奴隷落ちを免れた令嬢は生きるために奮闘する。~いつかまた、アネモネの咲く丘で会いましょう〜

珠音

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魔女と同居人1

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「逃さねぇっ、つってんだろぉがぁー!!」

 ドスのきいた罵声が響く深い森の中、魔物の群れが逃げ惑っていた。 
 罵声の主は、長い赤髪をなびかせた女。年の頃は二十歳ほど。 
 この場には少々不釣り合いなオフショルダーの赤いワンピースを身に纏っているが、体のラインがはっきりと出ていて、なかなかのナイスバディであることが知れる。 
 顔立ちも目鼻立ちがはっきりとしていて、なかなかの美女であった。 

「ふはははっ!甘ぇんだよっ!!」

 ―――――だが、口は悪い。 

 女は親の仇の如く魔物を容赦なく次々と倒して行く。 
 魔物たちが雄叫びを上げながら逃げ惑う姿は、正に阿鼻叫喚。地獄絵図のようであった。 

 逃げ場を無くした魔物が森の木々を薙ぎ、激しく砂煙が舞う。
 逃がすものかと、女は森の奥へと逃げる魔物を追い跳躍する。 
 あっと言う間に、その魔物の頭を人差し指で捕えると、そのまま、そこを支点に一回転し、着地した。
 その瞬間、彼女の倍以上ある魔物がぐずぐずと崩れるようにして倒れた。 

「ふっ、こんなもんかなぁ~」 

 辺りを見渡し、魔物が残っていない事を確認すると、女が呟く。決めポーズとばかりに、赤い髪をかき上げた。

 もくもくと舞っていた砂煙が落ち着き、森に静寂が訪れた頃には、彼女の姿は跡形もなく消えていた―――――…… 




 ……―――――と、その直後。 
 その森から数百キロ離れたノートス辺境伯領の外れ、そこにひっそりと建っている二階建ての家がある。
 そこに彼女の姿が現れた。 転移魔法を使ったのである。 

『フィオラ。お帰りなさい』

 そこへ、男の声が彼女を迎えた。 
 フィオラは長い赤髪をかき上げながら声の主を振り返る。フィオラはこの仕草がお気に入りだった。 

「レイ!ただいま!今日もぶちかまして来たよ!」

『ぶちかま……それは、良かったですね』

 レイは何とも言えない表情に無理矢理笑みを貼り付けた。その姿は半透明で、向こう側が透けている。 

 この国は、四方を魔物がいる森で囲まれている。 領地の中に森がある領主が其々に管理する決まりになっていた。
 この二階建ての家は、元は前ノートス辺境伯爵がその森の見張り小屋として建てた物であった。
 建てられてから既に何十年も経ち、床も至る所に穴が空いている。屋根はいつ崩れ落ちてもおかしくはない有様。 とても家とは呼べない。
 そんなボロ小屋にフィオラは一人で住んでいた。レイは強いていうならば同居人。 

「あっ、解いてなかった」

 そう言うと、フィオラが目を閉じる。
 その瞬間彼女の姿が歪み、その姿が変化していく。
 すらりと伸びた身長は三十センチほど縮み、鼻筋の通った高い鼻も幾分か低くなった。
 艷やかだった肌はガサガサに。女性らしい曲線もなくなり、全体的に肉が削げ落ち骨張っていく。
 着ていた赤いオフショルダーのワンピースは、元は白色であったであろうと思わせる今は灰色に薄汚れたブラウスと、洗濯し過ぎて生地が薄くなっている元は赤色だったのだろうスカートに変わった。
 トレードマークとも言える赤い髪と瞳は平凡な茶色に変化していた。 
 先程とは似ても似つかない、なかなかのチビの醜女である。 

『認識阻害魔法も板についてきましたね』

「でしょ!大人の女って感じでしょっ?!」

 フィオラは、先程の姿より幾分か幼さの残る顔を綻ばせた。 
 ナイスバディの美女の正体は、このなかなかの醜女が魔法で姿を変えていたのであった。 

『後は、言葉遣いを直すだけですね』

「別にいいじゃん、このままで。どうせレイとしか喋らないんだし」 

『でも、大人の女性になりたいのでしょ?でしたら、もう少し淑女らしくしたら良いではないですか』

「ああ、もう!うるさいな!」 

 フィオラは『大人の女性』というものに憧れを抱いていた。髪をかき上げる仕草がお気に入りなのも『大人っぽい』と、いう理由からだ。
 あくまでもフィオラの中の『大人の女性』のイメージだけれども。 

 レイは何かにつけて口うるさい。 
『大人の女性』についても、フィオラは方向性を間違えている。と、言うのだ。
 赤いワンピースも、フィオラは大人っぽくていいと思っている。だが、太腿まで大きくスリットが入っているのがいけないのか、レイに言わせるとそのデザインでは娼婦に見えるらしい。

 しかし、フィオラのイメージがおかしな方向に向かってしまうのも無理からぬ事ではあった。

 フィオラが十歳の時に、母親が亡くなった。 それ以降、フィオラはこのボロ小屋で独りだったのだ。
 その母親も病で床にずっと臥せっていたので、フィオラに一般常識やら何やらを教育してくれる者は誰ひとりとしていなかったのだ。

 ―――――――レイと出会うまでは。




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