75 / 188
Ⅵ 決断は遅きに失し
73. それでも私は怖い
しおりを挟む次が剣術の授業だというセーファス様と早めに別れた私は、普段よりだいぶ早く教室に戻っていた。そこでは食事を終えたクラスメイトたちが会話に花を咲かせている。
周囲とのギャップに居たたまれなさなどを感じることはもうなくなっていたけれど、手持無沙汰ではあった。何をするでもなくぼーっと机の木目をなぞっていると、ふいに声をかけられた。
「こちらにいらっしゃいませんか、ミュリエル様」
声のしたほうへと顔を向ければ、そこには席を立ってこちらを見るメリッサさんがいた。私が学院に復帰した当初、レイラ様と一緒によくしてくれた友人――だった少女だ。
さっと目を走らせるが、教室内にレイラ様の姿はない。完全にメリッサさんの意思で声をかけたのだとわかる。
ただ、メリッサさんの机の周りには、子爵家の令嬢が二人、不安げな面持ちで座っていた。メリッサさんだけならともかく、そこに混ざるのはさすがに迷惑だろう。
そんな私たちはクラス中の視線を集めていた。私とメリッサさんの席はちょっとだけ離れている。立ち上がったメリッサさんの動作も、声の音量も、注目を集めるには十分だった。
「よろしければ、また一緒にお話をしたりしましょう?」
「い、いえ。私は大丈夫――」
「っ……ご、ごめんなさい。私ったら余計なことを。真っ先に距離をとったのは私のほうですものね。お嫌なのも当然ですね……」
メリッサさんが悲しげに目を伏せた瞬間、一斉に非難された。「セーファス様が戻ってらしたからって、いい気になって」、「お優しいドビオン伯爵令嬢の厚意を無下にするなんて」、「何様のつもりかしら」、などと言いたい放題だ。
そしてそれらの言葉からもわかるように、私に拒否権はないらしかった。答えを言い切るのを待たずして、すでに私は悪者扱いだ。
けれど、周りも周りだと思う。メリッサさんの提案は、メリッサさんたちには何の得にもならない。状況を見てから非難しろと言いたい気分だった。
とはいえ、メリッサさんはおとなしく控えめな方なので、この状況を意図していたわけではないだろう。結果的に、周囲の同情を煽ることになった振る舞いはもんだいだけれど。できるならばもう少し、周囲の反応に敏感であってほしかった。
私は小さくため息をついて、それから口を開く。
「あの、やっぱりご一緒していいかしら」
「ええ! よろしいのですか? 嬉しいです」
メリッサさんはぱっと顔を輝かせた。その邪気のない反応に、私はもう一度ため息をついた。
けれど、まったく嬉しくないかといわれるとそうではない。なにせ一人ぼっちではなくなるのだから。
ただ、またすぐに離れて行ってしまうのではないかという恐怖は強く、素直に喜ぶことはできなかった。
0
あなたにおすすめの小説
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~
空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」
氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。
「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」
ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。
成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる