奴隷落ちを免れた令嬢は生きるために奮闘する。~いつかまた、アネモネの咲く丘で会いましょう〜

珠音

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愛想のいい団員

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 ここは王城のロータリー。 
 行き交う人達のざわめきに、ニコライの声は掻き消されそうなほど小さい。下手をすると周りの話し声の方に意識を持って行かれそうだった。 
 そのざわめきの中、一際大きな声がする。と、思ったら、その声の主はこちらに向かって何か叫んでいるようで、フィオラは知らずそちらに意識を向けていた。 

「……もしかして、ライのこと呼んでないか?」 

「違う。気にするな。そんなことより……」 

 もごもごしているくせにニコライは話を続けようとしているらしい。しかし、やはり聞こえて来る声はニコライを呼んでいるように思えてならない。 

「団長ーっ!」 

 声のする方に目を向けたが人混みで顔は見えない。だけど、魔法騎士団の制服っぽい服を着た人がこちらに向かって手を振っているのが見えた。 

「……ほら。ライって、団長じゃないの?」 

「いや。そうだが、今は……」 

「団長ーっ!!」 

「……って、何だ!うるさいなっ!!」 

 人混みを掻き分け登場したのは魔法騎士団の制服を着た若い団員。流石にこの距離では無視をするわけにはいかないのか、ニコライが乱暴に振り返った。 
 何となく自分の存在は見られない方が良い気がして、フィオラはニコライの背後へと隠れた。 

「今日は参列者の方だと伺ってたので……探しましたよ。良かった、見つかって――――って、ぇっ?」 

 駆け寄って来た団員は大袈裟に額の汗を拭う仕草をして、ふとニコライの後ろに見え隠れするドレスに目を留めた。 
 いくら身長が低くて縦幅は隠せても、ふわふわしたスカートはニコライの横幅では隠し切れない。フィオラはぎこちない笑顔を作ると、渋々と団員の前に顔を見せた。 

「俺の婚約者のフィオラだ」 

 フィオラを見つめてぽかんとしている団員にニコライは雑な紹介をすると、直ぐに二人の間を遮るようにフィオラの前に出た。これではフィオラが挨拶出来ない。 

「ぅわっ……ま、まじっすか。お、俺っ、俺の名前は……ぅゔっ?!」 

 続いて団員がフィオラに自己紹介しようとしたのか、ニコライの後ろへ回ろうとしたところをニコライにアイアンクローされて悶える。 

「痛いっ!ち、ちょっと……団長、痛いし見えないです!」 

「見なくていい」 

「はっ?!フィオラ嬢、俺の名前は……」 

「気安くフィオラの名を呼ぶな。名を名乗って、俺の婚約者をどうするつもりだ」 

「はっ?!どうするって……ただの自己紹介ですよっ?!」 

「必要ない……俺に用があったのだろう?向こうで聞こうではないか」 

「はっ?!ぇ……えっ?!何でっ?!」 

 団員の名前は結局聞けぬまま、団員はずるずるとニコライに引き摺られるようにして遠ざかって行った。 

 な、何だったんだ……?? 

 フィオラから見える距離で、ニコライは団員と話をしている。少しして、申し訳なさそうな顔をしたニコライが戻って来た。 

「フィオラ、申し訳ない。少し問題が起きたらしい。直ぐに戻るから、それまでここにいてくれ」 

「問題?」 

「ああ……詳しくは言えないが、建国祭に関してなんだ」 

「ふーん。分かった。ここにいればいいんだな?」 

 フィオラが頷くと、ニコライも頷いて踵を返した。 
 こちらの様子を窺うようにしていた若い団員が、フィオラに向けてぺこりと頭を下げた。フィオラも会釈を返すと、団員は、ぱあぁっと顔を綻ばせた。 

「随分と、愛想のいい奴だな。もっと、嫌味とか言われるかと思ったのに」 

 遠ざかる二人を見送りながら、フィオラが呟く。 
 フィオラは、慣れない作り笑顔に頬を引きつらせていた。 
 意外にもフィオラへの態度が良かったように思えたが、キンバリーの一件もある。簡単に信用は出来ない。 
 そのまま人混みに消えて行くのかと思われたニコライが、数歩行ったところで何故だか急に踵を返し戻って来た。 

「動くなよ!」 

「分かってるよ!」 

 急いでいるのではなかったのか。わざわざ戻って来てなんなんだ。 
 分かったから、早く行け。とばかりにニコライを上目遣いに睨む。 

「あー、いや……やっぱり、どこか……そう!陰になるところにいてくれないか?」 

「は?なんだそれ??」 

 フィオラが睨んだからなのか、急におろおろし始めたニコライに訝しさが否めない。 
 先を行っていた団員が、ニコライがついて来ていないことに気付き再び声を上げた。 

「おい。呼んでるぞ?早く行けよ」 

 フィオラと目が合った団員が、フィオラに向けて胸元で小さく手を振っている。フィオラも覚えたての作り笑顔で返すと、それが嬉しかったのか今度は小躍りするように笑顔で大きく手を振り始めた。 

「ほ、本当に、愛想のいい奴だなぁ」 

「駄目だ!!」 

「何がっ?!」 

 団員の態度に若干引いていたフィオラの頬をニコライが両手でむぎゅっと包み、強引に自分の方へと向けた。 

「あいつのことは、無視をしろ」 

「いや、無理だろ」 

 鬼の形相でフィオラを睨むニコライに、キンバリーの事が頭を過ぎった。やはり信用するなということなのだろうが、あからさまな無視は流石に出来ない。ニコライの立場が悪くなるだけだろう。 

「人目につかないように、陰に隠れて待っていろ。いいな?」 

 フィオラを睨んだまま、言い含めるようにニコライが言った。 
 ニコライの為にしているのに何でそんな言われ方をされなければならないんだ。と、言い返してやりたかったが、口を開けないほどほっぺたをむぎゅっとされていたフィオラは、こくこくと頷くことしか出来なかった。









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