奴隷落ちを免れた令嬢は生きるために奮闘する。~いつかまた、アネモネの咲く丘で会いましょう〜

珠音

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「……何が目的なんだ?」

 普通でいいと言われ、フィオラは遠慮なく普通に訊く。それが気に入らないのか何なのか、ニコライが眉根を寄せた。 

「目的?」 

「だって、そうだろう?見た所、あんたは顔も整ってるし、地位もある。女なら腐るほど寄って来るはずだ。本来なら奴隷になっていてもおかしくなかった女と態々結婚したがるなんて、目的でも無きゃ意味が分からねぇだろ」 

「………」 

 ニコライはソファーに寄り掛かり黙ってフィオラの話を聞いていた。 

「……奴隷?」 

 体を起こしたニコライが暫しの沈黙の後、発した言葉はそれだった。 

「あっ、まさか!あんた、私が魔力無しだって知らなかったのか?!」 

 もし知らなければそれを理由にこの縁談を御破算に出来るかもしれない。フィオラは淡い期待を抱いた。
 仮にその事で辺境伯に何かしらのクレームが行ったところでフィオラは痛くも痒くもない。 そしてそのまま、しれっと平民に混じって生活すればいい。 
 しかし次の瞬間、フィオラの淡い期待は裏切られる。 

「……知っている。魔力無しの貴族令嬢は社交界では有名だからな」 

「じゃあ、何で……」 

「それと、ひとつ訂正しておく。俺は顔が整っていて地位もあるが、冷酷非道などと噂があるくらいだからな……女は寄って来ない」 

「……美形で金持ちだってとこは否定しないんだ」 

「あなたが言ったんだが?」 

 初めてニコライが笑った。笑ったと言っても口角を上げる程度だったが。 

「……ライ?」 

「っ!!」 

 そうだった。かつての弟子志願者の少年はライと名乗っていた。 
 笑った顔を見て、不意に思い出したフィオラが思わず呟くと、ニコライが目を見開く。 

「……あなたは、疾風の魔女をご存知か?」 

「ん?ぁあー……うん。ここに来る途中で馭者から聞いた。強い魔法使いだって」 

 突然の不意をつく質問にフィオラはきょとんとする。 
 レイによればそれはフィオラ自身の事らしいが、フィオラは魔力無しということになっている。自分で強いとか言うのは恥ずかしいが、相手は正体を知らないのだからいいだろう。 

 なぜ、睨む?? 

 フィオラの返答が気に入らないのか、何故だかニコライが挑むように睨んでくる。 

「その疾風の魔女が、どうしたんだ?」 

「俺は、彼女に会った事がある」 

 知ってる。と、言ってしまいそうになるのを堪らえる。

「へ、へぇー……ど、どんな人だった、の?」 

 だが自分が彼女である。と、馬鹿正直に教えてあげるつもりはなかった。 面倒な事になりそうだと思ったからである。

「彼女は、そうだな……美しい赤い髪に赤い瞳で、とても綺麗な女性だ。俺の悩みを聞いてくれて……魔法も教えてもらった」 

 その時の事をフィオラはよく覚えていないが、褒められているのは、自分であって自分ではない。それでも、何とも言えないむず痒さに歯が浮く。なんで話を広げてしまったんだと少し後悔した。 
 ニコライはその時の事を思い出しているのか、頬を染めて遠くを見つめていた。 

 あれ? 頬を染めて? 

 人との接触が少なく生きて来たフィオラでも、その雰囲気にはピンときた。 

「あ……もしかして、その魔女の事が好きなの?」 

「はっ?!何を」 

『フィオラ、あんまりストレートに訊くものではありませんよ』 

 それまで大人しく二人のやり取りを見ていたレイが『こらっ』と、窘める。 
 ニコライは図星だったのか、耳まで真っ赤に染まっていた。 

「へぇ、そうなんだ。で?」 

「違う、そんな事は、ない。……見るな!」 

 からかうようにじっと見つめるフィオラを、ニコライは横目で睨む。 
 ニコライが何歳なのかは知らないが、口を押さえて横を向くその姿は幼く見えた。 





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