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親子
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石櫃に気を取られるあまり、不覚にも後ろを取られるとは。 逆光でシルエットしか見えず、ただの獣か魔物かすらも分からない。
フィオラは、慎重に近付く。 どうやら、今のところは「しゃーっ!!」と、威嚇をするだけで、攻撃してくる様子はなさそうだ。
長い耳に、額には角……
赤い円らな瞳……
今は逆立ってるけど、もふもふそうな白い毛並み……
――――こいつはっ!!
「かっ……」
フィオラは、握った拳をふるふると震わせた。
『これは、一角兎の……』
「かわいーっ!!」
『………』
レイが「すん」と、表情を消した。
フィオラとて、目の前の獣が一角兎という魔物である事は重々承知している。何度も目にして来た。
しかし、目の前の一角兎は、今まで見て来たそれよりも、遥かに小さかった。大きさだけで言えば、まるで普通の兎。まあ、それよりは、大きいけれど。
「何なんだ、こいつは?子供の一角兎か?!ちっさ!めっちゃかわいいな!ペットにしたい!!」
燥ぐフィオラに何かしらの脅威を感じたのか、一角兎は威嚇しながらもたじろぐ様に後退った。
レイが分かりやすく大袈裟に息を吐く。
『フィオラ……いくら可愛くても、魔物ですよ?殺さないなら、せめてこのままにしないと』
「分かってるよ……ぁ」
当然、そんな事は分かっている。ただ言ってみただけだった。
が、フィオラは気付いてしまった。その一角兎の背後に隠れていた、更に小さい存在に。
「親子……」
思いもよらなかった事にフィオラは動揺した。
今まで、数え切れない程の魔物を狩って来たフィオラだったが、それは相手が獰猛な魔物であったからこそで、人間を襲うだけの生き物だと疑いもせずにいたから。だから、何も考えずにいられた。 しかし、こんな姿を見せられては手が出せない。
自分の住処を突然荒らされたら、それは当然怒るだろうなと思うと同時に……
……そう。普通は、子供を守るよな。
一瞬戸惑ったフィオラは、それでも意を決して深呼吸すると、一角兎を刺激しないように、静かに手を伸ばした。
一角兎の額に手を翳すと意識を集中させる。
すると牙を剥いて唸っていた一角兎の目が、次第にとろんとしていった。
異変を感じたのか、蹲り動かなくなった一角兎の周りをその子供がぴょんぴょんと跳ねている。
「大丈夫……寝てるだけだよ」
フィオラはそう言うと、子供の一角兎の頭を撫でた。
自分の身を守ろうとしているのか、はたまた親の敵を取ろうとでもしているのか。その小さな一角兎は、生意気にも小さな牙と爪でフィオラを攻撃しようとしてくる。
牙も爪も小さくて、まだ殺傷能力はなさそうだが、その姿にフィオラは何とも言えず胸を締め付けられた。
「お前も、寝とけ。次は……殺すよ?」
だから、二度と会わない様にしてくれ。
苦も無く一角兎の親子を寝かしつると、フィオラは無言で巣穴を後にした。
「甘いと思う?」
『何がですか?』
フィオラの問いに、レイが問い返す。
いくら通常より小さいとはいえ、魔物は魔物。この先、あの魔物が人間を襲わない保証はない。 いつか、今日の事を後悔する時が来るかもしれない。 フィオラはレイの問いには答えなかった。
二人とも、無言であった。
湖の畔に無事に戻って来くるまでは。
「ぁあっ?!ボートがないっ?!」
日も暮れ始めた湖の畔。
もう一度、目を凝らして辺りを見渡すが、ボートらしいものもキンバリーらしき人影も見当たらない。それどころか、対岸を見ても人影がない。
「この辺だったよな?!」
やっとの思いで戻って来たというのに。
焦ったフィオラは、右往左往する。
置いていかれた?!
