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第三話
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彼女が出ていったあと、店内は急に静かになった。
「あ、ええと……」
店の中には、香由花と店員さんひとりしかいなくなった。
香由花は助けを求める気持ちで店の人に近寄っていった。
彼女は、高校生くらいで、かなり小柄な女の人だった。
のりのように黒い、まるでヘルメットのようなおかっぱ頭。
赤いチェックのシャツに黄色いエプロンを着ていて、温泉の番台さんのようなカウンター席に、ざぶとんを敷いてちょこんと座っている。
「……いらっしゃい。あの、ごめんなさいね、彼女はここのお得意さんで……ほんとはとってもいい子なの。ただ、ハムⅠレースのこととなると、いつもこうで……」
カウンターの上に乗せたゲージの横で、困ったように、でもにこにこと、やさしくそう説明してくれる。
香由花は、その樺さんという子のことも気になったし、すぐそばのゲージの中のハムスターも見たくてしかたがなかったが、さっきも聞いた “レース ”、その “ハムⅠレース ”というものが、どうも気になってしかたがなかった。
「あのっ、それって、ハムⅠレースってなんですか!?」
つい、いきごんで大声が出てしまった。
さっきから気になっていたのだが、樺さんのペースにのまれてしまって聞けなかったことだ。
ハムⅠレース?
もしかして、ハムスターのレース、が、開催されているのだろうか……?
すると店員さんは、
「あなた……今日、夢を見なかった?」
なにかを感じ取ったように、そうつぶやき驚いている
まるで、信じられないといったように。
その様子になんだか香由花もびっくりして首をかしげた。
今日? 夢?
さあ……見たかなぁ?
香由花も困っているのを見て、
「そう、覚えていないのに、ここまでたどり着いたのね……そんなこと、あるのかしら」
と、店員さんは自分自身に問いかけるようになにやらぼそぼそ言っている。
香由花はもうなんでもいいや、と流れに身を任せてしまった。
なんかよくわからないけど、たしかにここはペットショップだし、来てしまって悪いということはないだろう。
店員さんは意を決したように一つうなずくと、
「決めたわ」
「?」
「あなたなら――きっと、だいじょうぶ」
そうして、カウンターに置いたままになっているゲージ――おがくずの入った四角くて浅い皿を銀のアームが柵のようにかこっておりになっていて、その中に巣箱とえさ箱と、それから回し車がある――ゲージの中へ手を入れて、そして中にいた一ぴきのハムスターを取り出した。
「わっ! かわいい!」
思わず、叫んでしまった。
「この子、毛の色が白いし小さいから、スノーホワイトっていう種類のハムスターかな?!」
とたずねると、詳しいわね、そのとおりよ、と店員さんがうなずきながらてのひらにハムスターをのせる。
香由花は、珠輝の描いたハムスターのマンガのおかげで知っていたのだ。
白色の毛をした小さなハムスターが、店員さんのてのひらの中央にちょこんと座っている。
まあるい耳に、黒い大きなつぶらな瞳、長くてぴんとはったひげ、ちいさなお口。
このハムスターの頭に生えている毛は、まるで髪の毛をワックスで逆立たせた男よろしく、なぜだかぽよぽよと上を向いていた。
(はあ~~~、なんてかわいいんだろ……)
香由花は心の底からうっとりした。
こんな子と毎日暮らせたら、どんなに楽しいか!!
珠輝のマンガを思い出す。
そりゃマンガみたいにいっしょにおしゃべりなんかはできないけれど、それでもぜったい楽しい。
うん、マンションでも小動物ならOKなはずだし……。
でも、昔お母さんにねだった時は「どうせ世話できないから、だめ」って言われちゃったんだよなぁ……。
それに私ハムスターを買うお金なんか持ってないよ……。
「この子、あなたもらってあげてくれないかしら?」
香由花は、その手乗りハムスターにほほえんだり、鼻先をくすぐってみたりしていた。
そうして知らぬ間に、がぶっ、と、指をかまれた。
香由花は、痛いはずなのに、指を引っ込めることをすっかり忘れていた。
なぜならもちろん――
「ええええええええええっ!?」
あまりに驚いて、そこまで気が回らなかったのだ。
今、店員さんは今なんと!?
