の俺には関係ない、と切り離してきた。

 「この街は外から完全に隔絶されている。どこを探しても外の情報は一切見当たらないと分かった。 
 だから俺はこの街は何らかの実験施設だと思った。 外部からの一切を断ち、自然とバトルが勃発する制度を組み、能力者たちで実験を行なっているのではないかと」

 「青崎くんはそんなことを……」
 「へえ、すごいこと考える奴だな」

 持論を展開する青崎に星宮と成海がそれぞれ驚きの言葉を述べる。
 2人は純粋なこの街の住人であるため、前提条件としてこの街の在り方が当たり前だと思っている。だかれ青崎のような考えには至らない。

 こんな考えが出来るのは青崎のように外から来た人間ーー

 「あんたは外から来たんだろ? 俺の知る限りこの街で外から来た人間は俺だけだった。
 そして俺には記憶がない。つまり外の世界のことも、外との行き来の仕方もあんたしか知らない。 魔法ってのは外の文化なんだろ?」
 「ああ、そうだ」
 「あんたはこの街をどう思う?」

 男は口元を緩ませ、鼻で笑うと一変して真面目な表情となる。

 「……君に同感だよ。よもや記憶も消えて、この街に監禁状態の君がそこまでの意見に辿り着いているとは」

 顎に手を当て、考えるような仕草を見せた数瞬後、男は手のひらを青崎に向ける。

 「ちょっと! 何する気!? 交戦するつもりなら生徒会として黙っていませんよ」
 「星宮、大丈夫だから」

 星宮をなだめ、前に出ると青崎は男と対峙する。男は青崎が軽く見上げるくらいの身長、180センチくらいだろう。目から放たれる威圧は白松や草戯原と対峙したときに感じたものと同様ーー否、それ以上。

 青崎は乾いた口で息を呑み、応じるように目力を込める。

 「出会って間もない俺を信用するのか? 少し甘すぎるんじゃないか?」
 「信用するのかしないのかは目を見たときの直感で決める。これがかなり正答率高い」



 「……」
 「ーーーっ」




 数秒の沈黙を裂くのは男の手のひらから放たれる白い光だった。光が青崎を包み込むと、奇妙なほどに痛みが引き、愉快なほどに力が湧く。

 「回復魔法第5術 応急処置。名前の通り戦場でその場しのぎに使う回復魔法だから完治はしない。しばらく無茶は避けたほうがいいよ」
 「あのーー」
 「面白そうだと思ってね。バレたらかなりマズそうだが……俺はスナルディ。とある国の情報捜査官だ」

 名乗り出たスナルディは手を差し出す。青崎は食いつくようにその手を取る。
 その様子にスナルディはフッと笑うと、瞳の奥の奥まで見透かすように青崎の目を見て、

 「さあ、何を知りたい?」

 楽しげにそう問いかけるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

薬師の名門ブレルスクに入学した私は、退学するまで暴れます。〜少年アレクの倫理で殴る学園ファンタジー〜

鮒捌ケコラ
ファンタジー
入学式から3週間目にして『退学」を言い渡された。 (早くない?RTAじゃないんだからさ。) 自分で言うのもアレだけど、入学してからは結構真面目に通ってた。 けど、どうやら教員の不況を買ってしまったらしい。 幸か不幸か、退学まで1週間の執行猶予が与えられた。 けど、今更どう足掻いても挽回する事は不可能だろうし、 そもそも挽回する気も起こらない。 ここまでの学園生活を振り返っても 『この学園に執着出来る程の魅力』 というものが思い当たらないからだ。 寧ろ散々な事ばかりだったな、今日まで。 それに、これ以上無理に通い続けて 貴族とのしがらみシミッシミの薬師になるより 故郷に帰って自由気ままな森番に復職した方が ずっと実りある人生になるだろう。 私を送り出した公爵様も領主様も、 アイツだってきっとわかってくれる筈だ。 よし。決まりだな。 それじゃあ、退学するまでは休まず毎日通い続けるとして…… 大人しくする理由も無くなったし、 これからは自由気ままに、我儘に、好き勝手に過ごす事にしよう。 せっかくだし、教員達からのヘイトをカンストさせるのも面白そうだ。 てな訳で……… 薬師の名門ブレルスクに入学した私は、退学するまで暴れます。 …そう息巻いて迎えた執行猶予満了日、 掲示板に張り出された正式な退学勧告文を 確認しに行ったんだけど…… どういう事なの?これ。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

俺は、こんな力を望んでいなかった‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
俺の名は、グレン。 転移前の名は、紅 蓮(くれない 蓮)という。 年齢は26歳……だった筈なのだが、異世界に来たら若返っていた。 魔物を倒せばレベルが上がるという話だったのだが、どうみてもこれは…オーバーキルの様な気がする。 もう…チートとか、そういうレベルでは無い。 そもそも俺は、こんな力を望んではいなかった。 何処かの田舎で、ひっそりとスローライフを送りたかった。 だけど、俺の考えとは対照的に戦いの日々に駆り出される事に。 ………で、俺はこの世界で何をすれば良いんだ?

ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~

エース皇命
ファンタジー
 学校では正体を隠し、普通の男子高校生を演じている黒瀬才斗。実は仕事でダンジョンに潜っている、最近話題のAランク冒険者だった。  そんな黒瀬の通う高校に突如転校してきた白桃楓香。初対面なのにも関わらず、なぜかいきなり黒瀬に抱きつくという奇行に出る。 「才斗くん、これからよろしくお願いしますねっ」  なんと白桃は黒瀬の直属の部下として派遣された冒険者であり、以後、同じ家で生活を共にし、ダンジョンでの仕事も一緒にすることになるという。  これは、上級冒険者の黒瀬と、美少女転校生の純愛ラブコメディ――ではなく、ちゃんとしたダンジョン・ファンタジー(多分)。 ※小説家になろう、カクヨムでも連載しています。

処理中です...