実際に日も暮れているし、ここまで戻って来るのに時間はかかっているのは確かだ。
だからって、置いていくことはないだろう。
「……どうしよう」
『屋敷に帰ればいいのでは?』
途方に暮れているフィオラに、何でもない事のようにレイが言う。
「どうやって……ぁあっ!」
すっかり焦ってしまって忘れていたが、部屋に転移すればいいだけの話。
フィオラは、ぽんと手を叩く。
「大勢で来てたから忘れてたよ。こんなことなら、歩き回ってないで、さっさと帰れば良かった」
酷い話だが、みんな先に帰ってしまったなら何の問題もない。
フィオラは躊躇う事なく屋敷の自分の部屋をイメージすると、さっさと転移した。
「よし!腕は落ちてないな?」
『腕は落ちてませんが、泥も落ちてませんよ?』
ちゃんと部屋の中に転移出来た事を確認していると、レイが茶々を入れる。
「……確かに」
洋服についた泥汚れもそうだが、手や足についた擦り傷切り傷もひどい。
あの後、土壁をよじ登ったり、蔓に足を引っ掛けて転んだりと散々だったのだ。改めて見ると酷い有り様だった。
「お風呂に入るか」
お湯を沸かすくらいなら、フィオラでも出来る。 鼻歌を歌いながら準備していると、勢いよく浴室の扉が開いた。
「誰ですかっ?!……て、あれっ?お嬢様?!あれっ?だって……あの、いつの間にお戻りに??」
「あ……」
ミーシャだった。
手には掻き出し棒を手にしている。
有能なミーシャは、誰もいないはずのフィオラの部屋から物音がする事に気付いたのだ。 そして勇敢にも侵入者を撃退するべく勢い勇んで飛び込んで来たのだが、その侵入者が当のフィオラで赤くなったり青くなったりと忙しなく表情を変えている。
「も、申し訳ございません!お戻りになっていることにも気付かず!」
ぺこぺこと頭を下げるミーシャに合わせて、ミーシャのお下げ髪が踊った。白くふわふわとした小さな髪飾りが目に入る。
「……て、きゃぁあっ!お嬢様、何ですか、そのお姿はっ?!」
落ち着く暇なく、ミーシャが卒倒しそうな叫び声を上げる。それに合わせるように、お下げ髪がぴょんと跳ねた。
気付かれずに部屋に戻って来た事をどうやって誤魔化そうかと考えていたフィオラの気持ちを置き去りにして、ミーシャはフィオラを寝室へと追いやる。
因みにここまで、フィオラは「あ」としか言葉を発していない。
「駄目ですよ、お嬢様!水風呂なんて、お風邪を召します!!すぐ準備しますので、ほんの少しお待ち下さい」
水を張った浴槽を見て、ミーシャはそう判断したのだろうが、フィオラとて水風呂なんて嫌だ。自分で沸かそうとしたとは言わずに、ここは素直に頷いた。
「あ、うん。お願いします」
やっと言葉を発したフィオラは、ミーシャのお下げ髪を見ていた。白い髪飾りはお下げに隠れてしまっていた。
お風呂から上がると、ミーシャが待ち構えていて髪を乾かしてくれる。
フィオラは鏡越しにミーシャを見つめた。
「ねぇ、ミーシャの髪飾り。見せてくれる?」
フィオラは、ずっと気になっていた。
ミーシャは、タオルドライしていた手を止め、きょとんとしている。 やっとフィオラの言葉を理解したのか、同じ様にフィオラを鏡越しに見つめてから、さぁーっと顔を青くさせた。
「か、髪飾りなんて、つ、つつつつけてません!お嬢様の勘違いではっ?!」
フィオラは、何となく気になっただけであった。それなのに、ミーシャは明らかな動揺を見せている。 そんな姿を見せられたら、気にするなという方が難しい。
「髪を止めているゴムに、白くて丸っこいのがついてたじゃんか?」
フィオラの追求に反応するように、ミーシャのお下げ髪がぴょこんと跳ねた。
「……だから、出て来ちゃ駄目って言ったのに……」
ミーシャが観念したように、二つに束ねたお下げの中から白い何かを取り出した。
二つのふわふわとした物体は、ミーシャの手の上でふわふわと飛んでいる。