香由花はやっとゆびをひっこめて、店員さんにくりかえすように聞いた。
「あのっ、あのっ!? 今……」
「このハムスターを、あなたに差し上げます」
ハムスターが、にかっと笑っている……ような。
ええええええええええっ!??
頭の中が、パニックだった。
そんな! うそ、わたし、ハムスターもらえるの!?
なんだか、とんでもないことになってしまった。どうやら、本当にハムスターがもらえるらしい。
「でっ、でも、わたし、ええっと……」
頭の中が大パニック。でも、待って、ハムスターがもらえるって言われたって、えっと……
「ええと、えと、そんな突然で、その、まだ、準備が!」
香由花は、ゲージやおがくずやえさなどを買うお金を持ち合わせていなかった。ポケットの中のさいふに、三百円くらいならあるけど……。それに、お母さんがなんて言うか……。
香由花があたふたと言葉を並べていると、
「そう、残念ね」
店員さんはあっさりと引き下がってしまった。
ハムスターを手にとって戻そうとする。
しかたがない、でも……。
香由花は残念な気持ちを、どうしてもおさえることができなかった。
「あっ、あの、ゲージとかって、やっぱり高いんですよね?」
香由花はとりあえずそう聞いてみた。
ハムスターがもらえるなどというチャンスをふいにしてしまうことを、どうにかして阻止できないか。
この次に来る時にはもう、こんなチャンスはないかもしれないのだ。
必死で考える。
ええい、ひとまずお母さんのことは置いておこう! うん!
いざとなったらかくして飼ってしまおう。
なんとかなるなる!
そうなると一番の問題は、ゲージやえさ代だ。
やっぱり、そこまではタダにしてもらえないらしく、
「……そうねえ、でも、あなたは今お金を持っていないのでしょう?」
と、店員さんもハムスターを乗せていない片手を小さなあごに当てて、うーんと考えた。
香由花も必死だった。
ゲージっていくら?
ちらっと店の中央に積まれているゲージを見ると、三千円、安くて千五百円となっていた。
む、ムリ……。
ドーナツだって、新作の種類の中から一個だけを厳選するつもりだったんだから……。
店員さんもいっしょにしばらく考えてくれた。
沈黙の時間が続く。
うーん、うーん……
……しかし、考えたところでやはり問題はお金がないことなのだ。
「ハムスターもらえるからゲージだけはお願い買って!!」とお母さんに頼みこもうにも電話がないし、誕生日でもないのにゲージなどの一式を買ってくれるとも思えない上、世話できないでしょの一言で門前払いの可能性大だ。
店員さんもどこかふっ切ったようなため息をひとつつくと、「しかたがないね」と顔を上げた。
(うう……でも、そう、しょうがないよね)
おがくずなしで家にある虫かごなんかで飼うわけにもいかない。
そう思って香由花は最後の別れを告げるため、ハムスターのほうを見た。
真っ白でふわふわ、黒い瞳がくりくりのハムちゃん。
電話が借りられるのなら借りて、お母さんに聞いてみようか――
すると、
「私は、あなたに賭けることにするわ」
店員さんが、覚悟を決めた表情でこちらを見据えていた。
「あなたがこの子とこれからハムⅠレースに出るというなら――」
「!?」
かたわらのゲージ。
香由花にくれるといったハムスターが入っているゲージ。
店員さんはそのゲージに手をかけ、香由花の目の前に、ずいっと突き出した。
「ハムスターとともに、このゲージ一式をプレゼントする」
「!」
店員さんはたたみかけるように続ける。
「大きいレースが、ちょうど今晩、開催されるわ! ――あなたがこのレースに出場することは、今はまだ無理だけど、観戦することはとても勉強になる。まずは、それを観戦してちょうだい! そしたらハムスターもゲージもセットにしてプレゼントしちゃうわ! どう?」
(えっ、私が、これからハムⅠレースに出るなら――?)
