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Ⅷ 優しさ、たくさん
107. 修理屋さん
しおりを挟む目の前に、私の胸ほどまでの高さのある、大きな箱がある。
一見するとただの箱。側面を開けることのできるただの入れ物だった。
けれど。
私は、意識して目に神秘を集める。
すると、そこにうっすらと光のように見える線が浮かび上がった。
そう、神秘だ。
私は体内の神秘回路を破壊され、封じられてしまったけれど、今も体内に神秘がまったくないわけではなかった。神秘を体外に放出させたり、全身を巡らせるなんてことはできない。けれど、顔に滞留している神秘を目に集める程度であれば可能だった。
今、私はそうやって神秘構成を見ている。
以前はこんなことしなくても見えていたと思えば不便さは半端ないが、この壊された私でも神秘構成が見えるのだと思えば、この結果は上々だろう。
「さて、始めよっか」
大きめの神秘器具なので、ちょっとだけドキドキしながら、見えた神秘構成を目でたどっていく。
構成は定型が三つ組み合わされたものだった。特に複雑な作りではなく、私でも読める。三つの内の一つが冷却の定型のようなので、これは冷蔵庫か。
最初にざっくりと、それから改めて丁寧に見ていく。記憶にある型と見比べながら、おかしなところがないかと見ていくと、いくつか型からはみ出ているように見える部分があった。おそらくここが故障個所だだろう。
左手でその部分の神秘に触れる。すると、すっと型からはみ出ていた部分が消えた。それは例えるなら、ティッシュでこぼれた水を吸ったかのような。
時間がたつとそこに神秘が戻ってきてしまうのか、また光って見えるようになるが、何度も触れて消すのを繰り返していると、やがてその部分が、退化した生き物の手足のように完全になくなる――光って見えなくなる。
私はいつも、そうやって修理をしていた。
この冷蔵庫らしき箱の故障個所はおよそ十。私ははみ出ている箇所がすべてなくなるまでそれを繰り返し――そして、大きく息をついた。
「お疲れ、リアちゃん。終わったかしらね」
「うん、今日はここまでかな。また明日、元に戻ってないか確認するよ」
「そうかい。じゃあ、休憩にしようか。ほら、こっちにいらっしゃい」
テーブルに用意されていたのは、野菜の酢漬けと白湯。私はありがたくいただくことにした。
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