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Ⅶ 待ち受けていたのは
102. 涙のわけ
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甲高い金属音がした。
ジャラジャラ カツン
「ああ、もうっ」
ジャラ…… カシャン
苛立った声と、苦戦しながら鍵を開ける音がして。
カツ カツ カツ
床に視線を落としたままの私の視界の隅で、質のいいドレスの裾が揺れた。
――が、それきりだった。
その女性は用があって来ただろうに声をかけてくることはなく。
立ち去る素振りも見せないその振る舞いが、かえって私の気を引いた。
強張っている肩や首の筋肉に鞭を打ち、ゆっくりと顔を上げる。
彼女の顔は、逆光で見えなかった。
「……が」
女性の口から、かすれ声が漏れる。ようやくといっていいほどの時間がたってから発せられたその声は、完全な言葉にはならなかった。
そして。
「あなたが…そう……」
再びの声。
意味は、わからなかった。
ただその声は、どこかで聞いたことのあるもので――いや、むしろよく知っている声だった。
「遅くなってごめんなさい、マリ。ちょっと頑固者の口を割らすのに手間取ってしま……と、失礼しました。失言でしたわ。どうぞお忘れになって?」
私は口を戦慄かす。あまりの衝撃で声が出なかった。
「あら、今のは笑うところでしてよ。――ってちょっと。いつまで私を一人でしゃべらせておくつもりですの?」
女性的で、貴族的で、そして意思の強さをはっきりと感じられる声。
「レイ、ラ様……」
私がそう口にしたタイミングで、蝋燭が彼女の横顔を照らす。
見えたのは、私の友人で、私を切り捨て、私に騙されていた人の顔。
変わらぬ美貌がそこにあった。
「ええ、そうよ。さあ、来なさい」
手が差し伸べられる。けれど、私はその意を掴みかねた。
レイラ様が少しだけ苛立ったように口調を荒げる。
「助かりたいなら来なさいと言ってるの! 本当にあなたったら愚鈍なんだから」
――助かりたいなら。
思いもよらない言葉だった。
私は見開いたその目から涙をボロボロとこぼす。
「だいたい、あなたのせいで――。あのミュリエル様が戻らなければ、殿下の婚約者はほぼ私で確定していたのよ。その仕返しをしないうちに死なせるわけにはいかな――ええ!? な、なに? どうして泣いてるの、よ」
私にはもう、味方なんていないと思っていた。それなのに。
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――嬉しい。
そう、もうずっと忘れていた、暖かな感情だ。
もし自分で死ぬタイミングを決められるのなら――今、この瞬間がいい。今ならきっと私は人を恨まずにいける――。
「ちょっと、やだ、私にどうしろとおっしゃるの。な、泣き止みなさいよ」
慌てたレイラ様が、私に視線を合わせるようにしゃがみこんだ。
質のいいドレスが汚い床を擦るようにして広がる。それを申し訳なく思うけれどやっぱり涙は止まらなくて。
私はしばらくの間、泣き続けた。
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