まさかのヒロイン!? 本当に私でいいんですか?

つつ

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Ⅶ 待ち受けていたのは

103. レイラ様のご命令

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「まったく。時間を余計に使ってしまったじゃないの」

 言葉の内容に反し、口調はひどく優しい。また涙がこぼれそうになった。

 レイラ様はそんな私の肩を、不器用に抱き寄せた。慣れていないのが丸わかりの、触れるか触れないかという力加減がくすぐったい。

「ねえ、マリ。どうしてあなたがまだ牢に入れられているのかご存知?」
「それは、刑が決まっていないから?」
「まさか。そんなの死刑以外にあるわけないじゃない。滅魂と言われてたのだから」

 私は息をのんだ。
 当たり前のように答えるレイラ様。やはりレイラ様も私の死を望んでいるのか。

「あ、ち、違うわよ。世間一般的にはそうって話で。私の考えではないわ。勘違いしないでちょうだい。――じゃなくて、私が言いたかったのは、あなたが神殿に狙われてるってことよ。このままでは死ぬより辛い目にあわされることになると思うわ」

 レイラ様の本心はわからないけれど、今は都合のいいように受け取っておく。
 それよりも、続けられた言葉が物騒で、私は看過できなかった。

「どういうこと?」
「あなた、メリッサさんに予知ができるって話さなかったかしら」

 思いもよらない言葉だった。
 もし予知ができたなら、私は今こんなところにいなかった――とまで考えて気づく。

「ちがっ、それは……!」

 予知とは言っていない。ただ、同じ夢を繰り返し見ると相談しただけだ。それも留学先の知人の話として。
 そのとき確かにメリッサさんはそれを予知だと捉えていた。そして今の話からすると、それが私自身の話だということも気づいていたのだろう。

「そう。心当たりがあるのね」
「メリッサさんの勘違いです。でも……それが……?」
「数年前まで神殿いた、予知できる巫女が高齢で亡くなってしまったのよ。それで寄付金が減ってしまったみたいで」
「その巫女のかわりに私をってこと?」
「そう。今ならあなたを別人として受け入れて、隷属させられると考えたのでしょう。死人ならどう扱おうと構わないという考え方ね。表向きは死刑。裏では神殿の奴隷。そんな計画が進んでるのよ」

 それはつまり、人権を無視しても許される、都合のいい人物とみなされているということか。
 もとより、ここに人権という言葉はないが、倫理観の一つとして、ある程度は認識されている。それが完全になくなるということだ。

「そんな。でも、だって……そう、そもそもどうして、神殿が私の話を知ってるの? そんなのおかしい」
「だから聞いたのよ。メリッサさんに話さなかったかって。彼女の叔父様は神殿の人なのよ。だからきっと、メリッサさんから神殿に伝わったのでしょう」
「え? あ……」

 思い出した。メリッサさんは神殿と縁の深い家柄で――そう、あのとき、夢の話をしたとき、メリッサさんはその話を叔父様に報告すると言っていた。

 ――でも。

 それならそれで、きっとメリッサさんやその叔父様が、神殿の目論みを止めてくれるだろう。だって、メリッサさんは私の友人で、その彼女が慕う叔父様もきっと立派な人なのだから。

「そ、そう。それなら、そんなおかしなことにはならな――」
「信じられないのも無理ないわ。でも、この計画が進んでいることは事実よ。それに、メリッサさんの叔父様は今、中央権力からは少し離れてしまってるの。彼が止めるのは無理ね。……彼が発案者でもない限り」

 私の甘い考えを、レイラ様がぴしゃりと否定した。私は泣きそうになりながら口を閉ざす。

「今なら国外に逃がして差し上げられるわ。あなたはどうなさいたい?」

 さらに打ちのめされる覚悟で続きを聞いていた私は、耳を疑った。
 レイラ様は一体、何を言っているのだろうか。
 もちろん死ぬのは怖いし、死ぬよりも辛い目になんてあいたくない。逃げられるものなら逃げ出したいとも思う――けど。

 私を逃がす? どうして?
 そんなの、レイラ様には何のメリットもないというのに。
 
「レ、レイラ様は騙されたって思ってないの? 私を、恨んでないの?」

 学院で、レイラ様が私から離れていってしまった理由は、本物のミュリエル様が見つかったときに納得した――と思っていた。偽物だとわかって、騙されたと思い、離れていったのだと理解していた。それなのに。

「騙そうとしていたわけではないのでしょう? なら気づけなかった方が悪いのよ。だいたい、誰があなたと一番長く一緒にいたと思ってるの? この私よ。殿下でもエイドリアン伯爵でもなく、この私なの。あなたがわざとこんなことしたんじゃないってことくらい知ってるわよ。私は立ち合いを許されなかったけれど――あの裁判は理不尽だった。あなたは責任を感じるんじゃなくて怒っていいのよ。あなたには怒る権利があるわ」
「でもミュリエル様は」
「そうね、ミュリエル様はミュリエル様で苦しんだから、だから彼女はああして怒ったし、訴えたのでしょう? それを否定はしないわ。でもそれとこれとは別よ。どうしてあなたが責任を感じなきゃいけないの? どうしてこんな扱いを受けなきゃいけないの? それとも、本当にあなたがわざとやったことだったの?」
「違う」
「でしょう? なら堂々となさい」

 レイラ様が立ち上がり、手を差し伸べる。私はそれに戸惑って、窺うようにレイラ様の顔を見上げた。


 
 
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