「これってさ……ワタムシじゃないの?」
ふわふわとした物体をまじまじと見つめて、フィオラは眉を顰めた。
ワタムシとは、森に生息している綿の様にふわふわとした吸血する虫で、この虫に血を吸われると三ヶ月くらい高熱が出る。
後遺症が残ることもあり、魔物というより、害虫に分類されている虫だ。
「ち、違います!……多分。だって、この子たちは白いじゃないですか」
そうなのだ。ワタムシは通常、黒い。
例えば、兎と一角兎の様に、獣と似ている魔物もいる。しかし、白いワタムシは見たことがなかった。
「新種なのか……?毒はないの?」
「……血は吸いますけど、ほんのちょっとですし、噛まれた所も何ともないんです!……ちょっと痒くなるくらいで、それもすぐおさまりますし……」
「痒くなる毒?」
「毒なんてほどでは!お願いします、殺さないで!!……この子たちはお友達なんです」
「……オトモダチ」
にべもなく殺されるとでも思ったのか、ミーシャが涙ながらにフィオラに訴えた。ワタムシたちも異常を感じたのか、忙しなく飛び交っている。
これでは、まるでフィオラが悪者である。
「……夕食はまだ?」
害虫であれば始末しなければならないが、フィオラとしては害をなさないのであればどうでも良かった。それよりも、お腹が空いた。
「お嬢様!ありがとうございます!!」
もとより、フィオラに人のオトモダチを殺して良い権限はないのだが、見逃してもらった喜びの表現なのか、ワタムシはミーシャのお下げ髪に引っ付き、ぴょこんと上に跳ね上げた。安心したように、もぞもぞとお下げの隙間に入っていく。
「直ぐに食事の準備をしますね!!」
ミーシャが嬉しそうに部屋を出て行くのを見送りながら、フィオラは「はて?」と、首を傾げた。
「私……なんか、忘れてない??」
傍らに立つレイを見上げる。
思い掛けない虫の登場に気を取られていたが、何かしらする事があった気がするのだ。
しかしそんな事を聞かれても、心当たりがないのだろう。レイも、きょとんとしてフィオラと同じ様に首を傾げた。
フィオラは、慎重に近付く。 どうやら、今のところは「しゃーっ!!」と、威嚇をするだけで、攻撃してくる様子はなさそうだ。
長い耳に、額には角……
赤い円らな瞳……
今は逆立ってるけど、もふもふそうな白い毛並み……
――――こいつはっ!!
「かっ……」
フィオラは、握った拳をふるふると震わせた。
『これは、一角兎の……』
「かわいーっ!!」
『………』
レイが「すん」と、表情を消した。
フィオラとて、目の前の獣が一角兎という魔物である事は重々承知している。何度も目にして来た。
しかし、目の前の一角兎は、今まで見て来たそれよりも、遥かに小さかった。大きさだけで言えば、まるで普通の兎。まあ、それよりは、大きいけれど。
「何なんだ、こいつは?子供の一角兎か?!ちっさ!めっちゃかわいいな!ペットにしたい!!」
燥ぐフィオラに何かしらの脅威を感じたのか、一角兎は威嚇しながらもたじろぐ様に後退った。
レイが分かりやすく大袈裟に息を吐く。
『フィオラ……いくら可愛くても、魔物ですよ?殺さないなら、せめてこのままにしないと』
「分かってるよ……ぁ」
当然、そんな事は分かっている。ただ言ってみただけだった。
が、フィオラは気付いてしまった。その一角兎の背後に隠れていた、更に小さい存在に。
「親子……」
思いもよらなかった事にフィオラは動揺した。
今まで、数え切れない程の魔物を狩って来たフィオラだったが、それは相手が獰猛な魔物であったからこそで、人間を襲うだけの生き物だと疑いもせずにいたから。だから、何も考えずにいられた。 しかし、こんな姿を見せられては手が出せない。
自分の住処を突然荒らされたら、それは当然怒るだろうなと思うと同時に……
……そう。普通は、子供を守るよな。
