まさかのヒロイン!? 本当に私でいいんですか?

つつ

文字の大きさ
82 / 188
Ⅵ 決断は遅きに失し

80. ヒロインの役目

しおりを挟む
 

 二日後。王宮は蜂の巣をつついたかのような騒ぎになっていた。
 といっても、それは選抜試験絡みの騒ぎではないし、実際に私が見たわけでもないけれど。

 今日、王宮で行われる予定になっていた選抜試験は急きょ中止になった。というのも、国内各地でガンブラント移民による大暴動が起こったためだ。

 ガンブラント移民というのは、友好の証として技術協力が決まったガンブラント国から、国主導で集められてやってきた移民たちのこと。
 主に二種類のタイプがあって、一つは、ガンブラント特有の技術を持って商売のために移り住んだタイプ。その多くは家族連れだった。
 もう一つは、リングドル王国の技術を自国に持ち帰るために、五年から十五年を目安に修行にやってきたタイプ。こちらは若い働き盛りの青少年たちが多い。

 この移民政策は、両国の国力を高めると同時に結束を強めることを目的としていて、移民たちは二国間の架け橋のような存在になる――はずだった。

 だが、実際には、この計画はうまくいっていなかった――らしい。
 暴動の先頭にたった移民たちは、「我々は奴隷ではない。搾取するだけのリングドル人に天罰を」と声高に叫んでいた。

 確かに移民たちがその見た目の違いから差別されたり、見習いであることを理由に安く働かされたり、必要以上の雑務を押しつけられたり、といった問題は議題として上がっていたという。けれど、その都度対処し、大きな問題にはなっていないと認識されていた。

 だが実態は違った。移民たちは報告されていた以上に酷使され、搾取され、そして、耐え切れなくなった彼らはこうして一斉に蜂起した。


 問題は、暴動による直接的な被害だけにとどまらない。
 今回暴動を起こした移民たちの母国、ガンブラント王国はリングドル王国の友好国だった。それも、共通の敵国を持ち、協力している関係だ。
 もし今回のことで友好関係が崩れなどしたら、今は二国でやっと抑えている敵国タバダン王国への抑えが利かなくなり、遠からず戦争になってしまうだろう。


 という話を、お兄様から聞いた。そしてあっという間に二日が過ぎ――。

 お父様は騒ぎの起きた朝に王宮に向かったきり一度も帰ってきていなかった。お兄様は王城と屋敷とを行き来し、暴動の鎮圧や、女主人として家を任されている母のサポートにと忙しくしている。
 王宮の兵士や騎士たちも街に出て、騒ぎが起こる端から鎮圧しているらしいのだが、不自然なほどに暴動は治まらなかった。

 そんな中、私はというと――不謹慎にもほっとしていた。
 何にって、もちろん選抜試験が中止となったことに、だ。暴動が起こったことに対する心痛や不安、恐怖よりも、選抜試験によってもたらされるプレッシャーのほうが、私にとっては重かったみたいだった。
 ついでに学院も臨時休校となったため、今は屋敷で何をするでもなくのんびりと過ごしている。

 とはいえ、今日で三日目。思いのほか本格的な暴動だとわかった以上、このまま一人、のんびりとしているわけにもいかないだろう。
 なにせ、ここはあの乙女ゲームの世界なのだ。おそらくこの移民の大暴動が、キャッチコピーにあった「リングドル王国の危機」なのだろう。そのくらいは、やったことなくても想像がつく。

 ということは、だ。下手をすれば国が滅ぶし、逆に言えば、ヒロインである私が何かをすれば救えるということでもある。

 私に国を救えるのかと聞かれれば、正直なところ自信はない。
 でも実際には私だけじゃなく、みんなが必死に動くのだ。最悪の事態にはならない――と信じたい。

 それにもう、暴動は起きてしまった。できるできない関係なく、もう動くしかないのだ。
 きっとみんなで力を合わせれば、何とかなるはずだ。少なくとも、国の滅亡は回避できる――はずだ。私はヒロインなのだから。

「とりあえず、お母様――は忙しいわよね。ひとまずメイド長のところかしらね」

 私は意思を固めると、自らメイド長の元へ向かうべく部屋を出た。


しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さくら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

処理中です...