香由花は一瞬、なにを言われたのかわからなかった。
(ハムスターとゲージ一式も、もらえる――の?)
「で、でも、そんな……!! いいん、ですか……!?」
いざこんなこと言われると、さっきまでしたたかにはたらいていた頭はぴたりと止まり、不安と少しの申し訳なさが身をおそう。
しかし、店員さんは首をふって言う。
「まず、この子は、前の飼い主が手放した子だから」
まさかのすてハム!?
店員さんは、それでもよかったら、と確認をとる。
香由花は全然かまわなかった。
「さっきも言ったけれど、この子はただここで飼われるだけじゃもったいないし――それに」
店員さんの、どこか夢見るようなきらきらした瞳。
「あなたも――」
「? わ、たし?」
店員さんはうなずくと、
「ふふ、なんでもないわ」
ゆっくりほほえんだ。
小柄で、下手したら香由花よりも身長が低いほどかもしれないが、こういうところで働いているとしたらきっと高校生ぐらいだろう。
でもその笑みは、どこまでも澄んでいて、なんだか無邪気なものだった。
しかし、香由花の不安は増すばかりである。
「でも、ハムⅠレースのこと、私はなんにも知らないんです」
「さっきのは実はつぶやいてみただけで、その……ルールとか、どんな競技なのかも……ホントはわかんないし……。それなのに、わっ、私に賭けるって言われてもそんな期待にこたえられるかなんて全然まったくわかんなくて……あー、でも……ハムスターもらえるのはとってもすっごく、うれしいんだけど……」
香由花が必死で頭を働かせて言葉を並べるのを、
「そうね、説明しなくちゃね」
と、店員さんはいとも簡単に受け流してしまう。
なんだか今度はこの店員さんのペースだ。
「レースの内容は、塔を登るのよ。ハムスターといっしょに」
「あ、ええと……」
店の中には、香由花と店員さんひとりしかいなくなった。
香由花は助けを求める気持ちで店の人に近寄っていった。
彼女は、高校生くらいで、かなり小柄な女の人だった。
のりのように黒い、まるでヘルメットのようなおかっぱ頭。
赤いチェックのシャツに黄色いエプロンを着ていて、温泉の番台さんのようなカウンター席に、ざぶとんを敷いてちょこんと座っている。
「……いらっしゃい。あの、ごめんなさいね、彼女はここのお得意さんで……ほんとはとってもいい子なの。ただ、ハムⅠレースのこととなると、いつもこうで……」
カウンターの上に乗せたゲージの横で、困ったように、でもにこにこと、やさしくそう説明してくれる。
香由花は、その樺さんという子のことも気になったし、すぐそばのゲージの中のハムスターも見たくてしかたがなかったが、さっきも聞いた “レース ”、その “ハムⅠレース ”というものが、どうも気になってしかたがなかった。
「あのっ、それって、ハムⅠレースってなんですか!?」
つい、いきごんで大声が出てしまった。
さっきから気になっていたのだが、樺さんのペースにのまれてしまって聞けなかったことだ。
ハムⅠレース?
もしかして、ハムスターのレース、が、開催されているのだろうか……?
すると店員さんは、
「あなた……今日、夢を見なかった?」
なにかを感じ取ったように、そうつぶやき驚いている
まるで、信じられないといったように。
その様子になんだか香由花もびっくりして首をかしげた。
今日? 夢?
さあ……見たかなぁ?
