奴隷落ちを免れた令嬢は生きるために奮闘する。~いつかまた、アネモネの咲く丘で会いましょう〜

珠音

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縁談

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 フィオラは紛れもなく、ノートス辺境伯家の長女であった。 
 それが何故、あのようなボロ小屋で独り暮らしているのかというと、それは偏にフィオラが魔力無しだからだ。
 この国において、魔力無しは奴隷として扱われる。 フィオラは父親から虐げられていた。いや、完全に放置されていた。 


 虐められるより、放置してもらう方が全然いいけどね。 


 フィオラは早い段階で、色々と諦めていた。
 病床に伏した妻を見舞おうとする事もなく、追い出した男を父親だとは到底思えなかった。
 まだフィオラの母親が生きている頃から、愛人を本邸に住まわせた男。 
 フィオラの母親が亡くなった後は、フィオラの存在を完全に放置した男。 


 いや、完全にというわけでもないか。


 月に一度程度、ボロ小屋に侍女が訪れていた。それも、フィオラの生死を確認する為だけに。 
 それだけだった。 
 それが、今日はどういう風の吹き回しだろうか。
 父親と対面するのも、今日が初めてだ。 赤ん坊の頃に会っているのだろうが、そんな事は覚えてなどいない。 
 今日は、フィオラを湯に入れただけでなく、着飾らせている。こんな事は初めてだった。 
 ただ、残念なのは、鶏ガラのようなフィオラには今着させられているドレスはサイズが大き過ぎるということだ。


 嫌な予感しかしない。


 父親である辺境伯は、フィオラに散々侮蔑の視線を向けると「汚らしい」と、呟いた。


 誰のせいだよっ!! 


 フィオラは、ぎゅっと唇を噛みしめた。 
 この男の言うところの「汚らしい」が何を指すかは知らない。 魔力を持たない事なのか、それとも単純に容姿の事を言っているのか。 
 どちらにしても、子供一人でどうしろというのか。 人里離れた森にいたら、食事だってままならないし、身なりなんて気にしていられない。
 魔力の事だってそうだ。好きでそう生まれて来たわけではない。 
 だからフィオラは、早く大人になりたかった。 大人になれば生活くらいはなんとかなるんじゃないかと本気で考えていた。 
 しかし、その考えは浅はかであった事を、今日この場で思い知る事となる。 

「フィオラ。お前に縁談が来ている。今から出発しろ」 

「えっ、んだ……?い、ま……?」 

「聞こえなかったのか?今すぐ輿入れしろと言っている」 

「………」

 鳩が豆鉄砲を食らうとはこの事だ。突然の事に呂律も回らない。 だが父親の方はそれだけ言うと、もう用は済んだとばかりに机の書類に目を落としていた。 
 一応は血の繋がった娘であるはずのフィオラの縁談。それでも、この男にとっては事務処理と何ら変わりはないのだろう。


 ち、ちょっと、縁談って言った? 
 せめて、相手がどこの誰かくらい言えよ!!
 ……まあ、言われても分かんねぇけど。


 今更、親子関係の薄さなどにショックは受けないが、ただ話が突然過ぎる。 フィオラが固まっていると、壁に控えていた侍女に腕を取られ引き摺られるようにして部屋を出された。 




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