奴隷落ちを免れた令嬢は生きるために奮闘する。~いつかまた、アネモネの咲く丘で会いましょう〜

珠音

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赤い花

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 ニコライは静かに火の玉を消滅させるとフィオラを地面に下ろした。 

「兄ちゃん、凄いねえ!それだけ出来れば魔法騎士団に入れるよ!」 

 あわや大惨事というところだったが、周りは祭りの余興とでも思っていたのか疎らに拍手が起きている。 
 ゆっくりとフィオラを見下ろすニコライの顔は感情が読めない。無言でフィオラの手を取ると歩き出す。 

「へへっ、あ、ありがとう……なんか、よく分かんないけど変なのに絡まれちゃって……」 

「君は……何で大人しく待っていられないんだ?」 

「そんなこと、言ったって……」 

 フィオラは大人しく待っていた。騒いでいたのは外野である。それなのに何故フィオラが責められなければならないのか。納得がいかない。 
 またも人目を集め始めてしまった二人は広場を離れ、通りを歩いていた。 

「もっと自覚してくれよ」 

 ニコライが溜め息まじりに呟く。 

「何をだよ?意味分かんないこと言うな!」 

「君は、鏡を見たことはないのか?」 

 明らかに苛立っているニコライを前に、フィオラも苛立っていた。 

「何を怒っているのか知らないけどな、鏡なんか毎日見てるよ!最近じゃ、毎日鏡を見ながら髪を梳かしてるんだからな!」 

 何を自慢してあるのか。 もう、どこからつっこんでいいのか分からない。 
 ニコライは遣る瀬無さそうに息を吐いた。 

「そういうことを言っているわけじゃない。……ああ、もう!今迄は自分にたかる虫を払っているだけで良かったのに……!」 

 言いながら、ニコライは髪を掻き毟る。 
 ニコライは何に苛立っているのか。鏡を見てるか見てないかが、今この状況にどう関係するのか。 

 まあ、どうでもいいか。 

 通りには飲食店だけでなく、雑貨店もある。フィオラの興味はとっくの昔にそちらに移っていた。 
 ふと、フィオラは宝飾店のガラス窓に映った自分の姿に目を留める。 

「何だ、これ……そういや、さっき頭に何かつけられてたな」 

 ミーシャが編み込んでくれた髪に赤い花が差し込まれていた。 セットしてくれた時にはなかったはず。
 先程の頭の痛みはこれだったのか。 よく見ると同じ花がニコライの胸ポケットにも収まっている。 
 何の花だろう。と、フィオラはガラス窓を覗き込むようにして花に手を伸ばした。 

『赤いアネモネですね。ニコライくんはセンスが良いです』 

 レイが満足そうに頷く。 が、当然、その言葉はニコライには届いていない。 

「本当は薔薇が良いかなと思ったんだけど……もう売り切れてて……」 

『いえ、いえ。アネモネの方がビビッドでフィオラには合っています』 

 花に気付いたフィオラにニコライは何故か気不味そうに言い訳した。
 ニコライを称賛するレイの声は当然聞こえてはいない。 
 どうやらニコライは、フィオラを置いて花屋に行っていたらしい。






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