奴隷落ちを免れた令嬢は生きるために奮闘する。~いつかまた、アネモネの咲く丘で会いましょう〜

珠音

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ノートス辺境伯

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 フィオラが玄関を振り返ると同時に、激しくノックされた。 

「愚図!いるんでしょ!出て来なさい!!」

 苦い顔をしている場合ではない。
 嫌嫌ながらフィオラがドアを開けると、ノートス辺境伯家の侍女が玄関の前で仁王立ちしていた。 

「遅い!ほんっと、愚図ね!さあ、さっさと付いて来なさい閣下がお待ちよ!!」 

 侍女は忌々し気にフィオラを睨むと、何の説明もなく来た道を戻って行く。
 フィオラは深い溜め息を吐くと、レイを見やり肩を竦めた。 
 因みにレイの姿はフィオラ以外には見えていない。 

『どこに行くのでしょうねぇ』 

「さぁね。辺境伯邸じゃない?仕方ない。ちょっと行ってくるよ」

 着の身着のまま、渋々と侍女を追い掛ける。

「ほんっと、愚図!」

 既に荷馬車の前で仁王立ちしていた侍女はフィオラが来るなりその首根っこを掴み、まるで荷物かのように馬車の荷台へと放り込んだ。
 恐らく辺境伯の荷物の方が、よほど大事に扱われるだろう。 

「……ったぁ~」 

 肩を打ったフィオラが痛みにうずくまっていようが、侍女はそれをまるっと無視して荷馬車を走らせた。 

 向かった先は、やはり辺境伯邸。
 到着するなりフィオラは湯船に放り込まれ、ごしごしと洗濯物のように洗われる。 
 有無を言わさず化粧を施され、サイズの合っていないドレスを着させられた。 
 今まで経験のない事をされ、フィオラが目を回している内に連れて行かれたのは辺境伯の執務室。 

「閣下。お連れ致しました」

 侍女に背中を押され、つんのめりそうになりながら部屋の中に入る。
 室内には偉そうにふんぞり返っている男が奥に座っていた。 
 その脇にはフィオラと同じ年頃の男女と、その母親らしき女が控えている。 
 その何れもがフィオラを品定めするように、じろじろと眺めた。フィオラに対して友好的な視線ではないという事だけは理解出来る。
 こうなる予想はしていたが、あまり良い気分とはいえない。
 

「……お前がフィオラか」

 偉そうにしている男が重々しい雰囲気で口を開いた。 

「……はい」

 虫でも見るかのような視線を向ける男に、フィオラも負けじと見つめ返した。


 ――――――この男が、ノートス辺境伯。


 魔力無しの判定を受けたフィオラと、その母親をこの屋敷から追い出した張本人でありフィオラの実の父親、その人であった。




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