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古代語
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「古い建物だね。昔は何の施設だったの?」
なるほど。問題のない施設だから、特に警戒されていないのか。
フィオラは、目の前に立つ建物を見上げた。 確かに古いけれど、造りは豪華に見える。
「歴史書によれば、国王が民と謁見するための宮だったようですねぇ」
「へー」
数百年前までは、謁見の間として玉座が置かれていたのだ。と、老人は言った。
「増築と、古い宮は壊し……で、建国当初からある建物はここだけになりましたな」
老人が感慨深そうに目を細めた。
千年もの昔に建てられた宮か……
フィオラは何気なく建物の入り口まで近付いた。入り口手前の階段に足を掛けようとしたところで、模様の様なものが描かれている事に気付く。 模様はかなり薄くなっていて半分以上欠けているような状態だったが、入り口玄関を護るように描かれていた。
「これって……敵を選別する魔法陣?」
「ほう。よく気付きましたな」
「凄いな……ここの主に対して害意があったら血肉を溶かされちゃうんだ……処刑じゃん」
「……どうして、それを?」
訝しげに眉を顰めた老人に、フィオラは首を傾げた。
「うーん。だって……消えてる部分が多くて正確には分からないけど、ここにそう書いてあるじゃん」
魔法陣は言わば指示書の様なもの。半分以上消えていて大まかにしか分からない。もしかしたら、もっと条件があるのかもしれないが、物騒な内容ならば敵か味方かを判別する為のものだろう。
「古代語が……読めるのかね……?」
老人が信じられないものを見るようにフィオラを見た。 今の魔法陣は現代語で描かれている。だが、レイから魔法陣の事を習った時に、歴史と共に古代語も習っていたのだ。
「当たり前じゃん。でも、みんな……読めるんでしょ?」
昔に描かれた魔法陣であれば、古代語であっても不思議ではない。そんな古いものが普通に残されているなら、当然みんな読めるものではないのか。と、フィオラは首を傾げた。
「いや。今では古代語は、私の様な変わり者の研究者くらいしか興味を持たん。学校では文字すら習わんよ。お嬢さん、どこで習いなさった?」
「え。あ、そうなの……えっと……」
答えるまで逃さないぞ。と、いう雰囲気を醸し出す老人に「半透明の人に教わったよ」などと無邪気に話せる訳もない。
古代語を知ってたくらいで怒られんのか??
これは、逃げた方が良いのか。と、フィオラが、じりっと後退る。 その時、一瞬老人の目が妖しく光った。と、思ったが、ふっと、優しく細められた。
「すまん、すまん。怖がらせてしまったかの?いや、なに。今では研究する者も私ぐらいなものでな。共通の興味を持つ者であれば、仲良くなれるかと思っただけなんだよ」
老人が困ったように頭をかく。
『ふむ。私であれば友人になって差し上げても良いのですがね』
レイが老人の肩を慰めるように叩く仕草をした。当然のことながら、老人にレイの言葉は届いていない。
「お嬢さん。私は王立研究所の所長でグレゴールと申す者だが……お嬢さんの名前を訊いてもよろしいか?」
「フィオラだけど。フィオラ……フィオラ……え、と……ノートス」
人生で数える程度にしか口に出していないせいか、危うく家名を忘れるところだった。たどたどしく答える様は、まるで嘘をついているようだったと、後にレイは言う。
「ノートス……ノートス?!なんと……辺境伯のご令嬢であったか!彼に娘がいる事は聞いていたが、これは失礼をした」
グレゴールは曲がっていた腰が真っ直ぐになるほど驚いていた。そして頭を下げる為に再び腰を曲げた。
「あの……頭を上げてよ。別に、失礼じゃないし」
フィオラは恐縮した。グレゴールの謝罪は辺境伯の娘に対してのもの。フィオラは辺境伯の娘であっても微妙な位置にいる。
きっと、この人の言っている「辺境伯の娘」は、私の事じゃないんだろうなぁ。
フィオラが無能の方の娘だとバレたら、グレゴールの態度も一変するに違いない。
よし!バレる前にずらかるか!
