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メイドのミーシャ
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その後、ヒューゴがメイドを呼び、フィオラは部屋へと案内された。
「こちらがお嬢様に使っていただくお部屋です。急遽準備したので、足らない物があれば申し付けて下さい」
メイドはそう言うが、案内された部屋は、こちらもフィオラが住んでいた小屋より広い。
大きなベッドに、応接セット。デスクやドレッサーまである。こんなに色々な物が置かれているのに狭いと感じない。更に、部屋の中にあったドアを開けたらお風呂まであった。
これ以上、何が必要になるってんだ??
本来であれば公爵夫人用の私室を使う事になっていたのだが、婚約に変更してしまったのでフィオラが使う部屋も客間へと変更してくれたらしい。
ぅわあっ。と、思わずきょろきょろと部屋の中を物色していると、フィオラに興味津々といった感じでもじもじしているメイドと目が合った。
「あ、えーと……」
「ミーシャです。お嬢様」
フィオラに声を掛けられ、ミーシャは嬉しそうに、にこっと笑った。このメイドがフィオラの身の回りの世話をしてくれるという。
「あのさ、自分の事は自分で出来るから、この家のルールとかあったら教えてくれる?」
身の回りの世話をする。と、いうことは、常に側にいることになる。それはフィオラにとって、とても煩わしい事だった。 レイの事もあるし、出来れば一人でいたい。
「わかりました。特に決まったルールはないですが、不都合があれば仰って下さい」
メイドに対してお前は必要ないと言っているようなものだ。怒られるかと少しかまえたが、ミーシャは気分を害したふうもなく微笑んでいる。
「早速ですが、お湯の用意が出来ていますが、どうされますか?夕食にはまだ早いですが、食事にされるのであれば準備致します」
「あ……じゃあ、お風呂にするよ」
自分の事は自分で出来ると言いながら、早速お湯の用意をしてもらっていた事が気恥ずかしい。
「では、タオルと着替えをお持ちします。……本当にお一人で大丈夫ですか?」
「うん。大丈夫」
念を押すミーシャに頷くと、ミーシャが「そうですよね。見られたくないこともありますものね」と、どこか憐憫の眼差しでフィオラに頷き返した。
見られたくないことって、なんだ??
確かにフィオラの鶏ガラのような体は見たくもないだろうけれども。
フィオラが疑問符を浮かべながらミーシャからタオルを受け取っていると、レイが『なるほど』と、手を打つ仕草をした。
『この方は、フィオラの背中に鞭打ちの跡があるとでも思っていらっしゃるのかもしれませんね』
「えっ!私が鞭打ちの跡を隠してると思ってんの??」
「えっ!どうしよう、私。顔に出てましたか?!」
例によってレイの言葉にフィオラが反応してしまい、更にミーシャがそれに反応した。 両手で頬を押さえ、おろおろとしている姿は幼い少女の様だ。
実際ミーシャはフィオラよりも二つ歳下の十四歳だったことが後に判明する。
ミーシャはフィオラの外見で色々と察したらしい。 だからフィオラの、お世話を拒む発言も「そういう事かもしれない」と、思っていたようだ。
「いや、勘違いが過ぎるだろ」
「も、申し訳ございません……まだメイドになって一年ほどの新米なものですからっ!」
ミーシャがぺこぺこと頭を下げる度に、ミーシャのおさげ髪が上下に踊る。
「あれっ、そういえば……」
「ぅわあっ!ごめんなさいっ!!違うんです!態と新米メイドをお嬢様に付けたわけではなくてですね……この屋敷のメイドは、私だけなのですっ!!」
フィオラの言葉を遮り深々と頭を下げたミーシャのおさげ髪が、ぷらぷらと横に揺れた。
そうなのだ。こんなに広い屋敷なのに、使用人の気配がほとんどない。 ノートス辺境伯の屋敷では、侍女だけでも何人もいた。正確な人数はわからないが、フィオラの生死を確認しに来ていた侍女は毎回違う顔だったように思う。
「まあ、別にそれはいいけどさ……なんでいないの?いないのはメイドだけ?」
「は、はい……使用人は、私と執事のヒューゴさん。それと、料理長……あ、あと庭師がいます!」
「はっ?!それだけ?!何で?もしかして、この家、使用人も雇えないほど貧乏なのか?!」
「ちっ、違います!あの……旦那様が、辞めさせてしまったのです」
「なんで??」
「私は存じ上げません」
本当に理由は知らないのか、ミーシャはしょぼんと俯いた。
それにしても、この広い屋敷にメイドが一人。旦那様とはニコライのことだろうが、いったい何を考えているのだろう。
掃除や洗濯、その他諸々をメイド一人にやらせるとは、なかなかのブラックではないか。
ならばそれはもう、自分の事は自分でやるのは当たり前の事だと思えた。
「まあ、とりあえず……お風呂入ってくるね」
難しい事は考えても始まらない。 ならば、今、自分に出来る事を全力でしよう。
フィオラはミーシャから受け取ったタオルを手に、意気揚々と風呂場のドアを開けた。
「こちらがお嬢様に使っていただくお部屋です。急遽準備したので、足らない物があれば申し付けて下さい」
メイドはそう言うが、案内された部屋は、こちらもフィオラが住んでいた小屋より広い。
大きなベッドに、応接セット。デスクやドレッサーまである。こんなに色々な物が置かれているのに狭いと感じない。更に、部屋の中にあったドアを開けたらお風呂まであった。
これ以上、何が必要になるってんだ??
