まさかのヒロイン!? 本当に私でいいんですか?

つつ

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Ⅷ 優しさ、たくさん

106. 新しくて新しい日々

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「乾物屋のおばちゃん、こんにちは」
「リアちゃん、よく来たね! 待ってたよ」
「ふふ、お待たせしました。それで、どれみればいい?」
「ああ、これだよ。これをお願い」
「ん、わかった」

 私は少し前から修理屋さんを始めていた。それで今は、繕い用の糸を買ったり、服や靴の布を買ったりできていた。採集や釣りに行かないと食事は賄いきれないけれど。
 幸い、この村では多少なりともお金が流通していたので、物々交換で目的のものを入手するために奔走する必要もなかった。以前いた村ではほとんどお金が流通していなかったから、欲しい物を手に入れるために何度も色々な人と物々交換しないといけなかったけれど。

 それはさておき、何の修理をしているかというと、実は神秘を使った器具だったりする。
 神秘を使った器具は、本来こういった貧しい村に存在することはないのだが、心優しい貴族様――確か、当時の領主の息子とか言っていた気がする――が、村の平民たちが神秘を使えないことも知らずに、かなりの数を寄付してくださっていたのだ。

 そう。村の誰も神秘を使えなかった。ついでにいうと、近隣の町でも使える人はほとんどいなくて、これまで売り払ってお金にすることもできず持てあまされていたのだ。
 そして、長い時をへてほとんどの物が壊れ、本当に誰も使えなくなってしまったのだ。――が、それを今、私がぼちぼちと修復している。

 誰も神秘を使えないのに何故と思うだろうが、その貴族様は意外と考えていたらしく、便利にする道具、というよりは、稼ぐための仕事道具、を置いていってくれていたのだ。
 それに気づいた私は、これはぜひ使うべきだと思った。神秘を使えないのなら、使えるようにすればいい、と。

 今年の冬は厳しかった。昨年の秋の収穫が、不作とまではいわないものの、あまりよくなく、冬を越すために、村の備蓄のすべてを費やすことになってしまったのだ。
 村にはお金が必要だった。今年が豊作にでもならない限り、この村の誰ひとりとして次の冬を越せないだろう。

 だから私は無理をしてでも、これらの神秘の器具を使えるようにすべきだと思った。この冬、まだ不審者でしかなかっただろう私を助け、一緒に冬を乗り越えられるようにしてくれた村人たちに恩返しをしたかった。

 冬の終わり。忙しくなる直前の村人たちを集めてもらい、私は器具の説明と神秘について教えた。私自身の神秘は封じられてしまっているため、実践して見せることはできなかったけれど――唯一壊れていなかった神秘の器具を使い、何度か教えていると、やがて、何人かの村人たちが使えるようになった。

 どうやら村人たちが神秘を使えなかったのは、単純に、誰からも使い方を教われていないからのようだった。メイズヤーンを持たないために、使えるほどの神秘が貯められなかったから、というのもあるが。

 壊れていなかったその神秘の器具は、土地を拓く道具――切り株や砂利も物ともせず、土を掘り起こせる、いわゆる強力な耕うん機だった。
 この辺りの土壌は硬く、これまで、鍬ではあまり掘り返せずにいた。耕すのが大事とわかっていても、ある程度の広さを作つけしておかなければ、売りに出せるだけの量を収穫できない。両方をこなすには時間が足りなかった。村人たちは例年、その葛藤に悩まされていたのだ。

 そんな悩みが、この神秘の器具一つで解決した。
 神秘の有用性に気づいた村人たちは、他の物も何とか直せないかと私に詰め寄った。

 神秘の器具は、修理にも神秘が必要だ。それも、初期で作る以上の技量が必要になるのが普通で――。


 得体のしれない私を受け入れてくれた村人たち。私はもっと役に立ちたかった。無理なことは百も承知で、修理に挑み――そして、私は修理屋さんになった。

 
 
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