香由花も困っているのを見て、
「そう、覚えていないのに、ここまでたどり着いたのね……そんなこと、あるのかしら」
と、店員さんは自分自身に問いかけるようになにやらぼそぼそ言っている。
香由花はもうなんでもいいや、と流れに身を任せてしまった。
なんかよくわからないけど、たしかにここはペットショップだし、来てしまって悪いということはないだろう。
店員さんは意を決したように一つうなずくと、
「決めたわ」
「?」
「あなたなら――きっと、だいじょうぶ」
そうして、カウンターに置いたままになっているゲージ――おがくずの入った四角くて浅い皿を銀のアームが柵のようにかこっておりになっていて、その中に巣箱とえさ箱と、それから回し車がある――ゲージの中へ手を入れて、そして中にいた一ぴきのハムスターを取り出した。
「わっ! かわいい!」
思わず、叫んでしまった。
「この子、毛の色が白いし小さいから、スノーホワイトっていう種類のハムスターかな?!」
とたずねると、詳しいわね、そのとおりよ、と店員さんがうなずきながらてのひらにハムスターをのせる。
香由花は、珠輝の描いたハムスターのマンガのおかげで知っていたのだ。
白色の毛をした小さなハムスターが、店員さんのてのひらの中央にちょこんと座っている。
まあるい耳に、黒い大きなつぶらな瞳、長くてぴんとはったひげ、ちいさなお口。
このハムスターの頭に生えている毛は、まるで髪の毛をワックスで逆立たせた男よろしく、なぜだかぽよぽよと上を向いていた。
(はあ~~~、なんてかわいいんだろ……)
香由花は心の底からうっとりした。
こんな子と毎日暮らせたら、どんなに楽しいか!!
珠輝のマンガを思い出す。
そりゃマンガみたいにいっしょにおしゃべりなんかはできないけれど、それでもぜったい楽しい。
うん、マンションでも小動物ならOKなはずだし……。
でも、昔お母さんにねだった時は「どうせ世話できないから、だめ」って言われちゃったんだよなぁ……。
それに私ハムスターを買うお金なんか持ってないよ……。
「この子、あなたもらってあげてくれないかしら?」
香由花は、その手乗りハムスターにほほえんだり、鼻先をくすぐってみたりしていた。
そうして知らぬ間に、がぶっ、と、指をかまれた。
香由花は、痛いはずなのに、指を引っ込めることをすっかり忘れていた。
なぜならもちろん――
「ええええええええええっ!?」
あまりに驚いて、そこまで気が回らなかったのだ。
今、店員さんは今なんと!?
香由花はやっとゆびをひっこめて、店員さんにくりかえすように聞いた。
「あのっ、あのっ!? 今……」
「このハムスターを、あなたに差し上げます」
ハムスターが、にかっと笑っている……ような。
ええええええええええっ!??
頭の中が、パニックだった。
そんな! うそ、わたし、ハムスターもらえるの!?
なんだか、とんでもないことになってしまった。どうやら、本当にハムスターがもらえるらしい。
「でっ、でも、わたし、ええっと……」
頭の中が大パニック。でも、待って、ハムスターがもらえるって言われたって、えっと……
「ええと、えと、そんな突然で、その、まだ、準備が!」
香由花は、ゲージやおがくずやえさなどを買うお金を持ち合わせていなかった。ポケットの中のさいふに、三百円くらいならあるけど……。それに、お母さんがなんて言うか……。
香由花があたふたと言葉を並べていると、
「そう、残念ね」
店員さんはあっさりと引き下がってしまった。
ハムスターを手にとって戻そうとする。
しかたがない、でも……。
香由花は残念な気持ちを、どうしてもおさえることができなかった。
「あっ、あの、ゲージとかって、やっぱり高いんですよね?」
香由花はとりあえずそう聞いてみた。
ハムスターがもらえるなどというチャンスをふいにしてしまうことを、どうにかして阻止できないか。
この次に来る時にはもう、こんなチャンスはないかもしれないのだ。
必死で考える。
ええい、ひとまずお母さんのことは置いておこう! うん!
いざとなったらかくして飼ってしまおう。
なんとかなるなる!