本来であれば公爵夫人用の私室を使う事になっていたのだが、婚約に変更してしまったのでフィオラが使う部屋も客間へと変更してくれたらしい。
ぅわあっ。と、思わずきょろきょろと部屋の中を物色していると、フィオラに興味津々といった感じでもじもじしているメイドと目が合った。
「あ、えーと……」
「ミーシャです。お嬢様」
フィオラに声を掛けられ、ミーシャは嬉しそうに、にこっと笑った。このメイドがフィオラの身の回りの世話をしてくれるという。
「あのさ、自分の事は自分で出来るから、この家のルールとかあったら教えてくれる?」
身の回りの世話をする。と、いうことは、常に側にいることになる。それはフィオラにとって、とても煩わしい事だった。 レイの事もあるし、出来れば一人でいたい。
「わかりました。特に決まったルールはないですが、不都合があれば仰って下さい」
メイドに対してお前は必要ないと言っているようなものだ。怒られるかと少しかまえたが、ミーシャは気分を害したふうもなく微笑んでいる。
「早速ですが、お湯の用意が出来ていますが、どうされますか?夕食にはまだ早いですが、食事にされるのであれば準備致します」
「あ……じゃあ、お風呂にするよ」
自分の事は自分で出来ると言いながら、早速お湯の用意をしてもらっていた事が気恥ずかしい。
「では、タオルと着替えをお持ちします。……本当にお一人で大丈夫ですか?」
「うん。大丈夫」
念を押すミーシャに頷くと、ミーシャが「そうですよね。見られたくないこともありますものね」と、どこか憐憫の眼差しでフィオラに頷き返した。
見られたくないことって、なんだ??
確かにフィオラの鶏ガラのような体は見たくもないだろうけれども。
フィオラが疑問符を浮かべながらミーシャからタオルを受け取っていると、レイが『なるほど』と、手を打つ仕草をした。
『この方は、フィオラの背中に鞭打ちの跡があるとでも思っていらっしゃるのかもしれませんね』
「えっ!私が鞭打ちの跡を隠してると思ってんの??」
「えっ!どうしよう、私。顔に出てましたか?!」
例によってレイの言葉にフィオラが反応してしまい、更にミーシャがそれに反応した。 両手で頬を押さえ、おろおろとしている姿は幼い少女の様だ。
実際ミーシャはフィオラよりも二つ歳下の十四歳だったことが後に判明する。
ミーシャはフィオラの外見で色々と察したらしい。 だからフィオラの、お世話を拒む発言も「そういう事かもしれない」と、思っていたようだ。
「いや、勘違いが過ぎるだろ」
「も、申し訳ございません……まだメイドになって一年ほどの新米なものですからっ!」
ミーシャがぺこぺこと頭を下げる度に、ミーシャのおさげ髪が上下に踊る。
「あれっ、そういえば……」
「ぅわあっ!ごめんなさいっ!!違うんです!態と新米メイドをお嬢様に付けたわけではなくてですね……この屋敷のメイドは、私だけなのですっ!!」
フィオラの言葉を遮り深々と頭を下げたミーシャのおさげ髪が、ぷらぷらと横に揺れた。
そうなのだ。こんなに広い屋敷なのに、使用人の気配がほとんどない。 ノートス辺境伯の屋敷では、侍女だけでも何人もいた。正確な人数はわからないが、フィオラの生死を確認しに来ていた侍女は毎回違う顔だったように思う。
「まあ、別にそれはいいけどさ……なんでいないの?いないのはメイドだけ?」
「は、はい……使用人は、私と執事のヒューゴさん。それと、料理長……あ、あと庭師がいます!」
「はっ?!それだけ?!何で?もしかして、この家、使用人も雇えないほど貧乏なのか?!」
「ちっ、違います!あの……旦那様が、辞めさせてしまったのです」
「なんで??」
「私は存じ上げません」
本当に理由は知らないのか、ミーシャはしょぼんと俯いた。
それにしても、この広い屋敷にメイドが一人。旦那様とはニコライのことだろうが、いったい何を考えているのだろう。
掃除や洗濯、その他諸々をメイド一人にやらせるとは、なかなかのブラックではないか。
ならばそれはもう、自分の事は自分でやるのは当たり前の事だと思えた。
「まあ、とりあえず……お風呂入ってくるね」
難しい事は考えても始まらない。 ならば、今、自分に出来る事を全力でしよう。
フィオラはミーシャから受け取ったタオルを手に、意気揚々と風呂場のドアを開けた。
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