一瞬戸惑ったフィオラは、それでも意を決して深呼吸すると、一角兎を刺激しないように、静かに手を伸ばした。
一角兎の額に手を翳すと意識を集中させる。
すると牙を剥いて唸っていた一角兎の目が、次第にとろんとしていった。
異変を感じたのか、蹲り動かなくなった一角兎の周りをその子供がぴょんぴょんと跳ねている。
「大丈夫……寝てるだけだよ」
フィオラはそう言うと、子供の一角兎の頭を撫でた。
自分の身を守ろうとしているのか、はたまた親の敵を取ろうとでもしているのか。その小さな一角兎は、生意気にも小さな牙と爪でフィオラを攻撃しようとしてくる。
牙も爪も小さくて、まだ殺傷能力はなさそうだが、その姿にフィオラは何とも言えず胸を締め付けられた。
「お前も、寝とけ。次は……殺すよ?」
だから、二度と会わない様にしてくれ。
苦も無く一角兎の親子を寝かしつると、フィオラは無言で巣穴を後にした。
「甘いと思う?」
『何がですか?』
フィオラの問いに、レイが問い返す。
いくら通常より小さいとはいえ、魔物は魔物。この先、あの魔物が人間を襲わない保証はない。 いつか、今日の事を後悔する時が来るかもしれない。 フィオラはレイの問いには答えなかった。
二人とも、無言であった。
湖の畔に無事に戻って来くるまでは。
「ぁあっ?!ボートがないっ?!」
日も暮れ始めた湖の畔。
もう一度、目を凝らして辺りを見渡すが、ボートらしいものもキンバリーらしき人影も見当たらない。それどころか、対岸を見ても人影がない。
「この辺だったよな?!」
やっとの思いで戻って来たというのに。
焦ったフィオラは、右往左往する。
置いていかれた?!
実際に日も暮れているし、ここまで戻って来るのに時間はかかっているのは確かだ。
だからって、置いていくことはないだろう。
「……どうしよう」
『屋敷に帰ればいいのでは?』
途方に暮れているフィオラに、何でもない事のようにレイが言う。
「どうやって……ぁあっ!」
すっかり焦ってしまって忘れていたが、部屋に転移すればいいだけの話。
フィオラは、ぽんと手を叩く。
「大勢で来てたから忘れてたよ。こんなことなら、歩き回ってないで、さっさと帰れば良かった」
酷い話だが、みんな先に帰ってしまったなら何の問題もない。
フィオラは躊躇う事なく屋敷の自分の部屋をイメージすると、さっさと転移した。
「よし!腕は落ちてないな?」
『腕は落ちてませんが、泥も落ちてませんよ?』
ちゃんと部屋の中に転移出来た事を確認していると、レイが茶々を入れる。
「……確かに」
洋服についた泥汚れもそうだが、手や足についた擦り傷切り傷もひどい。
あの後、土壁をよじ登ったり、蔓に足を引っ掛けて転んだりと散々だったのだ。改めて見ると酷い有り様だった。
「お風呂に入るか」
お湯を沸かすくらいなら、フィオラでも出来る。 鼻歌を歌いながら準備していると、勢いよく浴室の扉が開いた。
「誰ですかっ?!……て、あれっ?お嬢様?!あれっ?だって……あの、いつの間にお戻りに??」
「あ……」
ミーシャだった。
手には掻き出し棒を手にしている。
有能なミーシャは、誰もいないはずのフィオラの部屋から物音がする事に気付いたのだ。 そして勇敢にも侵入者を撃退するべく勢い勇んで飛び込んで来たのだが、その侵入者が当のフィオラで赤くなったり青くなったりと忙しなく表情を変えている。
「も、申し訳ございません!お戻りになっていることにも気付かず!」
ぺこぺこと頭を下げるミーシャに合わせて、ミーシャのお下げ髪が踊った。白くふわふわとした小さな髪飾りが目に入る。
「……て、きゃぁあっ!お嬢様、何ですか、そのお姿はっ?!」
落ち着く暇なく、ミーシャが卒倒しそうな叫び声を上げる。それに合わせるように、お下げ髪がぴょんと跳ねた。
気付かれずに部屋に戻って来た事をどうやって誤魔化そうかと考えていたフィオラの気持ちを置き去りにして、ミーシャはフィオラを寝室へと追いやる。