そうなると一番の問題は、ゲージやえさ代だ。
やっぱり、そこまではタダにしてもらえないらしく、
「……そうねえ、でも、あなたは今お金を持っていないのでしょう?」
と、店員さんもハムスターを乗せていない片手を小さなあごに当てて、うーんと考えた。
香由花も必死だった。
ゲージっていくら?
ちらっと店の中央に積まれているゲージを見ると、三千円、安くて千五百円となっていた。
む、ムリ……。
ドーナツだって、新作の種類の中から一個だけを厳選するつもりだったんだから……。
店員さんもいっしょにしばらく考えてくれた。
沈黙の時間が続く。
うーん、うーん……
……しかし、考えたところでやはり問題はお金がないことなのだ。
「ハムスターもらえるからゲージだけはお願い買って!!」とお母さんに頼みこもうにも電話がないし、誕生日でもないのにゲージなどの一式を買ってくれるとも思えない上、世話できないでしょの一言で門前払いの可能性大だ。
店員さんもどこかふっ切ったようなため息をひとつつくと、「しかたがないね」と顔を上げた。
(うう……でも、そう、しょうがないよね)
おがくずなしで家にある虫かごなんかで飼うわけにもいかない。
そう思って香由花は最後の別れを告げるため、ハムスターのほうを見た。
真っ白でふわふわ、黒い瞳がくりくりのハムちゃん。
電話が借りられるのなら借りて、お母さんに聞いてみようか――
すると、
「私は、あなたに賭けることにするわ」
店員さんが、覚悟を決めた表情でこちらを見据えていた。
「あなたがこの子とこれからハムⅠレースに出るというなら――」
「!?」
かたわらのゲージ。
香由花にくれるといったハムスターが入っているゲージ。
店員さんはそのゲージに手をかけ、香由花の目の前に、ずいっと突き出した。
「ハムスターとともに、このゲージ一式をプレゼントする」
「!」
店員さんはたたみかけるように続ける。
「大きいレースが、ちょうど今晩、開催されるわ! ――あなたがこのレースに出場することは、今はまだ無理だけど、観戦することはとても勉強になる。まずは、それを観戦してちょうだい! そしたらハムスターもゲージもセットにしてプレゼントしちゃうわ! どう?」
(えっ、私が、これからハムⅠレースに出るなら――?)
香由花は一瞬、なにを言われたのかわからなかった。
(ハムスターとゲージ一式も、もらえる――の?)
「で、でも、そんな……!! いいん、ですか……!?」
いざこんなこと言われると、さっきまでしたたかにはたらいていた頭はぴたりと止まり、不安と少しの申し訳なさが身をおそう。
しかし、店員さんは首をふって言う。
「まず、この子は、前の飼い主が手放した子だから」
まさかのすてハム!?
店員さんは、それでもよかったら、と確認をとる。
香由花は全然かまわなかった。
「さっきも言ったけれど、この子はただここで飼われるだけじゃもったいないし――それに」
店員さんの、どこか夢見るようなきらきらした瞳。
「あなたも――」
「? わ、たし?」
店員さんはうなずくと、
「ふふ、なんでもないわ」
ゆっくりほほえんだ。
小柄で、下手したら香由花よりも身長が低いほどかもしれないが、こういうところで働いているとしたらきっと高校生ぐらいだろう。
でもその笑みは、どこまでも澄んでいて、なんだか無邪気なものだった。
しかし、香由花の不安は増すばかりである。
「でも、ハムⅠレースのこと、私はなんにも知らないんです」
「さっきのは実はつぶやいてみただけで、その……ルールとか、どんな競技なのかも……ホントはわかんないし……。それなのに、わっ、私に賭けるって言われてもそんな期待にこたえられるかなんて全然まったくわかんなくて……あー、でも……ハムスターもらえるのはとってもすっごく、うれしいんだけど……」
香由花が必死で頭を働かせて言葉を並べるのを、
「そうね、説明しなくちゃね」
と、店員さんはいとも簡単に受け流してしまう。
なんだか今度はこの店員さんのペースだ。
「レースの内容は、塔を登るのよ。ハムスターといっしょに」
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