まさかのヒロイン!? 本当に私でいいんですか?

つつ

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Ⅶ 待ち受けていたのは

100. 思い出したこと

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 じくじくとした首の痛みで目を覚ます。
 ここがどこかといえば、城の牢屋の中だ。だが、前に入れられた下級貴族用っぽい牢屋ではなく、いかにも牢屋といった感じの無骨な地下牢に入れられていた。
 具体的には、壁は冷たいむき出しの石壁で、薄手のブランケットが二枚支給されている他は何もない。かび臭さはないが、どことなくすえた臭いはしていた。

 秘儀が執り行われた日から五日。

 体と魂が馴染んだことで、色々と思い出してきた。体が持っていた記憶を得た、とでも言おうか。

 名前はマリ。暮らしていたのはディダというリングドル王国西部の町。王都と有名な景勝地である湖畔の町とをつなぐ街道沿いにある町で、私はその最下層の民だった。
 窃盗や強盗などの犯罪行為は日常。それによって得た食べ物やお金で生活をしていた。
 生きるためだったた。でも、前世の水井茉莉の記憶が強いせいか、今はかなりの嫌悪感がある。
 はぁー、と深くため息をついた。今回のことがなくとも、自分が犯罪者であることには変わりなかったのだ。

 ともあれ、そんな底辺を生きていた私が、どうしてミュリエル様と出会い、体が入れ替わることになったのか。
 記憶を探ってもアレがミュリエル様だという確信はないし、アレがきっかけだったと断定はできないが、心当たりが一つある。

「それで?」

 そう言ったのはクリフォード様。誰も来ないこの牢にただ一人姿を見せられた方。
 私は今クリフォード様に、この体に戻ったことで思い出した記憶について話していた。

「ぶつかったの。たぶんそれで入れ替わった……と思う」
「神殿の秘技を使ったんじゃなく?」
「秘技なんでしょ? どうして私が知ってると思えるの? そんなの知らないって」

 どうやってミュリエル様の体を奪ったのか、奪う方法を知ったのか。
 それはやっぱり重要な問題のようで、クリフォード様は話に食いついた。前は、私を有罪にして、一刻も早くミュリエル様の体を取り返す、といった目的があったために追究されなかったけれど、気になってはいたのだろう。

「いつ? どこで?」
「ミュリエル様が家を出て間もない頃、かな? ディダって町」

 ミュリエル様――と思しき人物とぶつかった記憶はある。それ以外の行動はしなかった。だから入れ替わったとしたら、そのタイミングしかないはずで。

「ミュリエル嬢がディダに? いや。まあ確かに、ディダでミュリエル嬢らしき人物の目撃情報もあったけどな……」

 ならきっとそうだ。ディダで、ぶつかったタイミングで、私たちは入れ替わってしまったに違いない。

 あの日。
 私は景勝地に向かおうとしているお貴族様が町に滞在しているという情報を得て、町中に出てきていた。
 目的はお貴族様のお財布。そしてそれを管理しているだろう侍女だ。
 お貴族様という生き物は、まず自分で財布を持つことはない。だから私はあえてその侍女に狙いを定め、ぶつかりにいったのだ。

 ドン、という強い衝撃。
 気づけば私は体から飛び出していた。

 今回、神殿で受けたのと同じような強烈な衝撃だった。ただぶつかっただけならば、こんな強い衝撃は受けないだろう。そこからして異常なのだけれど、もちろん当時の自分はそこまで理解できていなかった。体から飛び出したとわかったのも、一瞬だけど、視覚が自分の姿を捉えていたからだ。
 けど、覚えているのはそこまでだった。そのあと何が起こったのかはわからない。
 ただ、その後の結果を思えば、私はその侍女の体に入ってしまったのだろうことは想像に難くない。

 なにせ、ちらりと見えた侍女の顔というのが、まさにミュリエル様のそれだったのだから。

 当時、ミュリエル様は家出をされていた。侍女のふりをして追跡をかわそうとしていたとしてもなんらおかしくない。――いや、貴族令嬢としてはかなりおかしいけれど。

「侍女……がミュリエル嬢ね……」
「嘘じゃないよ」
「いや、そこは疑ってね――あ、違っ、今のなし。とにかく、否定するつもりで言ったわけじゃねえから。続けてくれ」
「続けるも何も……あとは気づいたら、やたらとのどかな村にいたとしか」

 入れ替わったと思しきそのタイミングから、水井茉莉の記憶だけを持った私が意識を取り戻すまでの間の記憶は、結局戻らなかった。もしかしたらその辺りはミュリエル様の体の記憶として、ミュリエル様の魂が馴染めば思い出してくれるかもしれないが――。

「間の記憶は、入れ替わりの影響で飛んじゃったのかも、ね」
「そうか。だが、ただぶつかっただけで入れ替わったってのは、な。何か他に気づいたことは?」

 と言われても、私とミュリエル様の関係は当時はスリとカモの関係でしかなかったのだから難しい。
 あとは、やたらといい天気の日で、路地裏が不気味なくらい暗く見えたことくらいしかな――。

「あ」

 ちらりと瞼の裏に過ぎった光景。私は思わず声をもらす。

「なんだ」

 その真っ暗な路地裏。行動を起こす直前、その闇の中に見えたそれと私は目が合っていた。
 暗がりに潜む女性。それは自分と同年代の。

 ――え?

 強い眼光ばかりが記憶に残っていたその人物の顔がぼんやりと思い浮かぶ。それは私が、ミュリエル様が知っている顔だった。

 ――まさか、ね。

 きっと、はっきりと顔が思い出せないもどかしさから、知人の顔を勝手に重ねてしまっただけだろう。王都ではないディダに、ましてやあんな暗がりに貴族令嬢たる彼女の姿があるはずなどない。

「おい」
「あ、ごめんなさい。その……」

 気のせいだ。けれど、そう割り切ることもできず、口ごもる。

「いいから言え」
「じゃあ……も、もしかしたらだけどね、あの場に――」

 思い切って言おうと、私は身を乗り出した。

 
 
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