奴隷落ちを免れた令嬢は生きるために奮闘する。~いつかまた、アネモネの咲く丘で会いましょう〜

珠音

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迷子

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 さて、一人ぽつんと残されたフィオラは手持ち無沙汰であった。取り敢えずニコライに言われた通りに、往来の邪魔にならない物陰へと移動する。 

 やけに視線を集めている気がするな。 

 ニコライ達とのやり取りで目立ってしまったからなのか。少しの移動でも通りすがりに二度見されたりしている。 

 それとも。 やっぱり……浮いてんのかな。 

 どんなに着飾ろうとも、中身は変わらない。醜女と言われて育ったフィオラだ。 
 母親は「世界で一番可愛い」と、言っていたと思うが、それは母親であれば当然と言えば当然の褒め言葉だった。母親の死後、散々悪く言われたフィオラは、母親のそんな言葉を鵜呑みに出来るほど平和な頭はしていない。 
 人目を忍ぶように物陰をとぼとぼと歩いていると、その先に見知った姿を見つけた。 

 レイの奴、こんなところにいたのか。 

 フィオラは、こっそりとその後ろ姿に近付く。 
 ここに来る道中、レイは途中まで一緒にいた。だけれども、あまりにも『そこは「ぎゃっ」ではなく、小さく「きゃっ」です』だの、『そこは「ふぎゃっ」ではなく、小さく「もうっ」とかです』だのと、いちいちダメ出しされ(しかも、しつこい)面倒臭くて無視していたら、いつの間にか馬車の中から消えていたのだ。 

「こんなところで、何してんの?」 

 レイは、近くの建物の中を窺うような素振りで、きょろきょろとしている。その背後から声を掛けた。 
 フィオラの声に振り返ったレイは、一瞬目を丸くさせた。だが直ぐに、思い直した様ににっこりと微笑む。 

『何って、フィオラを探していたのですよ?』 

「こんなところで??」 

 正面玄関から少し奥まっていて、人通りも少ない。普通に探すならロータリーで待っているだろう。 

「私に無視されて、いじけて帰ったのかと思った」 

『ははっ。あなたとニコライ君が、いい雰囲気だったので邪魔しないようにしただけですよ』 

「何だよ、それ?」 

『何だ。ではありません。いいですか。ちゃんと相手を落とすなら、もっと可愛らしく。思わず、守ってあげたくなるような仕草を身に着けて……』 

 ……また始まってしまった。 

「落とすって、何だよ?頸動脈を狙えとか?」 

『ほら、こちらを見て下さい』 

 フィオラの言葉は無視された。うんざりした気持ちでいると、レイが建物に沿って奥へと進んで行く。 

「こちらって……どちらだよ?!」 

 仕方なくレイについて行くと、更に奥まったところに小さな花壇が作られていた。 

『ほら。小さくて可愛い。思わず守ってあげたくなるような……こんな感じですよ』 

 花壇には、小さな鈴のような白い花が咲いていた。レイはその花のことを言っているらしく、優しく撫でるような仕草で花を包んだ。 

「こんな感じって……それ、毒花じゃん?」 

 可愛いく見えるが、猛毒を持つ花だ。 

「確かに、毒がなければ可愛いだろうけど……って、何で城の花壇に毒花が咲いてんだ??」 

『ほほう。毒がなければ、可愛い……なるほど。フィオラのような花でしたか。これは一本とられましたね』 

 ふむふむ。と、レイが頷いている。何が『なるほど』なのか。 

「いや。その前に、こんなところにこの花が咲いてんのは、やべぇんじゃね?」 

『いえいえ。昔は猛毒だったらしいですが、最近はせいぜい腹を下すくらいの毒性しかないそうですよ』 

「は?何でレイがそんな事を知ってんの」 

『つまり、下剤。薬草として栽培しているのでしょうねぇ』 

「いや。だからさ……」 

 フィオラの知識は、全てレイから教わったと言っても過言ではない。では、レイの知識はどうやって更新しているのだろう。 
 レイが、すいーっと、花壇の上を移動した。 

「ああ。盗み聞きしてんのか」 

 姿が見えないのだから、例えば研究者の会話なんかも聞けるわけだ。納得したフィオラは、ぽんと手を叩く。 

『人聞きが悪いですねぇ』 

「おや。盗み聞きとは、物騒ですねぇ」 

 嗄れた声が、レイの声に重なった。
 人気がないことで安心してしまっていた。誰もいないと思って普通に喋ってしまっていたが、誰かいたらしい。 
 フィオラが恐る恐る振り返ると、建物の陰から腰の曲がった老人が出て来た。 

「驚かせてしまいましたか……おや?お嬢さん、お一人でしたか。話し声がしたと思ったのですが」 

「んーと。迷子になって、不安で……独り言してたみたい。へへ」 

 レイにつられて随分と遠くまで来てしまった結果、実際に迷子状態なのは間違いないので嘘は言っていない。 

「そうですか。広いですからねぇ……」 

 老人は目をぱちくりさせたが、微かに首を傾げただけで気にしていないようだ。特にフィオラの独り言を怪しむ感じはない。

「この辺りは王立の研究施設もありますからね……滅多な事を言うと怪しまれますよ?」 

「へー、そうなんだ。ははっ、知らなかった。何の研究をしてるの?」 

 老人は優しい雰囲気だったが、しっかり怪しまれていたようだ。フィオラは笑って誤魔化したが嘘は言っていない。 

「そうですね。ほとんどが、魔力について。ですかねぇ……まあ、こちらの宮は今はほぼ使われていないのでね。もし、お嬢さんに中を見られたとしても問題はないですなぁ」 

 老人はフィオラを本当に迷子だと思っているのか、朗らかに笑っていた。









    
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