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Ⅵ 決断は遅きに失し
70. ずっと探していたお姿
しおりを挟む王家主催の夜会まであと十日。けれど、それまでも学院は通常通りある。
ということで、ドレスの試着をした翌日、私は重い足取りで登校していた。
馬車を下りた瞬間から、生徒たちの視線が突き刺さる。元々身分的に注目が集まりやすい立場にいたのだが、度重なる失態で、おそらく学院内では知らない人がいないのではないかというほどの有名人になってしまった。
クスクスという笑い声や、ひそひそとささやかれる陰口。さらにはわざとらしぶつかってくる人も少なからずいて、私の日常はなかなか刺激的だった。
車寄せから外通路を通って校舎内に入るための玄関口を潜り抜ける。そこから左右に男子棟と女子棟と別れるのだが――玄関口を潜った瞬間、私は目を見張った。
「ベイル様!?」
目の端に映ったのはダークブラウンの髪。後ろ姿だろうが、見間違えるはずのないお姿だった。
「ま、待って――」
私の声が聞こえなかったのか、ベイル様はすたすたと進んでいく。私は慌てて追いかけるが、すぐにベイル様は男性棟へと入ってしまった。そこに私は入れない。
大声で叫べば気づくだろうか。けれど、それは令嬢としてははしたないことだ。叫んでいいものか、迷いが生じた。
けれど、その躊躇った一瞬で片がついた。ベイル様のお姿は完全に見えなくなり、私は大きく落胆する。
「ベイル様……」
新学期になってから初めて目にしたベイル様のお姿だった。お顔を拝見できたわけではないので、確かなことは言えないけれど、しっかりとした足取りから、体調を崩していた訳ではないだろうと予想する。
元気そうでよかった。そう思う反面、ならどうして来てくれないの、と不満が湧き上がる。
「きっと、お仕事がまだ忙しかったのよ……ね?」
私はもう一度だけ、現実から目を背けた。
明日からは、またベイル様と一緒に過ごせるだろうと、そんな期待を空に描き、この日の授業を耐え忍んだ。
けれど、翌日の朝も、翌々日の朝も、教室の前にベイル様の姿はなかった。
そしてその次の朝、そこにベイル様の姿がないことを確認した私は、とうとうその場から飛び出した。
女子棟と男子棟を繋ぐホール。先日ベイル様を目撃した場所。そこでベイル様の姿を探してまわる。自分をあざ笑う声も、好奇にあふれる視線も今だけはまったく気にならなかった。ただし、そこでベイル様を見つけることは叶わなかったけれど。
以来、休み時間のたびにそこに足を伸ばすようになった。一瞬でもいいから、またそのお姿を目にしたかった。そしてできることなら、以前のように会話を――とその時、ふと通りかかった青年に目が留まる。見覚えのある青年だった。私は反射的に呼び止める。
「あ、あの! あなた! 待って!」
どこで見た青年だっただろうか。わからないけれど、きっとこの青年であれば知っている。
いや、知らなくても頼めばいいのだ。彼は男子生徒なのだから。私と違って、ベイル様の教室のある、この先の廊下へと進むことができるのだから。
「あ、ミュ……ベルネーゼ侯爵令嬢」
振り返った青年は、私の顔を見ると驚いたように目を見開いた。私は構わず用件を告げる。
「突然ごめんなさい。あの……今日、ベイル様はいらっしゃってますか……?」
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