喜楽

喜楽 １ ゴーレムと魔力

６

　椅子に座っていた九が、嬉しそうに台所に入ってきたフェルに抱き着いてきた。
「座ってご飯にしようか」
　フェルは九の頭を優しく撫でると、九は満面の笑みで大きく頷く。
「うん！」
　フェルから離れると、九はさっき自分が座っていた椅子に座る。 後から入ってきた、風牙と昂も椅子に座った。
　フェルも座ろうと椅子に近付くと、部屋の隅に石像から出てきた卵が置いて有る事に気付く。
「ここに置いたのね」
　フェルは、卵に近付き様子を窺う。
「あぁ、いつ孵るか判るらんからのぉ」
　龍鬼がのんびりした口調で返事を返すと、卵に変わった様子もなくフェルは椅子に座る。
　テーブルの上には、もう食事が並べられていた。 風牙は夕飯を作るだけ作りフェルの手伝いに家を出る時に、アサギに並べておくよう頼んで出てきたようである。
「アサギ今日は助かりました」
　 風牙がアサギに礼を言うと、アサギは照れたように顔を赤くして下を向く。
「九も手伝ったよお」
　九が拗ねたように頬を膨らませ手に持っていたスプーンを振り回す。風牙は九にも礼を言い、フェルがアサギと九を褒めた。
「アサギも九も今日は偉かったね。さっ、ご飯が冷めちゃうよ。食べようか」
　フェルはいただきますと言うと、食事を始める。



　食事が終わり、片付けようとしている時だった。
　フェルの視界の隅にちらりと青い物が見えたかと思うと、青い小さな手が伸びてきてテーブルの 上にあったパンを鷲掴みにする。
　パンを掴んだ手がテーブルから離れて行くのを目で追って行くと、角の生えた大きなトカゲの様な物が、前足で握ったパンにかぶりつこうとしていた。
「ドラゴンの子供じゃ……孵化したんじゃな」
　龍鬼はのんびりした様子で、湯飲みを手に持つと啜り始める。
「 えぇ！　 だってさっきは、 変わった様子なんて無かったわよ！」
　驚いた様子で、フェルは孵化したばかりのドラゴンを見つめる。
　ドラゴンの子供は、さっきかぶりついたパンを口から吐き出していた。顰めっ面をしたまま、まだ手に残っているパンを床に捨てる。
「ほお、孵化して直ぐ人の行動を見て真似したんじゃな。パンは口に合わんかったようじゃな……九より頭が良いかもしれんのお」
　龍鬼は、ドラゴンの子供と九を見比べて笑う。
「九、頭悪くないもん」
　九はむくれた顔をすると、そっぽを向く。
　ドラゴンの子供は九の側まで近付くと、首を傾げ九の顔をじっと見詰め、九もきょとんとした顔でドラゴンの顔を見詰める。