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Ⅵ 決断は遅きに失し
77. 私は信じない
しおりを挟む「それで、急にお話したいだなんて、ミュリエル様、どうされましたの?」
セーファス様のお姿が見えなくなると、メリッサさんが尋ねた。
なんて切り出せばいいんだろう。いざ口にしようとするとなかなか難しい。
牢屋の鉄格子が閉まる音を繰り返し聞く――なんて話して、またメリッサさんが離れていってしまったらと思うと怖い。けど、他になんて言えばいいかもわからなかった。
そもそもメリッサさんは、牢屋の鉄格子が閉まる音を聞いたことあるだろうか。真っ当な人ならば、一生聞かずに済むだろう音だと思えば、それだけで距離を取られてもおかしくない。
やっぱり止めようか。夜の安心感と引き換えに、昼の不安を抱えることになるんじゃ意味がない。
「ごめんなさい、やっぱりなんでもな――」
「ミュリエル様、やはり私では信用できませんか?」
私はハッとした。せっかくメリッサさんが勇気を出して話しかけてくれたのに、私がそれを否定するような行動をしていいのか。
それは駄目だ。私はもうメリッサさんを疑っていないと行動で示さねば。
「違うの。メリッサさんのことは信用してますわ。ただちょっと、なんて説明すればいいのかわからなくて。わかりにくいかもしれないけど、いいかしら」
「もちろんですわ」
「ええと、話したかったのは夢のことで……」
「夢?」
「あ、いえ、その夢……そう、夢うつつのときに、いつも同じ音が聞こえるとしたら、それって何か意味があるのだと思う?」
我ながら変なことを言っていると思う。けれど神妙な顔をしていたメリッサさんは、それを聞いてぱっと表情を明るくした。
「まぁ! ミュリエル様はそういったご経験がおありなのかしら。だとしたら素晴らしいことよ! 予知夢の才能があるってことですもの」
「え、予知夢!?」
「ええ。何でも昔の巫女様は予知夢を見ることができたそうで、その夢は実際に起こるまで何度も何度も繰り返されたそうよ。ですからきっとミュリエル様のそれもそうだわ。これはぜひ叔父様にご報告しなくては」
メリッサさんの家は神殿と縁が深いと聞いていた。メリッサさんのいう叔父様というのはおそらく神殿関係者なのだろう。
まずい流れだった。詳しく内容を尋ねられたら、ろくでもない夢だとバレてしまう。
「い、いえ、違うの。私のことではないわ。ええと……そう、以前、留学していたときにそんな話をしていた子がいて」
ミュリエルの家出が留学ということにされていたのを思い出し、慌ててそうごまかす。
「あら、そうでしたの。その方と今も連絡とってらっしゃるのかしら。予知夢は貴重な才能ですわよ? ぜひお捕まえになって」
「そ、そうなのね。最近は連絡を取ってませんの。連絡つくかはわからないけれど……試してみますわね」
答えながらも冷や汗が止まらなかった。自分の聞き方がいけなかった自覚はあるが、思わぬ方向に話が転がってしまった。
これでは今さら夢の内容を話すわけにもいかないだろう。連絡を取り合っているわけでもない友人が繰り返し聞くのが、牢屋の音だなんて説明したところで、どうして今頃と言われるに決まっているのだから。
結局、私は話せなかった。私は自分で思っている以上に臆病だったのかもしれない。
そして、メリッサさんが口にした予知夢という言葉。それは私に新たな不安をもたらした。
あの音が何かを暗示しているのかもしれないとは思っていた。けれど、あれを予知夢だなどと思ったことは一度もなかった。もしあれが予知夢なのだとしたら、いつか現実になるということだ。あれが実際に起こるだなんて、絶対にあってはならないことだった。
あれが予知夢だなんて――私は、絶対に信じない。
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