因みにここまで、フィオラは「あ」としか言葉を発していない。
「駄目ですよ、お嬢様!水風呂なんて、お風邪を召します!!すぐ準備しますので、ほんの少しお待ち下さい」
水を張った浴槽を見て、ミーシャはそう判断したのだろうが、フィオラとて水風呂なんて嫌だ。自分で沸かそうとしたとは言わずに、ここは素直に頷いた。
「あ、うん。お願いします」
やっと言葉を発したフィオラは、ミーシャのお下げ髪を見ていた。白い髪飾りはお下げに隠れてしまっていた。
お風呂から上がると、ミーシャが待ち構えていて髪を乾かしてくれる。
フィオラは鏡越しにミーシャを見つめた。
「ねぇ、ミーシャの髪飾り。見せてくれる?」
フィオラは、ずっと気になっていた。
ミーシャは、タオルドライしていた手を止め、きょとんとしている。 やっとフィオラの言葉を理解したのか、同じ様にフィオラを鏡越しに見つめてから、さぁーっと顔を青くさせた。
「か、髪飾りなんて、つ、つつつつけてません!お嬢様の勘違いではっ?!」
フィオラは、何となく気になっただけであった。それなのに、ミーシャは明らかな動揺を見せている。 そんな姿を見せられたら、気にするなという方が難しい。
「髪を止めているゴムに、白くて丸っこいのがついてたじゃんか?」
フィオラの追求に反応するように、ミーシャのお下げ髪がぴょこんと跳ねた。
「……だから、出て来ちゃ駄目って言ったのに……」
ミーシャが観念したように、二つに束ねたお下げの中から白い何かを取り出した。
二つのふわふわとした物体は、ミーシャの手の上でふわふわと飛んでいる。
「これってさ……ワタムシじゃないの?」
ふわふわとした物体をまじまじと見つめて、フィオラは眉を顰めた。
ワタムシとは、森に生息している綿の様にふわふわとした吸血する虫で、この虫に血を吸われると三ヶ月くらい高熱が出る。
後遺症が残ることもあり、魔物というより、害虫に分類されている虫だ。
「ち、違います!……多分。だって、この子たちは白いじゃないですか」
そうなのだ。ワタムシは通常、黒い。
例えば、兎と一角兎の様に、獣と似ている魔物もいる。しかし、白いワタムシは見たことがなかった。
「新種なのか……?毒はないの?」
「……血は吸いますけど、ほんのちょっとですし、噛まれた所も何ともないんです!……ちょっと痒くなるくらいで、それもすぐおさまりますし……」
「痒くなる毒?」
「毒なんてほどでは!お願いします、殺さないで!!……この子たちはお友達なんです」
「……オトモダチ」
にべもなく殺されるとでも思ったのか、ミーシャが涙ながらにフィオラに訴えた。ワタムシたちも異常を感じたのか、忙しなく飛び交っている。
これでは、まるでフィオラが悪者である。
「……夕食はまだ?」
害虫であれば始末しなければならないが、フィオラとしては害をなさないのであればどうでも良かった。それよりも、お腹が空いた。
「お嬢様!ありがとうございます!!」
もとより、フィオラに人のオトモダチを殺して良い権限はないのだが、見逃してもらった喜びの表現なのか、ワタムシはミーシャのお下げ髪に引っ付き、ぴょこんと上に跳ね上げた。安心したように、もぞもぞとお下げの隙間に入っていく。
「直ぐに食事の準備をしますね!!」
ミーシャが嬉しそうに部屋を出て行くのを見送りながら、フィオラは「はて?」と、首を傾げた。
「私……なんか、忘れてない??」
傍らに立つレイを見上げる。
思い掛けない虫の登場に気を取られていたが、何かしらする事があった気がするのだ。
しかしそんな事を聞かれても、心当たりがないのだろう。レイも、きょとんとしてフィオラと同じ様に首を傾げた。
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