無能が嫌われるのも分かるが、手の平を返されたら多少なりとも傷付く。
フィオラは勢いよく回れ右をした。が、何故かグレゴールに腕を取られ、くるりと再び半回転。グレゴールと顔を合わせる羽目になっていた。
「な、何すん……」
「折角ですから、建物の中も観て行きませんか。中にも古代文字が残されていたりするんですよ」
「私は、別に興味はないんだけど」
そんなフィオラを無視して、グレゴールはあれこれ指さして説明を始めた。知識を披露出来るのが嬉しいのか、グレゴールは楽しそうである。そんなグレゴールの姿に、フィオラも毒気を抜かれていた。
まあ。少しなら、いっか……
ニコライも直ぐに戻る感じではなかったし、グレゴールも王立研究所の所長であれば身元もしっかりしている。何気ないフリをしてレイに目配せすると、レイも微笑んで頷いていた。
何かあっても、相手は老人。問題はないだろう。と、フィオラはグレゴールについて行った。
『……ここ、でしたか』
誰にも聞こえない声が響く。
遠い目をして佇むレイは、宮の中に入って行くフィオラとグレゴールを静かに見送っていた。
なるほど。問題のない施設だから、特に警戒されていないのか。
フィオラは、目の前に立つ建物を見上げた。 確かに古いけれど、造りは豪華に見える。
「歴史書によれば、国王が民と謁見するための宮だったようですねぇ」
「へー」
数百年前までは、謁見の間として玉座が置かれていたのだ。と、老人は言った。
「増築と、古い宮は壊し……で、建国当初からある建物はここだけになりましたな」
老人が感慨深そうに目を細めた。
千年もの昔に建てられた宮か……
フィオラは何気なく建物の入り口まで近付いた。入り口手前の階段に足を掛けようとしたところで、模様の様なものが描かれている事に気付く。 模様はかなり薄くなっていて半分以上欠けているような状態だったが、入り口玄関を護るように描かれていた。
「これって……敵を選別する魔法陣?」
「ほう。よく気付きましたな」
「凄いな……ここの主に対して害意があったら血肉を溶かされちゃうんだ……処刑じゃん」
「……どうして、それを?」
訝しげに眉を顰めた老人に、フィオラは首を傾げた。
「うーん。だって……消えてる部分が多くて正確には分からないけど、ここにそう書いてあるじゃん」
魔法陣は言わば指示書の様なもの。半分以上消えていて大まかにしか分からない。もしかしたら、もっと条件があるのかもしれないが、物騒な内容ならば敵か味方かを判別する為のものだろう。
「古代語が……読めるのかね……?」
老人が信じられないものを見るようにフィオラを見た。 今の魔法陣は現代語で描かれている。だが、レイから魔法陣の事を習った時に、歴史と共に古代語も習っていたのだ。
「当たり前じゃん。でも、みんな……読めるんでしょ?」
昔に描かれた魔法陣であれば、古代語であっても不思議ではない。そんな古いものが普通に残されているなら、当然みんな読めるものではないのか。と、フィオラは首を傾げた。
「いや。今では古代語は、私の様な変わり者の研究者くらいしか興味を持たん。学校では文字すら習わんよ。お嬢さん、どこで習いなさった?」
「え。あ、そうなの……えっと……」
答えるまで逃さないぞ。と、いう雰囲気を醸し出す老人に「半透明の人に教わったよ」などと無邪気に話せる訳もない。
古代語を知ってたくらいで怒られんのか??
これは、逃げた方が良いのか。と、フィオラが、じりっと後退る。 その時、一瞬老人の目が妖しく光った。と、思ったが、ふっと、優しく細められた。
「すまん、すまん。怖がらせてしまったかの?いや、なに。今では研究する者も私ぐらいなものでな。共通の興味を持つ者であれば、仲良くなれるかと思っただけなんだよ」
老人が困ったように頭をかく。
『ふむ。私であれば友人になって差し上げても良いのですがね』
レイが老人の肩を慰めるように叩く仕草をした。当然のことながら、老人にレイの言葉は届いていない。
「お嬢さん。私は王立研究所の所長でグレゴールと申す者だが……お嬢さんの名前を訊いてもよろしいか?」
「フィオラだけど。フィオラ……フィオラ……え、と……ノートス」
人生で数える程度にしか口に出していないせいか、危うく家名を忘れるところだった。たどたどしく答える様は、まるで嘘をついているようだったと、後にレイは言う。
「ノートス……ノートス?!なんと……辺境伯のご令嬢であったか!彼に娘がいる事は聞いていたが、これは失礼をした」
グレゴールは曲がっていた腰が真っ直ぐになるほど驚いていた。そして頭を下げる為に再び腰を曲げた。
「あの……頭を上げてよ。別に、失礼じゃないし」
フィオラは恐縮した。グレゴールの謝罪は辺境伯の娘に対してのもの。フィオラは辺境伯の娘であっても微妙な位置にいる。
きっと、この人の言っている「辺境伯の娘」は、私の事じゃないんだろうなぁ。
フィオラが無能の方の娘だとバレたら、グレゴールの態度も一変するに違いない。
よし!バレる前にずらかるか!
無能が嫌われるのも分かるが、手の平を返されたら多少なりとも傷付く。
フィオラは勢いよく回れ右をした。が、何故かグレゴールに腕を取られ、くるりと再び半回転。グレゴールと顔を合わせる羽目になっていた。
「な、何すん……」
「折角ですから、建物の中も観て行きませんか。中にも古代文字が残されていたりするんですよ」
「私は、別に興味はないんだけど」
そんなフィオラを無視して、グレゴールはあれこれ指さして説明を始めた。知識を披露出来るのが嬉しいのか、グレゴールは楽しそうである。そんなグレゴールの姿に、フィオラも毒気を抜かれていた。
まあ。少しなら、いっか……
ニコライも直ぐに戻る感じではなかったし、グレゴールも王立研究所の所長であれば身元もしっかりしている。何気ないフリをしてレイに目配せすると、レイも微笑んで頷いていた。
何かあっても、相手は老人。問題はないだろう。と、フィオラはグレゴールについて行った。
『……ここ、でしたか』
誰にも聞こえない声が響く。
遠い目をして佇むレイは、宮の中に入って行くフィオラとグレゴールを静かに見送っていた。
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